法令・契約関連

2024年問題の解決策とは?物流業界への影響や課題をどう対策するか徹底解説

目次
  1. 2024年問題とは
  2. 物流の2024年問題の法改正のポイント
  3. 物流の2024年問題の影響・課題
  4. 物流の2024年問題の解決策・対策事例
  5. 拠点や倉庫の賃貸借契約の見直しは賃料適正診断が効果的
  6. 物流の2024年問題の解決策を参考に早めに対策しよう

働き方改革に伴う法改正は、物流業界に大きな影響を及ぼし、「物流の2024年問題」として知られています。運送会社の経営陣やマネージャークラスの方々は、以下のような悩みを抱えることが多いでしょう。

  • 物流の2024年問題における法改正の理解を深めたい
  • 物流の2024年問題の適切な対策を講じるための情報収集が難しい
  • チームと協力して最適な解決方法を導入するために、具体的な対策事例が欲しい

本記事では、物流の2024年問題に関する法改正のポイント、解決策、そして実際の対策事例について詳しく解説します。2024年問題への早めの対策に役立ててください。

2024年問題とは

2024年問題とは、2024年4月1日以降にトラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されるなどの法改正を起因とする問題を指します。法改正の背景には、サービス業などの慢性的な人手不足と長時間労働の是正を目指した働き方改革関連法の施行があります。

働き方改革関連法は、2019年に大企業、2020年に中小企業に適用され、物流業界には5年間の猶予が与えられていました。物流業界における猶予期間が終わることで、運送会社の利益減少やドライバー不足、輸送価格の高騰が予想され、業界全体での対策が急務となっています。

物流の2024年問題の法改正のポイント

物流の2024年問題の法改正におけるポイントは次の6つです。

それぞれのポイントを詳しく解説します。

ポイントその1:時間外労働時間の上限規制の変更

2024年4月1日から、長時間労働の是正を目的とし、自動車運転業務の時間外労働時間が制限されました。具体的には、原則として1ヶ月の時間外労働が45100時間を超えないよう調整し、年間で3960時間を超えないようにする必要があります。臨時的にこれを超える必要がある場合でも、月100時間以内、年間960時間以内に収めなければなりません。

時間外労働時間の規制は物流業界に大きな影響を与えるため、運送会社は早急に対応することが求められます。特に、ドライバー不足や運送コストの増加が懸念されており、効率化や労働環境の改善が必要とされています。

ポイントその2:時間外労働の割増賃金率の引き上げ

働き方改革関連法により、2023年4月1日から中小企業にも時間外労働が月60時間を超えた場合、50%以上の割増賃金の支払い義務が適用されました。以前は、中小企業は25%の割増賃金率が適用されていましたが、大企業と同じく50%に引き上げられています。

長時間労働が常態化している物流業界では、人件費が増加する可能性があるため、早急な対策が必要となる場合があります。加えて、インフレや原油価格の高騰も相まって、中小企業の経営にさらなる負担がかかることが予想されるでしょう。

ポイントその3:年次有給休暇の取得義務付け

年次有給休暇の取得義務が導入され、年休付与日数が10日以上のドライバー(自動車運転業務従事者)は、少なくとも5日以上の取得が義務付けられました。年次有給休暇の取得義務化は従業員の健康維持と労働環境の改善を目的としています。

年次有給休暇の取得義務化は2019年4月1日から適用されており、使用者は就業規則も記載が必要です。企業には労務管理の徹底が求められるため、有給休暇の取得を考慮した勤務シフトの組み立てが必要となる場合があります。ドライバーが確実に有給休暇を取得できるようにし、働きやすい環境を整えることが求められるでしょう。

ポイントその4:労働時間の適正把握義務付け

労働時間の適正把握が義務付けられ、すべての企業はタイムカードなどの客観的な方法で従業員の労働時間を管理する必要があります。時間外労働が一定時間を超えた場合、従業員の申し出に応じて医師の面接指導を受けさせる義務も生じる場合があります。

