コスト関連

人件費削減を実現するには?主な手法と適正コストを知るための指標

目次
  1. 店舗ビジネスにおける人件費削減の重要性
  2. 給与カットやリストラに頼らない人件費削減の主な方法
  3. 適正な人件費を見極めるための2つの指標
  4. 人件費削減に取り組むメリットとリスク
  5. 人件費削減を成功させるポイント
  6. 人件費削減の注意点を理解し、効果的に経費削減を

店舗経営の経費がかさみ、十分な利益をあげられない場合は、人件費を見直してみましょう。人件費は経費の大部分を占め、店舗ビジネスで重視すべき項目の一つです。その一方で、従業員のモチベーションとも関係するため、コストカットの施策では慎重さも求められます。

今回は、店舗ビジネスで人件費削減を実現するための基礎知識をお伝えします。主な手法や適正コストの目安についても解説するため、店舗経営者の方はぜひ参考にしてください。

店舗ビジネスにおける人件費削減の重要性

店舗運営は、お店で働くスタッフの存在なしでは実現できません。その一方で、人件費は数ある経費の中でも費用が高額な傾向にあり、多くの店舗で人件費削減が課題となっています。まずは、店舗ビジネスにおける人件費削減の必要性を解説します。

店舗ビジネスにおける人件費とは

そもそも人件費とは、店舗運営における経費の中でも人材に関わる費用全般を指します。一般的に広く認知されている従業員への給与だけでなく、人材採用や人材育成などにかかる費用も人件費の一つです。主な人件費の種類として、「給与手当」「福利厚生費」「退職金」「採用・育成にかかる費用」などが挙げられます。このうち給与手当に含まれるのは、給与の基本となる「基本給」、残業代にあたる「時間外手当(残業手当)」、会社の業績に応じて支払われる「賞与(ボーナス)」などです。また、福利厚生費には、「社会保険料」や「労働保険料」のほか、社員旅行費用などが含まれます。雇用や社員研修で発生するコストも、採用・育成にかかる費用として人件費と見なされます。人件費の範囲は広く、経費の中でも大部分を占めるのが特徴です。店舗ビジネスで特に重視すべき項目とされています。

店舗ビジネスでの人件費削減の目的

人件費削減は、店舗の利益向上が主な目的です。そのため、単に人件費を削減しても、結果として利益の向上につながらなければ、目標を達成したことにはなりません。そこで注意しておきたいのが、労働者の給与カットやリストラに頼った、安易な人件費削減です。これらは一般的に、積極的に行うべき手法とは見なされていません。その理由は、従業員のモチベーション低下を招くおそれがあるためです。離職者が一気に増えれば、店舗の存続にも影響を与えかねません。店舗スタッフのモチベーションは、サービス品質といったビジネスの価値にも直結しやすい部分です。たとえ一時的に経営状況が改善したように見えたとしても、長期的な観点では店舗の利益向上は期待しにくいでしょう。こうした背景から、給与カットやリストラ以外で人件費削減を実現する施策が求められています。

給与カットやリストラに頼らない人件費削減の主な方法

前述の通り、人件費削減を目的とした給与カットやリストラには多くのデメリットがあります。そこで、ここでは人件費削減へ向けた別の取り組み方をご紹介します。現状の仕事の進め方や仕組みを見直し、人件費の無駄を抑制しましょう。

シフト管理を徹底する

シフト管理は、人件費をコントロールする上で重要な業務です。業務に必要な人数を見極めて的確に配置することで、人件費の無駄を削減できるようになります。特に、飲食店をはじめとした店舗ビジネスでは、曜日や時間帯により混雑具合が変動するケースが多いのが特徴です。閑散期で人手が余る時期は、シフトの組み方によって無駄なコストが生じているかもしれません。客足の変化へ柔軟に対応するためにも、シフトの計画を作成したら実施後に必ず振り返りを行い、改善を繰り返すことが重要です。

スタッフの労働生産性を高めて残業を減らす

店舗業務の見直しを行い、より効率的な働き方へと改善する方法です。日常的に従業員の残業が発生している職場では、残業中の人件費や電気代が抑えられるだけでなく、スタッフの心身の負担を減らすことにもつながります。その際は、特定の社員へ仕事が集中するのを避けて、業務を標準化するのがポイントです。一人ひとりの業務量を可視化するとともに、業務マニュアルの作成や社員研修の実施によって、全体のスキルの底上げに取り組みましょう。

