SDGs

飲食店が取り組めるSDGsの概要|取り組みが遅れている業界の成功事例

目次
  1. SDGsとは
  2. 飲食店・飲食業界が取り組めるSDGs
  3. 飲食業界におけるSDGsの取り組みが遅れている
  4. 飲食店・飲食業界での事例紹介

本コラムでは、SDGsの概要や飲食店が実践できる具体的なアクション、飲食業界におけるSDGsの実情、企業の事例を解説します。フードロスやプラスチックごみなどの問題を受け、飲食業界でもSDGsへの取り組みが求められています。しかし、適切な方法や具体的な効果がわからず、導入できていない店舗も少なくありません。今回お届けする情報を参考に、自社に適した取り組みを検討し、社会問題の解決につながる一歩を踏み出しましょう。

SDGsとは

SDGs(エスディージーズ)とは、「Sustainable Development Goals」の頭文字を取った略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれます。2015年9月に開催された国連サミットで全会一致にて採択された国際目標です。前身のMDGsは、先進国による途上国支援を中心とする内容でしたが、SDGsは途上国から先進国まで、すべての国がユニバーサルに取り組むことが求められています。

SDGsは17の目標(ゴール)と169のターゲットから構成されており、持続可能でより良い世界を目指すため、達成期限を2030年に定めています。目標とは2030年時点でのあるべき姿を設定したもので、ターゲットは17の目標を達成するために設けられたより具体的で細かい目標のことです。

SDGsの17の目標(ゴール)

17の目標は上記の通りで、それぞれにターゲットとその達成手段が設定されています。国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が2022年6月に発表したレポートでは、日本のSDGsの目標達成度は世界で19位でした。すべての目標を一度にクリアするのは難しいため、各業界が取り組みやすい項目に注目し、社会が抱える課題や環境問題と向き合うことが大切です。

【出典】SDSN「持続可能な開発レポート2022 日本」

https://dashboards.sdgindex.org/profiles/japan

飲食店・飲食業界が取り組めるSDGs

SDGsに関する取り組みは身近なレストランやカフェなどにも広がっています。そこで次は、飲食店や飲食業界が実践できる具体的なアクションをご紹介します。ひとつでも取り組めるものがある場合は、ぜひ店舗運営にご活用ください。

食品ロス(フードロス)の削減

食品ロスの削減は、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に関する取り組みです。主に目標12のターゲットのひとつ「一人あたりの食品廃棄を半分に減らそう」に該当します。

日本では1年間に約612万トン(東京ドーム5杯分)の食糧が捨てられています。内訳は、家庭からのゴミが284万トン、飲食店の食べ残しや小売店の売れ残りなどの事業系のゴミが328万トンです。そのため、飲食業界がフードロスの削減に取り組むだけでも一定の効果が期待できます。

具体的には、残す人が多い付け合わせは使用しない、作り置きを減らして売り切れたメニューは販売終了とする、野菜の葉など捨てていた部位を使ったメニューを開発するなどの方法が考えられます。SDGsに関する取り組みで企業のイメージアップにつながるだけでなく、コスト削減も見込めるのがメリットです。

また、食べ残し対策では、持ち帰り用のパッケージを提供する方法があります。そのほかには、飲食店と消費者をリアルタイムでつなぐことで食品ロスを防ぐアプリなど、フードシェアリングの取り組みも始まっています。

プラスチックごみの削減

プラスチックごみの削減は、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」と目標13「気候変動に具体的な対策を」に該当します。「脱プラスチック」が必要とされる理由の一つに、適切に処理されなかったプラスチックごみがもたらす海洋汚染や土壌汚染、大気汚染などの環境汚染の問題が挙げられます。地球環境の悪化を防ぐためにも対策が急務です。また、プラスチック資源循環促進法が2022年4月に施行されたことで、より活発になってくると思われます。

具体的な取り組みとしては、テイクアウト容器にワンウェイプラスチックではなく植物由来の原料で再生可能なバイオマスプラスチックや紙製品など自然に還る素材を選ぶのが良いでしょう。最近では、カップやストローを紙製に変更するカフェや、天然資源の容器を採用した食事宅配サービスなども登場しています。

子ども食堂の開催や支援

子ども食堂の開催や支援は、SDGsの目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」につながる取り組みです。

子ども食堂とは、子どもやその保護者へ向けて、食事を無料または低額で提供する活動のことです。店舗で子ども食堂を開催するほか、食材の提供、フードドライブへの寄付などで支援する方法もあります。この取り組みでは、食事に困る人々は温かい料理を誰かと楽しく食べることができ、飲食店は廃棄を減らせるなど、双方にメリットがあります。最近では、食育や理科の実験などの学びの場として活用するなど、ただ食事を提供するだけではない子ども食堂を開催しているところもあります。

トレーサビリティへの配慮

トレーサビリティへの配慮は、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」と目標12「つくる責任 つかう責任」に該当します。

トレーサビリティとは、食品の製造から消費までの過程を追跡できる状態にすることです。全てのプロセスに着目することで、食品の安全確保や生産者の労働環境の改善につながります。トレーサビリティの意識を高めるには、フェアトレード認証を受けた食材を利用するのが良いでしょう。

フェアトレードとは、途上国との貿易において適正価格で売買し続けることによって、生産者の労働や生活環境の改善を目指す仕組みのことです。フェアトレード認証を受けた食材を仕入れることで、生産者に配慮した経営が可能になります。