労働時間の適正把握は、労働環境の改善に不可欠な取り組みで、企業には厳格な労務管理が求められるようになりました。

ポイントその5:勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度は、前日の終業時刻と翌日の出社までに一定時間以上の休息時間を確保する仕組みです。従業員の生活時間や睡眠時間を保証し、過労を防ぐことを目的としています。2019年4月1日から運送業に導入され、2024年4月からは「継続11時間以上を基本とし、9時間を下回らない」と改正されました。

勤務間インターバル制度の導入により、労働時間の短縮や人員配置の見直しが必要となり、労働環境の改善を図ることが求められています。

ポイントその6:同一労働・同一賃金の適用

同一労働・同一賃金は、正規雇用と非正規雇用の労働者間の不合理な待遇差を解消する制度です。大企業には2020年4月、中小企業には2021年4月から適用されています。

非正規雇用のドライバーの給与や評価基準を正規雇用者と同等にすることが求められるようになりました。物流業界も対象となり、企業は同一労働・同一賃金の決まりを遵守し、公平な労働環境を整える必要があります。

物流の2024年問題の影響・課題

物流の2024年問題は特に運送会社への影響が大きいことが予想されます。運送会社への影響に伴い、荷主や一般消費者にも波及するでしょう。それぞれの影響や社会課題について詳しく解説します。

影響その1:運送会社

2024年問題は運送会社に多大な影響を及ぼします。運送業はドライバーの稼働時間が長ければ長いほど収益が上がるため、稼働時間が減ることで直接的に売上に影響が出るでしょう。さらに、労働時間の制限によりドライバーの収入も減少するため、他業種への転職が増加し、ドライバー不足が一層深刻化する可能性もあります。

勤務間インターバル制度の導入により、ドライバーが前日の仕事終了から翌日の勤務開始まで一定の休息時間を確保する必要があるため、長距離輸送が難しくなります。対応するためには、運送会社は労働時間や人員配置の見直しが必要となり、さらなるコスト増加が避けられないでしょう。     

影響その2:荷主 

2024年問題は荷主にも大きな影響を及ぼします。運送業者において、ドライバーの稼働時間制限と人手不足により、輸送リソースが減少し、配送コストが高騰する可能性が高いからです。

ネットショッピングの普及で輸送ニーズが増加している一方、輸送能力が追いつかない状況では運賃の上昇は避けられないでしょう。特に、手作業での荷積み・荷下ろしが必要な貨物や長距離輸送では、運送会社から敬遠される可能性があります。

荷主は物流コストの増加に直面し、負担をどう軽減するかが課題です。効率的な物流管理や代替手段の検討など、荷主側も解決策を講じる必要があります。

影響その3:一般消費者

2024年問題は、一般消費者にも影響を及ぼします。ドライバーの稼働時間制限と人手不足により、翌日配送や時間指定サービスなどの継続が困難になる場合もあります。再配達の有料化や配送料の増加が予想され、最終商品の価格にも影響が出る可能性も想定しておかなければなりません。

物流の停滞が進むと、特定の商品が一時的に市場から消えることもあり得るでしょう。特に、地方に住む消費者にとっては、物資の確保が難しくなり、日常生活に支障をきたします。2024年問題は消費者にとっても深刻な課題となり、早急な対策が求められます。

物流の2024年問題の解決策・対策事例

物流の2024年問題の解決策として次の8つを企業の対策事例も交えながら紹介します。

それぞれの解決策を見ていきましょう。

解決策その1:労働環境を改善する

2024年問題に対する解決策としては、労働環境を改善し、働きやすい職場を作ることが重要です。労働環境が良くない場合、新たなドライバーが増えないだけでなく、既存のドライバーも辞めてしまう可能性が高まります。

具体的な対策としては、賃金アップや有給休暇の取得促進、福利厚生制度の充実などが挙げられます。労働時間や業務負担の見直しを通じて、1人当たりの労働量を減少させることも重要です。労働環境を整備することは、ドライバーの定着率が向上し、新たなドライバーの採用も容易になり、人手不足の解消に繋がります

解決策その2:輸送・配送方法を見直す

2024年問題に対処するためには、輸送・配送方法の見直しが重要です。労働時間や勤務体系の変化に伴い、従来のやり方では対応しきれなくなるため、早めの改善と適応が求められます。