スタッフが定着しやすい職場づくりに取り組む

店舗で採用したスタッフが定着し、一人ひとりが長く働き続けられるようになると、結果として人件費削減を実現できます。人材が定着することで、人材採用や人材教育にかかる費用を抑えられるためです。スタッフの定着を促すには、コミュニケーションを活性化させる対策が有効とされます。仕事上の不安や疑問を周囲へ気軽に相談できる人間関係があると理想的です。また、個人の能力を適切に評価し、報酬に反映させることで、仕事のやりがいや達成感を得られる環境を整えましょう。

ITツールやアウトソーシングを活用する

ITツールやアウトソーシングの活用により、既存の業務を自動化したり、社外の専門家に任せたりする選択肢もあります。昨今では、オフィスのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進へ取り組む企業が多く、店舗ビジネスにおいても業務上の問題を解決するデジタルツールが登場しています。飲食店向けの事例としては、予約管理システムや顧客管理システムのほか、店舗運営を効率化するシフト管理システムなどが代表的です。また、新型コロナウイルス感染対策として、キャッシュレス決済の導入も進んでいます。

適正な人件費を見極めるための2つの指標

適正な人件費を見極める際に重要な指標として、「人件費率」と「労働分配率」の2つをご紹介します。いずれも店舗の現状を把握するのに役立つ指標です。以下の手順で計算し、検証してみてください。

人件費率

人件費率の意味と適正値
人件費率とは、店舗の売上高に占める人件費の割合のことです。ただし、原材料費などの仕入れ原価による影響を受けるため、業界によって適正な数値が異なります。以下の業界別の人件費率の目安を、現状の数値と比較してみましょう。
* 飲食業の場合:30~40%
* サービス業の場合:40~60%
* 小売業の場合:10~30%
人件費率の計算方法
人件費率は、「人件費率(%)=人件費÷売上高×100」の計算式で算出できます。ここでは、人件費が30万円、売上高が100万円のケースでシミュレーションを行います。上記の場合、人件費率は30万円÷100万円×100=30%です。

労働分配率

労働分配率の意味と適正値
労働分配率とは、企業の付加価値(粗利益)を人件費として分配した割合のことです。適正値は企業の規模によって異なるため、以下のうち該当する数値と比較してみてください。
* 大企業の場合:50%前後
* 中小企業の場合:70~80%
労働分配率の計算方法
労働分配率は、「労働分配率(%)=人件費÷付加価値(粗利益)×100」の計算式で算出できます。ここでは、人件費が35万円、売上高が100万円、売上原価が50万のケースでシミュレーションを行います。まず、粗利益は100万円-50万円=50万円です。労働分配率は35万円÷50万円×100=70%となります。

人件費削減に取り組むメリットとリスク

店舗ビジネスで人件費削減に取り組むと、経営者は以下のメリットを期待できます。一方で、人件費削減にともなうリスクを理解しておくことも必要です。こちらでは、人件費削減のメリットとリスクを併せてご紹介します。

人件費削減に取り組むメリット

経営状態の改善につながる
人件費削減へ取り組むと、適切なシフト管理やスタッフの労働生産性向上にともない、無駄な人件費を抑えられるようになります。また、業務内容を見直すことで、店舗の様々なコスト削減を推進しやすくなるでしょう。人件費に加えて、光熱水道費や日用品費なども削減できる可能性があります。
金融機関からの評価が高まりやすい
店舗の経営状況が改善すれば、金融機関からの評価が高まるとの見方もあります。金融機関との信頼関係を構築できれば、将来的な出店や設備投資の際、融資を受けやすくなる可能性もあるでしょう。金銭的な支援が期待できる点は、経営におけるメリットが大きいといえます。
浮いたコストを有効活用できる
これまでの店舗運営で生じていた無駄を減らせば、その分だけ浮いたコストを有効活用できるようになります。サービスを充実させて顧客へ還元すれば、より豊かな価値を提供可能です。売上向上につながる投資を行うなど、ビジネスの成長に寄与する活用方法もあります。

