SDGs

SDGsと企業の取り組み|メリットと導入のステップ、個別企業の事例は?

目次
  1. SDGsと企業 ~MDGsとの違い~
  2. SDGs17の目標(ゴール)と169のターゲット
  3. 企業がSDGsに取り組むメリット
  4. SDGsを導入するためのステップ
  5. 国内企業のSDGsの取り組みについて

「SDGs」や「サステナビリティ」という言葉をよく聞くようになりました。SDGsとは、より良い世界を次世代に残すことを目的に、国連サミットで採択された17の国際目標のことです。2030年を期限として具体的な数値目標が設定されていることから、全世界がその目標に向けて取り組みを加速させています。

SDGsに取り組むことによるメリットに気づき、各企業が取り組みを進めています。SDGsの普及に伴い様々なビジネスチャンスが生まれていることから、ビジネスパーソンとしてその内容を理解しておくことは重要です。

そこで本コラムでは、SDGsに取り組むメリット、具体的な導入のステップや個別企業の事例について説明します。

SDGsと企業 ~MDGsとの違い~

ここではSDGsの概要や成立経緯、さらにSGDsの前身であるMDGsと比較し、違いを交えながら説明をしていきます。

SDGsとは

「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」と訳されます。持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標として2015年の国連サミットで採択され、国連加盟193カ国及びその中の企業や個人が協働し、2030年までの15年間で達成することを掲げています。
SDGsは、17の目標(ゴール)とそれを具体的に数値化した169のターゲットで構成されています。

SDGsとMDGsの違い

SDGsには、「MDGs(ミレニアム開発目標)」という前身が存在します。MDGsは「Millennium Development Goals」の略で、2000年に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された宣言をもとにまとめられたことからこの名前がつきました。

世界では、経済成長に伴い、環境汚染や格差による貧困の拡大が問題視されるようになりました。こういった問題に対して世界が一丸となって取り組まなければならないという動きが活発になり、2000年にMDGsが設定されました。

MDGsでは、貧困・教育などの8つの目標を掲げ、15年間で一定の成果を上げることができました。MDGsの15年間の期限が終了したことから、次の15年間について新たにSDGsが設定されることになったのです。

SDGsはMDGsに比べ、以下の二点が変更となりました。この変更点により、日本においても企業や個人に対する影響が大きくなってきています。

  • 企業と個人が取り組みやすくなった

MDGsからSDGsに目標が変わることで、企業と個人も目標に取り組む対象となりました。
SDGsでは、企業の役割を重視し、企業主体の目標達成が期待されています。民間に対する働きかけがより意識されており、経済活動に関する目標が新たに加えられました。
例えば17の目標の中には、企業と個人にとっても達成に取り組みやすい「働きがいも 経済成長も」や「つくる責任 つかう責任」などが掲げられています。

  • 先進国も含まれるようになった

SDGsから、先進国にも共通の課題が挙げられるようになりました。
前身であるMDGsは途上国の開発問題や貧困問題の是正に焦点を当てたものであり、先進国はそれを援助するに過ぎない立場でした。

このような背景もあり、日本においては、MDGsに対する関心は低かったとも言えます。しかし、SDGsにおいては、先進国含む国連加盟国すべてが達成に向けて取り組むこととなりました。従来のMDGsでは途上国の開発問題がメインでしたが、SDGsでは主に経済・社会・環境の3つの側面に対応しています。目標数もMDGsの8からSDGsの17へと増加しており、様々な分野での取り組みが求められています。

出典:「ミレニアム開発目標(MDGs)」(外務省)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

SDGs17の目標(ゴール)と169のターゲット

SDGsの成り立ちや大枠が理解できたところで、SDGsが掲げる17の目標(ゴール)と169ターゲット・232指標について説明します。

17の目標(ゴール)

  • 貧困をなくそう
  • 飢餓をゼロに
  • すべての人に健康と福祉を
  • 質の高い教育をみんなに
  • ジェンダー平等を実現しよう
  • 安全な水とトイレを世界中に
  • エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  • 働きがいも 経済成長も
  • 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 住み続けられるまちづくりを
  • つくる責任 つかう責任
  • 気候変動に具体的な対策を
  • 海の豊かさを守ろう
  • 陸の豊かさも守ろう
  • 平和と公正をすべての人に
  • パートナーシップで目標を達成しよう

