運送業界は、現代の経済活動において欠かせない重要な役割を担っています。しかし、燃料費の高騰や人件費の増加、環境規制の強化といった外的要因により、運送業者は厳しいコスト管理を迫られています。さらに、2024年問題として知られる労働力不足や労働時間規制の強化も、業界全体に大きな影響を及ぼしています。これらの課題に対応するためには、単に短期的な対策を講じるだけでなく、長期的な視点でのコスト削減が必要です。

本記事では、運送業界の現状と直面している課題を踏まえた上で、実践的なコスト削減方法について詳しく解説します。

1.運送業の現状と課題

運送業界は、さまざまな外部要因によって厳しい状況に直面しています。ここでは、業界が直面している主な課題について説明します。

燃料費の高騰

まず、燃料費の高騰が大きな問題となっています。2024年1～7月の軽油の平均小売価格はリッターあたり170円ほどで、2018年の平均小売価格の約140円と比較しても大きく高騰しています。

軽油の価格の推移

出典：日本銀行 企業物価指数を基にGD Freak!が作成したものから引用　

燃料費は運送業の経費の中でも大きな割合を占めており、最近の燃料価格の上昇は企業経営に影響を与える可能性があります。原油価格の変動や環境規制の強化により、燃料費が安定せず、予算の見直しを余儀なくされることもあります。このような状況に対処するため、企業は燃費効率の良い車両を導入したり、燃料管理の最適化を進めたりするなどの対策を行うことが推奨されます。

全日本トラック協会によると、軽油価格が1円上がると物流業界全体への影響額は年間で約167億円負担増になるとのことです。

参照：燃料価格上昇に対処するための燃料サーチャージ導入等の対応ハンドブック （公益社団法人全日本トラック協会）

人件費の増加

人件費の増加も運送業界にとって大きな課題です。労働力不足や賃金の上昇が企業のコストを押し上げており、特に運転手の不足が深刻な問題となっています。その結果、採用や育成にかかるコストが増大しています。この課題に対処するため、企業は効率的な人材管理や労働環境の改善を進める必要があります。

2021年時点で、運転者から事務員、荷扱手、整備・技能員までのトラック運送事業全体では、全職種平均賃金が327,100円（対前年比3.3％増）、年間賞与の1ヵ月平均額を加えた月額が372,800円（同3.6％増）となっています。

参照：2021年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態（概要版抜粋）（公益社団法人 全日本トラック協会）

環境規制の強化

排出ガス規制や環境基準の厳格化により、新たな設備投資や運用コストの増加が求められています。これに対応するため、企業はエコドライブの推進や車両の環境性能向上に取り組む必要があります。

2024年問題

2024年問題とは、労働力不足や高齢化による輸送効率の低下、そして労働時間の規制強化に関する問題のことを指します。特に2024年から「働き方改革関連法」が導入されることで、労働時間の上限が厳格に規制されました。。これにより、高齢化に伴う退職者の増加や新規採用の難航が重なり、人手不足が深刻化する懸念があります。この状況は、人件費の上昇やサービスの質の低下を招き、最終的には企業のコスト増加につながります。

運送業のコスト削減方法

ここでは、運送業界が直面する課題を克服し、コスト削減を実現するための具体的な方法について詳しく解説します。

燃費の最適化

燃費の最適化のためには、燃費効率の良い車両の導入が効果的です。近年のトラックやバンは燃費性能が向上しており、ハイブリッドや電動車両の選択肢も広がっています。例えば、従来のディーゼル車からハイブリッド車に切り替えることで、燃費を大幅に改善しつつ、環境への負荷の軽減が可能です。

さらに、燃費管理システムの導入も重要な施策です。このシステムを活用すれば、車両の燃費をリアルタイムで監視し、運転パターンの改善を促すことができます。例えば、無駄なアイドリングや急加速を減少させることで、燃料費を効率的に管理することが可能です。また、システムが提供するデータを基に、ドライバーに対して燃費改善のための教育を行うことで、さらなるコスト削減が期待できます。

運行管理の最適化

運行管理の最適化は、輸送コストの削減に直結する重要な取り組みです。例えば、ルート最適化は効果的な方法の一つです。ルート最適化ソフトウェアを使用することで、最短かつ最も効率的な運行ルートを計算し、交通渋滞や回り道を避けることができます。これにより、燃料消費の削減や運転時間の短縮が可能となり、全体のコストを大幅に抑えられます。