具体的な解決策として、以下の4つの方法があります。

  • モーダルシフト
  • 中継輸送
  • リレー運送
  • ミルクラン方式

モーダルシフトは、トラック輸送から鉄道や船舶に切り替えることで輸送効率を高める方法です。中継輸送は長距離輸送の途中でドライバーが交代する方式で、1人のドライバーの拘束時間を短縮できます。

リレー運送は、ドライバーの負担を軽減するために、1つの輸送業務を複数のドライバーが交代で担当する方法です。ミルクラン方式は、1つのトラックが複数の荷物を一度に配送することで効率的な運送を実現します。

以上の方法を導入することで、時間外労働の上限規制や勤務間インターバル制度の影響を最小限に抑えつつ、労働環境の改善が図れるでしょう。

【事例】モーダルシフトに資する共同物流拠点の整備

A卸売市場では、青果卸売業者が中継共同物流拠点を整備し、全農が中継事業を実施しています。各県の荷物を集約し、大ロットでの輸送や鉄道・船舶へのモーダルシフトを推進しています。

具体的には、約1,000kmを船舶輸送にモーダルシフトすることで、トラックドライバーの運転時間を平均27時間から4時間に大幅削減することに成功しました。

参考:物流2024年問題に対応した先行事例について|大臣官房新事業・食品産業部(令和6年1月18日)

解決策その3:共同配送を導入する

2024年問題に対応するためには、共同配送の導入が有効です。

共同配送とは、複数の荷主が荷物をまとめて輸送することで、トラックの積載率を向上させ、効率的な輸送を実現する方法です。ドライバーの労働負担を軽減し、輸送コストの削減が期待できます。特に中ロット貨物の取り扱いにおいては、共同配送が有効です。

共同配送を利用することで、他社の荷物と混載し、積載率を向上できます。条件の合う荷主企業を集め、各社の納品条件を調整することが重要です。 

【事例】共同輸送による幹線出荷便の削減

B経済連では、複数のJAの荷物を集約し、市場に出荷する共同輸送を実施しています。各JAの荷物を集約し、大ロットでの輸送を実現することで、幹線出荷便の削減に成功しました。

各JAがそれぞれ出荷するよりも、幹線便数が3〜4台減少し、積載率が10〜18%向上しています。共同配送の導入は、労働環境の改善と輸送効率の向上を同時に実現するための有効な手段です。

参考:物流2024年問題に対応した先行事例について|大臣官房新事業・食品産業部(令和6年1月18日)

解決策その4:積載効率を改善する

積載効率の改善は、2024年問題に対する解決策の1つです。積載効率とは、トラックの許容積載量に対して実際に積載している貨物の割合を示します。積載効率が低い場合、トラックの空きスペースが多く、無駄な運行が増えるため、人的コストやエネルギーコストが高くなります

積載効率を向上させるためには、適切な積載量を見極め、空きスペースを最小限に抑える工夫が必要です。例えば、共同配送や積み合わせ貸切を活用し、他社の荷物と混載することで積載率を向上させる方法があります。配送計画の見直しやトラックの配置の最適化も重要です。

【事例】遠隔2市場間での小ロット品目の大型トレーラー混載便による交流

C卸売市場とD市場の青果卸売業者が連携し、両市場間で小ロット品目の青果物を大型トレーラーで混載する取り組みを行っています。小ロット品目は単独では大型トラック1台分になりにくく、遠隔地域への配送が難しいのが一般的です。

事例の取り組みでは、11型パレットを最大22枚積載可能な大型トレーラーを利用し、週に2〜3往復の荷のやり取りを実施しています。混載により積載効率を高め、小ロット品目の輸送が容易になります

参考:物流2024年問題に対応した先行事例について|大臣官房新事業・食品産業部(令和6年1月18日)

解決策その5:DX化により業務を効率化する

2024年問題の解決策として、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化が挙げられます。AIやIoTを活用し、従来の属人的な業務を効率化し、トラックドライバーの負担を軽減できる可能性があります。

