法令・契約関連
建設業の2024年問題とは?人手不足と働き方改革への対策を解説
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2024年問題は、建設業界に限った話ではありません。日本社会全体が抱える、少子高齢化による労働力不足と、長時間労働の是正を目的とした働き方改革の推進という、二つの大きな波によって引き起こされる、構造的な問題です。
建設業界の現状
建設業界においては、高齢化による熟練技能者の引退が相次ぐ一方で、若年層の入職は少なく、深刻な人手不足に陥ることが懸念されています。
建設業就業者は、2023年には55歳以上が約36%、29歳以下が約12%となり、全産業と比べ高齢化が著しく高くなっています。建設業の生産体制を将来にわたって維持していくためには、若年者の入職促進と定着による世代交代が不可欠です。
建設業入職・離職者数の推移は 、2000年代前半までは離職者数が入職者数を大幅に上回っていましたが、2012年以降2021年までは逆に入職者が多くなりました。しかし、2022年以降は再び離職者数が入職者数を上回っています。
参照:建設業デジタルハンドブック(一般社団法人日本建設業連合会)
加えて、2024年4月からは、時間外労働の上限規制が強化されるため、従来通りの働き方では、工期の遅延や事業の採算性悪化などが避けられない状況となっています。
建設業の2024年問題・法改正のポイント
2024年4月からは、働き方改革関連法の施行によって、建設業を含む運輸業などの業種において、時間外労働の上限規制が強化されます。具体的には、時間外労働は原則として月45時間かつ年360時間以内となります。特別な事情がある場合でも、年間の時間外労働は720時間以内かつ月100時間未満(休日労働を含む)とされています。さらに、週休二日制の導入も義務化され、少なくとも年に1回は、労働者に連続した2週間の休暇を取得させることが求められます。
また、違反企業に対しては、6か月以下の懲役刑または30万円以下の罰金が科せられるなど、罰則も強化されます。
「時間外労働」と「週休二日制」の導入は、建設業において大きな変化をもたらします。まず、時間外労働の制限は、長時間労働が常態化していた現場に労働時間の見直しを強制します。これにより、プロジェクトのスケジュール管理をより厳格にする必要があります。人手不足が深刻な中での効率的な作業工程の計画が求められ、労働生産性向上のための技術革新や自動化が進む可能性が高まります。
一方で、週休二日制の導入は、労働者の休息を確保することで過労による事故のリスクを低減させ、健康的な職場環境を促進します。ただし、これもまた、従来の施工スケジュールを再評価する要素となります。例えば、作業期間の延長や人員配置の再検討が必要となり、短期間での集中的な作業が難しくなります。それにより、建設業特有の季節による工期の影響を受けやすくなるため、さらなる柔軟な計画と管理が求められます。これらの変化は、業界における働き方そのものを大きく変革する契機となるでしょう。
建設業の2024年問題による影響・課題
2024年問題は、建設業界にさまざまな影響と課題をもたらすと予想されます。主な影響としては、以下の3点が挙げられます。
1. 人材不足の深刻化
建設業界では、これまで長時間労働が常態化しており、若年層にとって魅力的な職場とは言えない状況でした。2024年問題によって労働時間削減が進むことは、労働環境の改善につながり、若年層の入職促進効果も期待できます。
一方で、人材不足がより深刻化する可能性も懸念されています。熟練技能者の大量退職期に差し掛かる中、若年層の確保が急務となりますが、他業界との競争も激化しており、優秀な人材を獲得するためには、処遇改善や働きがいのある職場づくりなど、抜本的な改革が求められます。
2.コスト増加への対応
時間外労働の削減は、人件費の増加に直結します。 時間外労働が制限されると、その分工期完了までの日数が増加するからです。特に、建設業界は労務費が大きな割合を占めるため、その影響は計り知れません。また、週休二日制の導入も工期延長につながるため、コスト増加の要因となります。
受注競争が激化する中、これらのコスト増加分をどのように吸収していくかが、大きな課題となります。受注価格への転嫁が難しい場合は、生産性向上によるコスト削減や、業務効率化による工期短縮など、企業努力による自助努力が不可欠となります。
3.競争激化と企業淘汰
2024年問題への対応が遅れる企業は、人材確保が困難になり、受注競争から脱落する可能性もあります。結果として、企業の倒産や業界再編が加速する可能性も懸念されます。
生き残りをかけて、企業は生産性向上や業務効率化、働き方改革など、抜本的な改革に取り組む必要に迫られています。競争が激化する一方で、新たなビジネスチャンスも生まれてくる可能性もあり、変化への対応が企業の明暗を分けることになるでしょう。
建設業の2024年問題の解決策・対策事例