また、車両のメンテナンス管理も重要な要素です。定期的なメンテナンスを実施することで、車両の故障やトラブルを未然に防ぎ、修理コストを削減できます。車両の状態を常に把握し、計画的な点検や部品交換を行うと、長期間にわたって安定した運行を維持することができます。さらに、メンテナンスの記録をしっかりと管理し、予防策を取ることで、突発的な修理費用の発生を抑えることができるため、運送業全体のコスト管理がより効率的になります。

労働力の効率化

労働力の効率化をするためには、シフト管理の最適化が重要です。適切なシフト計画を立てることで、無駄な残業や過剰な労働時間を減少させることができます。労働力の需要に応じて最適なシフトを組むことで、必要以上の人件費を抑えつつ、業務の効率を高めることが可能です。これにより、従業員の負担も軽減され、労働環境の改善にもつながります。

さらに、ドライバー教育と訓練も重要な要素です。ドライバーに対して、運転技術の向上と効率的な運転を促すための教育プログラムを実施することは、企業にとって大きな利益をもたらします。具体的には、エコドライブのテクニックや安全運転の指導を行うことで、燃費の改善や事故のリスクの減少が期待できます。定期的な教育と訓練により、ドライバーのスキルが向上すれば、業務の効率化とコスト削減が実現し、企業全体の競争力の向上につながります。

技術の導入と自動化

技術の導入と自動化は、運送業界におけるコスト削減と業務効率化の鍵となります。テレマティクスシステムを導入することで、車両の位置情報や運行状況をリアルタイムで把握することができます。これにより、運行ルートの最適化やトラブルの早期発見が実現し、運行効率の向上とコスト削減につながります。例えば、交通状況に応じたルート変更や、車両のメンテナンス時期を適切に予測することで、無駄な時間とコストを減らせます。また、収集したデータを分析し、運行の改善点を特定できれば、さらなる効率化を図ることが可能です。

さらに、倉庫や物流センターにおける自動化技術の活用も重要です。自動倉庫システムやロボットの導入することで、在庫管理や商品のピッキング作業が効率化されます。これにより、人件費の削減だけでなく、作業時間の短縮と作業精度の向上が期待できます。特に、大量の商品を取り扱う場合、ロボットの利用によって作業が迅速かつ正確に行われるため、全体的な運営効率が大幅に向上します。

環境対応の推進

エコドライブを実施することで、燃料消費の削減と環境負荷の軽減を図ります。具体的には、急加速や急減速を避ける運転を実践し、燃費の改善を目指します。ドライバーがエコドライブの知識を身につけ、実践することで、コスト削減と環境保護を両立させることができます。

また、グリーン物流の導入により、環境負荷の軽減とコスト削減の実現に近づきます。例えば、再利用可能な梱包材の使用や、エネルギー効率の良い倉庫設備の導入を行うことで、環境への配慮とコスト削減を両立させることができます。

これらの方法を実践することで、運送業界の企業は効果的にコストを削減し、経営の安定化を図ることができます。各手法の導入にあたっては、企業の状況やニーズに応じて最適な方法を選択し、実施することが重要です。

運送業のコスト削減は、賃料の適正化が効果的

運送業のコスト削減において、賃料の適正化は非常に効果的な手段です。多くの運送業者は、大型倉庫や営業拠点としての施設を所有しており、その賃料が固定費として経営を圧迫することがあります。特に、都市部や物流の要所に位置する物件の賃料は高額になりやすく、賃料の適正化は重要な課題となっています。

賃料の適正化を行うことで、年間の固定費を大幅に削減できるケースもあります。例えば、市場相場に比べて高い賃料を支払っている場合、賃借人は賃貸契約の更新時に再交渉を行うことで、コスト削減につながる可能性があります。また、必要に応じた賃貸条件の再評価や、よりコストパフォーマンスの高い物件への移転も検討することが有効です。

賃料の適正化は、その他の運営コストと比べて一度の見直しで長期的な効果が得られるため、資金の確保や経営の安定化にもつながります。運送業者にとって、賃料の適正化は重要なコスト削減の手段として積極的に取り組む価値があります。

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