具体的には、自動車配車支援システムやデジタルタコグラフの導入が効果的です。積載率や車両運行時間を最適化し、効率的な配送計画を立てることが可能です。

さらに、倉庫内物流の自動化も進んでおり、ピッキングや荷積作業を自動化するロボットの導入が始まっています。ピッキングの自動化により、労働時間を短縮し、業務効率の向上が期待できます。

解決策その6:物流拠点を分散化する

物流拠点の分散化は、2024年問題に対処するための有効な手段です。複数の拠点や倉庫を設置し、配送先に近い場所から荷物を出荷することで、ドライバーの拘束時間を削減し、運行距離を短縮できます。

物流拠点の分散化により、配送コストの削減と配送日数の短縮が期待できます。拠点を増やすことで管理費用や横持ち費用が増加するため、コストと品質、納期(QCD)のバランスを考慮した戦略的な判断が必要です。物流ネットワークや在庫配置の見直しも求められます。

解決策その7:コスト削減を徹底する

2024年問題に直面する物流業界では、運行時間の制約や労働時間の規制が厳しくなる中、より一層コスト管理の徹底が求められます。コスト削減を行う際、コスト削減しやすい項目としにくい項目があることを考慮する必要があります。

消耗品費や水道光熱費などは比較的削減しやすい項目です。一般に賃料は減額が難しいとされていますが、周辺の賃料相場を把握し、適切な賃貸借契約を交渉によって減額できる場合があります。賃料は毎月発生する比較的大きな費用なので、減額できればコスト削減にも大きく貢献できるでしょう。

一方、人件費の削減は従業員のモチベーション低下に繋がるため、極力避けた方が良いでしょう。従業員のやる気が失われると、生産性が低下し、長期的な利益にも悪影響を与えます。

コスト削減のアイデアに興味がある方は次の記事を参考にしてください。工事・製造業のコスト削減の事例を紹介していますが、多くは物流業界にも応用できるでしょう。

工場・製造業でコスト削減するアイデアとは?人件費や賃料を削減するポイントも解説
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解決策その8:ガイドラインを参考に施策を行う

2024年問題に対する解決策の1つは、政府や食品メーカーが策定したガイドラインを参考にして施策を実施することです。

経済産業省は「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しており、活用することで効率的な労働環境の改善が期待できます。

また、国土交通省が公表している「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を参考にすることで、有効な対策を立てることが可能です。物流現場で発生する具体的な課題ごとに対策案が示されています。

さらに、複数の加工食品メーカーが参画している「加工食品分野における外装サイズ標準化協議会」が定めた「加工食品分野における外装サイズガイドライン」も参考になります。

拠点や倉庫の賃貸借契約の見直しは賃料適正診断が効果的

物流拠点や倉庫の賃貸借契約の見直しには、賃料適正診断が効果的な場合があります。適正な賃料を見極めることで、無駄なコストを削減し、経営効率化が図れるでしょう。

例えば、全国展開するホームセンター企業がビズキューブ・コンサルティングの賃料適正化コンサルティングサービスを利用した事例があります。複数の賃貸人家主との再契約業務をアウトソースすることで、交渉の手間を軽減し、大きなトラブルなく納得のいく再契約を実現しました。

物流拠点や倉庫の賃貸借契約の見直しや新たに契約する場合、専門的なサービスを活用することは有効な手段となる場合があります。複数拠点の賃貸借契約の見直しに興味のある方は次の記事を参考にしてください。

>>【再契約サポート】再契約更新の時間短縮!トラブルなく意向を汲んだ再契約の締結ができました

物流の2024年問題の解決策を参考に早めに対策しよう

2024年問題は、運送会社、荷主、そして一般消費者に大きな影響を及ぼすことが予想されるため、物流業界においては早めの対策が必要です。

本記事では、2024年問題に関連する法改正のポイントや具体的な解決策、対策事例を詳しく解説しました。労働環境の見直しや物流の輸送効率改善が求められ、同時にコスト削減の努力も必要です。紹介した解決策を参考に、早めの対策を講じましょう。

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【監修者】幸谷 泰造(弁護士)

東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。