サステナブル・シーフードの活用

サステナブル・シーフードの活用は、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に該当する取り組みです。サステナブル・シーフードとは、水産資源の保全や環境への配慮のもとで漁獲・生産された水産物のことで、MSC認証取得の持続可能な漁業、ASC認証取得の環境負担を抑えた養殖などが当てはまります。飲食店で使用する水産物をサステナブル・シーフードに切り替えることでSDGsに貢献できます。

飲食業界におけるSDGsの取り組みが遅れている

SDGsの掲げる目標を達成し社会問題を解決するには、各業界の協力が欠かせません。しかし、実際は飲食業界におけるSDGsの取り組みが遅れているとされます。ここでは、民間企業が実施した調査結果を確認します。

飲食業界におけるSDGsの認知度・実施取組度調査

エヌエヌ生命保険株式会社が2022年に実施した調査によれば、飲食店の経営者で「SDGsを知っている」と回答したのは37.8%でした。これは全業種の平均である47.0%を下回っており、低い水準であることがわかります。また、同調査で「SDGsに取り組んでいる」または「取り組みを検討・予定している」と回答した飲食店は、合わせて35.5%となっており、こちらも全業種平均の37.2%を下回る水準です。いずれも製造業や教育関連業、出版・印刷関連産業で実施取組率が高く、飲食業界は遅れをとっているといえます。そしてSDGsに取り組まない理由として「何をしていいかわからないから」と回答した飲食店は56.5%に上ります。この回答は、業界別では飲食店が最も多い割合です。この調査結果を踏まえると、飲食業界でSDGsに関する取り組みを広めるには、まず経営層や担当者がSDGsの理解を深めることが重要です。その上で、どう取り組めばSDGsに貢献できるのか、具体例を従業員に浸透させる必要があるでしょう。

【出典】エヌエヌ生命保険株式会社「【業種別】全国の中小企業におけるSDGsへの取り組みに関する調査」

https://www.nnlife.co.jp/pedia/research/20220128

また、株式会社帝国データバンクが2021年に実施した調査によれば、飲食店を含むサービス業において「SDGsに積極的な企業は40.4%」となっています。積極的である割合が最も高かったのは金融業の56.0%で、農・林・水産業も過半数を超える55.6%の企業がSGDsの取り組みに積極的であります。
飲食店を含むサービス業では、過半数(50.8%)が「SDGsに取り組んでいない」と回答しているところも課題です。卸売業(52.9%)や運輸・倉庫業(51.0%)に次いで取り組みが遅れている業界といえるでしょう。

【出典】帝国データバンク「特別企画:SDGs に関する企業の意識調査(2021年)」

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p210706.pdf

飲食店・飲食業界での事例紹介

「SDGsの重要性は理解しているものの、具体的には何をするべきかわからない」という場合は、ほかの店舗の取り組みを参考にし、取り入れるのが効果的です。そこで次は、飲食店や飲食業界におけるSDGsの取り組み事例や、事例をまとめているWebサイトなどをご紹介します。

SDGsと企業の取り組み|メリットと導入のステップ、個別企業の事例は?
SDGsと企業の取り組み|メリットと導入のステップ、個別企業の事例は?

消費者庁|食品ロス削減の取組事例集<民間団体の取組>

民間団体による食品ロス削減への取り組み事例がまとめられており、2018年~2020年2月までの事例を閲覧できます。説明に写真や図表が多く使用されていて、取り組みの概要を視覚的に理解しやすいのが特徴です。
飲食店のほか、食品を販売する小売店やスーパーマーケットなど幅広い業態の事例が掲載されています。自社に適した取り組みを探しやすく、すぐ行動にうつすことが可能です。飲食業界における代表的な取り組みとしては、食べ残し対策での持ち帰り専用容器の準備、売り切りを促進するための買い方習慣の提案などが紹介されています。

消費者庁「食品ロス削減の取組事例集<民間団体の取組>」

https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/pdf/sdgs_communication_guide.pdf

消費者庁「食品ロス削減の取組事例を見る」

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/case/

農林水産省|SDGs×食品産業

食品産業の事業者によるSDGsへの取り組み事例がまとめられています。各社の最新情報が随時更新されるため、実現へ向けて参考にしやすいでしょう。企業へのインタビューでは、取り組みの成果や今後の展望も掲載されています。どの施策を実施すると企業にどのような効果があるのかを事前に確認できるため、社会課題の解決だけでなくビジネスチャンスの獲得も期待できます。
また、こちらのWebサイトでは、17の目標別に企業による事例を閲覧できるのも特徴です。例えば、飲食業界と関係の深い目標12「つくる責任 つかう責任」では、環境負荷の低減を目的としたペットボトルのリサイクルや食品ロス削減を目的とした賞味期限の延長などに関する取り組みを確認できます。

農林水産省「SDGs×食品産業」

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/

東京都|食品ロス削減対策集

先駆的な企業による食品ロス削減への取り組み事例が紹介されています。AIやICTの活用、フードシェアリングや食品リサイクルなど、比較的新しい施策の事例も多くまとめられているのが特徴です。すでに基本的な取り組みを実践済みの企業が、新たな施策を検討する際に活用すると良いでしょう。各項目には「食品ロス削減効果」や「取り組む際のポイント」などが記載されているため、取り入れる際に参考にしやすく便利です。
ちなみに東京都では、食品ロス削減へ取り組む場として「東京都食品ロス削減パートナーシップ会議」が設置されています。食品製造業や卸売業、小売業などの事業者団体も参加しており、さまざまな業界の食品ロス削減対策を確認できます。

東京都「食品ロス削減対策集2021年3月」

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/recycle/tokyo_torikumi/keikaku.files/030330_Countermeasures.pdf

東京都「東京都食品ロス削減推進計画の策定」

https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/recycle/tokyo_torikumi/keikaku.html