2024年問題は、決して乗り越えられない壁ではありません。建設業界全体で課題を共有し、未来を見据えた取り組みを進めることで、ピンチをチャンスに変えることも可能です。ここでは、具体的な解決策と対策事例を紹介します。
1.ICT活用による業務効率化
建設現場では、測量、設計、施工管理など、さまざまな工程でICT(情報通信技術)の活用が進んでいます。ドローンによる測量、BIM/CIMによる設計・施工管理、3Dプリンターによる建材製造など、ICT導入による業務効率化・省人化は人手不足解消の切り札となります。
例えば、ドローン測量を導入することで、従来は数日かかっていた測量作業が、わずか数時間で完了するケースもあります。また、BIM/CIMを活用すれば、設計段階で施工のシミュレーションが行えるため、手戻りや無駄な作業を減らせます。
【実際の事例紹介】ドローン・スキャナーを活用した3次元測量による生産性向上の取り組み
石川建設株式会社(群馬県太田市)では、生産性向上を目的に、ドローンやレーザースキャナーを使用した起工測量や土量算出を実施しています。この取り組みにより、業務効率化を図るとともに、3次元点群データを3次元CADソフト(TREND-CORE)に連携させ、施工現場の危険箇所を「見える化」することで、安全性の向上にも役立てています。
背景
広範囲な測量では、多くの人員や時間と外部委託費用が必要でした。この課題解決のために、ドローンやスキャナーを導入し、人員削減や時間短縮、コスト削減を図る必要がありました。
効果
- 作業時間と手間の削減
ドローン・スキャナーを活用した3次元測量により、土量算出作業が従来と比べて約4割短縮されました。また、一度測量を行えば、任意の箇所で座標を確認できるようになり、さらなる効率化が実現しました。
工夫した点
- 社内勉強会の実施
IT機器やデータ処理ソフトに詳しい社員を中心に作業を進め、不慣れな社員には社内勉強会を開いて技術共有を行い、全体の理解を深めました。
これらの取り組みを通じて、生産性向上だけでなく、安全性の向上やコスト削減も実現しています。
・生産性向上による時間短縮
時間外労働を削減するためには、限られた時間内で、いかに効率的に作業を進めるかが重要となります。施工方法の見直し、工程管理の徹底、標準化による作業効率向上など、さまざまな取り組みが考えられます。例えば、プレハブ工法やユニット工法の導入により現場での作業を減らし、工期短縮につなげることができます。また、タクトタイム管理を導入すれば、各工程の作業時間を「見える化」し、ボトルネックの解消や作業の平準化を図ることができます。
・働き方改革による人材確保
若年層にとって魅力的な職場づくりのため、長時間労働の是正、休暇取得の推奨など、働き方改革を進めることが重要です。週休二日制の導入、フレックスタイム制の導入、テレワークの導入など、柔軟な働き方を取り入れることで、ワークライフバランスを実現し、従業員の満足度向上、優秀な人材の確保、定着率の向上を目指します。
【実際の事例紹介】勤務形態や処遇の改善による生産性向上の取り組み
伊藤組土建株式会社(北海道札幌市)では、長時間労働の是正や職員の働きやすさ向上を目指し、クラウド型勤怠管理システムや有給休暇の計画付与を導入し、週休2日制やシフト勤務、時間制有給休暇を推進しています。また、処遇の改善にも取り組み、採用活動にも好影響を与えています。
背景
- 労働時間管理
法令に基づく時間外労働の上限規制や有給休暇取得の義務化への対応。 - 勤務形態改善
労働時間の短縮や職員定着、新卒採用条件の向上を目指した取り組み。 - 新規採用
人材確保と育成を企業経営の重要課題と認識し、積極的に対応。 - 処遇の改善
職員のモチベーション向上と福利厚生の充実を意識。
効果
- 労働時間縮減と有給取得率向上
有給休暇取得率が令和1年の56.3%から令和3年には67.9%に増加。 - ワークライフバランスの実現
職員の働きやすさが向上し、良好なバランスを実現。 - 新卒採用への好影響
勤務形態や処遇の改善が、新卒採用に好循環をもたらしている。
工夫した点
- 休暇取得への意識改革
旧来の働き方から脱却し、業務効率化や休日確保を促進。意識変革を重視した。 - 外国人技術者へのサポート
ベトナム人技術者を採用し、入社後の待遇を国内人材と同等に設定。日本語学習を含めたサポート体制を整備。
これらの取り組みにより、生産性向上だけでなく、職員の働きやすさや採用環境の改善にも成功しています。
参照:建設業における働き方改革推進のための 事例集(国土交通省不動産・建設経済局建設業課 )
建設業の2024年問題の解決策を参考に早めに対策しよう
建設業は、社会インフラの整備や人々の暮らしを支える、非常に重要な役割を担っています。2024年問題を乗り越え、持続可能な業界へと発展していくために、建設業界全体で力を合わせ、未来を切り拓いていきましょう。
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