薬局業界が大きな変革期を迎える中、経営者も多くの課題に直面しています。特に、経費の上昇が経営を圧迫し、新店舗の展開や経営の安定化に向けた資金確保が重要なテーマとなっています。本記事では、薬局経営の現状と課題について詳しく解説し、コスト削減のための具体的な方法をご紹介します。

薬局経営の現状と課題

2020年以降、薬局業界は多くの変化に直面しています。新型コロナウイルスのパンデミックにより、消費者の医薬品に対する需要が大きく変動し、オンライン診療の普及も進みました。これにより、薬局が提供するサービスの形態にも大きな影響が出ています。感染対策のための設備投資や衛生管理の強化など、追加の経費が発生する一方で、従来の店舗来訪型のサービス提供が減少し、収益構造が変化しました。

医療制度の改革や薬価改定

医療制度の改革も薬局経営に影響を与えています。政府は医療費の効率化を図るため、診療報酬の見直しなどの改革を進めています。これにより、薬局には新たな役割が求められる一方で、従来の業務に対する報酬が減少するケースもあります。このような変化に対応するためには、薬局はサービスの質を向上させ、患者に対する付加価値を提供する必要があります。

医療制度の改革

医療制度改革の一環として、診療報酬の見直しが行われています。診療報酬とは、医療機関が患者に対して提供する医療サービスに対して支払われる報酬のことです。また、薬剤師による服薬指導や在宅医療の推進が強化されており、薬局にはこれまで以上に専門的かつ多様なサービスが求められています。

例えば、服薬指導の強化により、薬剤師は患者一人ひとりに対してより細かい説明や指導を行う必要があります。また、在宅医療の推進により、薬剤師が自宅で療養する患者を訪問し、薬の管理や服薬指導を行うケースが増えています。これにより、薬局の業務は従来の調剤業務にとどまらず、地域医療の一翼を担う重要な役割を果たすようになっています。

薬価改定

2020年以降、日本政府は患者が負担する医療費と国が負担する医療費（保険診療請求額）両方の抑制を目的として、毎年薬価の引き下げを進めています。薬価とは、医薬品の公定価格のことで、医療機関や薬局が患者に医薬品を販売するときの価格です。薬局は卸売り業者から仕入れる医薬品の価格と患者への販売価格の差で収益を上げているため、薬価が引き下げられると、薬局が医薬品を販売した際の収益が減少します。特に、薬価が高い医薬品に依存している薬局では、この影響が顕著に現れます。

例えば、抗がん剤や新薬などの高価な医薬品の薬価が引き下げられると、それに伴って薬局の収益も減少します。これは、薬局が提供するサービスの維持や向上に必要な資金が不足する原因となり、経営の圧迫要因となります。そのため、薬局は新たな収益源を模索し、経営の多角化を図る必要があります。

参照：令和７年度薬価改定について（厚生労働省）

政府による医療費削減政策

日本政府は、医療費の抑制を目指してさまざまな医療費削減政策を実施しています。これは、国民の高齢化が進む中で医療費の増加を抑え、持続可能な医療制度を維持するための重要な取り組みです。しかし、これらの政策は薬局経営において多くの課題をもたらしています。

①ジェネリック医薬品の普及促進

一つの主要な政策は、ジェネリック医薬品の普及促進です。ジェネリック医薬品は、特許が切れた後に製造される安価な医薬品であり、これを普及させることで患者の経済的負担の軽減、特許切れ医薬品の再利用、医薬品の選択肢の拡大、医療資源の有効活用という狙いがあります。

薬局は、患者のためにはジェネリック医薬品の調剤を積極的に進める必要がありますが、ジェネリック医薬品の薬価は低いため、収益が減少することがあります。

②診療報酬制度の見直し

さらに、政府は診療報酬制度の見直しを進めており、特定の医療行為に対する報酬を引き下げる一方で、効率的な医療提供を促進するためのインセンティブを導入しています。例えば、慢性疾患の管理や在宅医療の推進に対する報酬が増加する一方で、不要な医療提供を抑制するための措置が取られています。このような政策により、薬局は新たなサービス提供の形態を模索し、経営の安定化を図る必要があります。

令和6年の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げや感染症対策のための初診料・再診料引き上げなどが行われました。

参照：令和６年度診療報酬改定 【全体概要版】（厚生労働省）

薬局経営における効果的な経費削減の方法

薬局経営において、経費削減は利益率の向上や経営の安定化に直結する重要なテーマです。ここでは、薬局が実施できる具体的な経費削減方法について詳しく解説します。

人件費の最適化

適正な人員配置を行い、労働生産性を向上させることで人件費を削減できます。具体的には、従業員のシフト管理を見直し、繁忙時間帯に適切な人員を配置することや、業務の自動化・効率化を図ることが有効です。また、パートタイムやアルバイトを活用し、柔軟な労働力の確保を目指しましょう。

仕入れコストの削減

仕入れコストを削減するには、まず、薬品や備品の仕入れ先を見直すことが効果的です。複数の仕入れ先と比較し、より競争力のある価格で提供する業者を選定することが求められます。また、一括購入を活用することで、単価の引き下げを図ることも可能です。例えば、年間を通じて使用する薬品や備品を一度に大量に購入することで、ボリュームディスカウントを適用してもらうことができます。