人件費削減で懸念されるリスク

離職者の増加
人件費削減の施策に失敗すると、従業員の離職を引き起こしかねません。単なる減給とならないよう、削減方法は慎重に検討する必要があります。場合によっては、店舗運営において重要な役割を担う戦力を失う危険性も。特に、売上に貢献するスタッフや、業務に精通したベテランスタッフの離職は避けなければなりません。チームの士気が下がったり、サービス品質が低下したりするおそれがあります。店舗を利用するお客様のためにも、現場の意見を尊重することが大切です。
職場の人手不足
国内では少子高齢化にともなう労働人口の減少などを背景に、飲食店をはじめとした多くの店舗ビジネスが深刻な人手不足に見舞われています。人材確保の競争が激しいエリアでは、求人募集をかけても働き手がなかなか見つからないケースも少なくありません。こうした状況から、人件費削減により待遇面で魅力を感じられない職場は、競合他社との競争に勝てず、慢性的な人手不足に陥る危険性があります。店舗に必要な人材を確保できないリスクに注意が必要です。
企業イメージの悪化
人件費削減の施策は、企業イメージにも影響を与える可能性があります。多くの消費者から選ばれる店舗になるためには、企業イメージの向上が不可欠です。また、企業イメージが良好な店舗は利用されやすいだけでなく、採用において意欲的な人材を集めるうえでも有利になります。さらには、既存の従業員の満足度を高め、組織に定着させる効果も期待できます。従業員が納得しにくい形で人件費削減を行えば、企業イメージが悪化し、こうした店舗の利益が損なわれるおそれがあるのです。

人件費削減を成功させるポイント

店舗の人件費削減を成功させるには、施策の導入時に適切なステップを踏み、一定の時間をかけて取り組み続けるのがコツといえます。最後に、人件費削減を成功させる具体的なポイントをお伝えします。

スタッフの業務負担を考慮する

必要以上の人員削減を行うと、スタッフの業務負担が過剰になりやすいといえます。不足した人員を補うために労働時間が延びれば、長時間労働によりスタッフを疲弊させるため注意が必要です。残業や休日出勤の増加は、通常の賃金に時間外手当が加算されることから、人件費削減の観点でも好ましくありません。人員削減を行う場合は、スタッフの業務負担を軽減する施策を併せて実施するなど、対策を講じると良いでしょう。

施策は段階的に取り入れる

人件費削減のために新たな施策を実施する場合は、様子を見ながら段階的に取り入れるようおすすめします。特に、店舗運営に新規でITツールを導入する際は、小規模から始める「スモールスタート」を意識しましょう。ITツールの導入と同時に全体の業務フローを一気に変更するなど、大規模に展開するとトラブル発生時のフォローの負担が大きく、対策や改善が遅れるおそれがあります。まずはツールの基本的な機能から展開し、徐々に範囲を拡大していくと安心です。

コンサルティングサービスを活用する

自社で対策を講じても人件費削減の実現が難しいなら、店舗経営の専門家が提供するコンサルティングサービスを活用してはいかがでしょうか。店舗の業態に適した人件費削減のアイデアや、現状の経営で改善するべきポイントなど、プロの視点からアドバイスを受けられます。場合によっては、人件費以外に課題が見つかるかもしれません。その際は、多数の店舗経営を改善へ導いた実績のある、信頼できるコンサルティングサービスを選びましょう。

人件費以外の固定費削減を先に行う

人件費削減に取り組む前に、まずは人件費以外の固定費を削減に取り組むことも重要です。そうすることで、人件費削減に対する従業員の理解を得られやすくなります。また、従業員の協力を得るためにも、利益をあげて給与アップにつなげるなど、従業員にもメリットと感じられるような目的を掲げてコスト削減案を立てることが重要です。

店舗の固定費削減を行うには?費目別の目安とポイント、注意点
店舗の固定費削減を行うには?費目別の目安とポイント、注意点

人件費削減の注意点を理解し、効果的に経費削減を

今回は、店舗ビジネスの人件費削減について解説しました。店舗運営において人材は重要な経営資源の一つです。そのため、従業員にかける負担が大きい給与カットや解雇による人件費削減は、基本的におすすめできません。本記事でお伝えしたように、シフト管理の徹底や労働生産性の向上といった、業務効率の改善による人件費削減をご検討ください。

また人件費の削減には、従業員の負荷が高まり離職を招いたり、サービス品質が低下したりしてしまうリスクも存在しています。人件費のみにこだわるのではなく、経営に関わる様々なコストを削減できないか、多角的に検討することが大切です。特に、固定費の大きな割合を占める「家賃」の見直しは非常に重要といえます。ビズキューブ・コンサルティングでは、賃料相場の豊富なデータから、今の賃料が適正か、減額する余地がないかなどをサポートする「賃料適正化コンサルティング」をご提供しております。お気軽にご相談ください。