さらに、ジェネリック医薬品の積極導入も有効な手段です。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同じ有効成分を持ちながら、価格が大幅に低いため、調達コストを大きく削減できます。ジェネリック医薬品による単価収益は低いものの、多くの患者に求められているため、結果として収益が上がる可能性があります。特に、頻繁に使用される薬品については、ジェネリックへの切り替えを検討しましょう。

加えて、仕入れ価格の交渉を定期的に行うことも重要です。業者との関係を密にし、価格交渉を積極的に行うことで、常に最適な条件での調達が可能になります。例えば、長期的な取引関係を築くことで、特別価格や割引を受けることができる場合があります。また、新たな仕入れ先を開拓し、競争原理を働かせられれば、さらなるコストダウンを図ることもできます。

在庫管理の徹底も仕入れコストの削減に寄与します。適切な在庫管理を行うことで、過剰在庫や欠品を防ぎ、無駄な仕入れを減らすことができます。これには、需要予測を基にした適正在庫の設定や、在庫の定期的なチェックが必要です。効率的な在庫管理を行うことで、仕入れコストを最小限に抑え、経費削減を実現することができます。

光熱費の節約

日常的に使用する電気やガス、水道などの光熱費も見過ごせない経費です。エネルギー効率の高い設備への投資や、LED照明の導入、節水型の機器の導入など、環境に優しい省エネ対策を実施し、光熱費の節約につなげましょう。また、従業員に対しても、無駄な電気の消費を減らすための教育を行い、長期的な経費削減につなげることも重要です。

デジタルツールの活用

デジタルツールの導入は、業務の効率化と経費削減に大いに役立ちます。まずは、在庫管理システムの導入を検討することをおすすめします。従来の手動による在庫管理では、ミスや時間のロスが発生しやすいですが、デジタルシステムならリアルタイムでの在庫状況の把握が可能となり、過剰在庫や欠品を防げます。

また、会計ソフトの導入も有効です。会計ソフトを利用することで、日々の売上や経費の管理が自動化され、経理業務にかかる時間と手間を大幅に削減できます。特に、クラウドベースの会計ソフトは、データの保存や共有が簡単で、経営効率を向上につながります。

顧客管理システム（CRM）の活用も効果的です。CRMシステムを導入すれば、顧客の情報を一元管理し、個別のニーズに応じたサービス提供が可能となります。例えば、定期的な薬のリフィルや健康相談のフォローアップを自動化することで、顧客満足度を向上させると同時に、従業員の業務負担を軽減できます。また、顧客データを分析すれば、購買傾向を把握し、適切なマーケティング施策を打つことができます。

サービスの多角化

収益源を多様化することで、経費削減と同時に収益の安定化が図れます。例えば、健康相談や栄養指導、介護用品の販売など、薬局の枠を超えたサービスを提供することで、顧客満足度を高め、リピート率を向上させます。これにより、経費削減だけでなく、売上の増加も期待できます。

賃借人による賃料の見直しと交渉

賃料は薬局経営における大きなコストの一つです。適正な賃料での契約をするためには、定期的に賃料相場を調査し、自店舗の賃料水準を把握することが第一歩です。現在の賃料が市場価格より高い場合、賃借人は賃貸契約の更新時期に賃貸人との交渉をするとよいでしょう。

賃料交渉を行うためには、まず賃料相場の調査を行います。地域や商業施設の種類によって賃料相場は異なるため、同業他社の賃料や近隣の類似物件の賃料を比較し、自店舗の立地条件や施設の特性を考慮しながら市場価格を把握します。

実際の交渉の際には、市場価格や競合店の賃料相場データを具体的に提示し、賃料引き下げの合理性を主張します。また、店舗の改装や設備の更新など、賃貸人に提案できる付加価値を準備することも効果的です。

賃料交渉を成功させるためには賃貸契約の更新時期に間に合うよう余裕を持って交渉を開始し、相手方の立場も理解しつつ、Win-Winの提案を目指すのが重要です。賃料の引き下げが実現すれば、薬局経営における負担軽減と資金の有効活用が期待できます。賃借人は交渉の結果、条件が合意に達しない場合でも、長期的なビジョンを持ち続け、将来の交渉チャンスを見据えることが重要です。

賃借人による賃料の見直しと交渉は、薬局経営における重要なコスト管理の一環であり、積極的に取り組むことで経営安定化に貢献します。

まとめ

薬局経営における経費削減は、単にコストを削るだけでなく、経営全体の効率化と収益性の向上を目指すものです。賃料の見直しや人件費の最適化、仕入れコストの削減、光熱費の節約、デジタルツールの活用、サービスの多角化など、多角的なアプローチを実施することで、持続可能な経営を実現します。これらの方法を取り入れて、経営の安定化を図り、より良いサービスを提供していきましょう。

人件費の最適化や賃料の見直しに関しては、労働基準法や契約法などの関連法規を遵守しながら行うことが重要です。専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

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※2020年以降、日本政府は医療費削減を目的として様々な政策変更を行っています。具体的な改革内容や最新情報については、政府発表や公式資料を確認することをおすすめします。