169ターゲットと232指標について

ターゲットとは目標を達成するための具体的な数値目標、指標は達成度を測るための評価指標のことです。

企業がSDGsに取り組むメリット

現在、様々な企業がSDGsに取り組んでいるのは、取り組むことそのものだけで大きなメリットがあるからです。

  • 企業(ブランド)イメージの向上

SDGsに取り組んでいることを発信することはブランディング施策として有効です。そのため、多くの企業が自社のHPなどで取り組みを発信しています。

  • 社会課題への対応

SDGsの目標はどれも社会課題への対応をテーマにしています。SDGsを自社の経営に上手く取り入れることで、事業の維持・拡大と社会課題への対応を両立できます。社会課題とは「世の中にある解決すべき課題」の総称です。明確な定義はないものの、SDGsで示されている社会課題そのものがビジネスチャンスになる可能性があります。

  • 生存戦略につながる

SDGsに取り組み、改善できれば長期的な視点で生存戦略につながります。
SDGsは2030年に向けた世界的な目標であるため、ここで掲げられた目標に近い形で世界の変革が進んでいくと考えられます。例えば、森林伐採や石油の枯渇が進めば、製紙業などは市場規模の縮小を余儀なくされることになるでしょう。
「持続可能な開発」と「持続可能な事業経営」は同じことと考えることもできます。SDGsに取り組むことで世界の変革に適応することができれば、自社の経営的なリスク回避につながるためです。

  • 新たな事業機会の創出(ビジネスチャンスが広がる)

SDGsの取り組みが活発になるほど、それに付随する新たなビジネスチャンスが生まれます。SDGsは世界的な取り組みのため、国際的なビジネスの展開により、新たな事業機会の創出を見込めます。プライスウォーターハウスクーパースの調査によると、SDGs達成による事業機会を創出は年間12兆ドルと試算されています。

  • 社員のモチベーション維持、モラル意識の向上

SDGsを自らの事業と上手く組み合わせることで、社員は企業を通して社会貢献をしていると言う自負を持つことができるようになります。結果、社員の業務に対する熱量や取り組み方の改善につながる可能性があります。

  • 投資家との関係性向上

社会貢献につながる取り組みの有無は投資家の判断材料の1つとなっています。
昨今、新しい投資の考え方として、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮するESG投資が注目を浴びています。この思想を持つ投資家は国際的に増えていることから、SDGsへの取り組みは世界の投資家に効果的にアピールする手段となっています。

SDGsに企業が取り組むメリットと注意点|回避すべきSDGsウォッシュとは?
SDGsに企業が取り組むメリットと注意点|回避すべきSDGsウォッシュとは?

これらのメリットから、SDGsに取り組む姿勢を標榜することは、それだけでもメリットがあるといえます。しかし、実態がないのに取り組んでいるように見せかけることは「SDGsウォッシュ」と呼ばれ、発覚してしまうと信用は失墜し大きな損失を被る恐れがあります。上辺だけでなく、真に持続可能なビジネスの構築を心がけましょう。

SDGsを導入するためのステップ

取り組むことでさまざまなメリットがあるSDGsですが、企業に導入するためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。企業にSDGsを導入する上で必要なことを、5つのステップに分けて説明します。

SDGコンパスとは

世界中の企業が参考にしている『企業がSDGsに取り組む際のガイドライン』のことです。SDGコンパスは5つのステップで構成されており、目標の立て方・経営への取り入れ方・管理の仕方が含まれます。このステップに沿うことで効率的に導入することができます。

SDGsを導入するための5ステップ

まずは、社内の人間に対してSDGsの認知度を上げ、理解してもらうことから始めます。社内セミナーの実習や書籍の配布などを通して、SDGsへの理解を深めます。その際は、SDGsの概要だけでなく、その企業が取り組むべき理由や企業の持つ責任を理解してもらうことが重要です。SDGsが取り組む地球規模の課題は、企業に大きな影響をもたらします。一方、企業の行動次第で、SDGsの達成に大きく貢献することができます。その関係性を理解してもらうことが、次のステップにおいて重要な基礎となります。

企業内でSDGsの理解を深めた後は、17の目標と169のターゲットの中から、自社の取り組む優先課題を選定します。

この際、企業に影響が大きいものに優先して取り組むことが重要です。課題選定においては、社内外のステークホルダーとの協同により、自社にとって正の影響が大きい課題、もしくは負の影響を小さくできるような課題を選定するのが良いでしょう。またその場合は、現状だけでなく将来の姿を評価し、最大の効果が期待できる領域を選定することが重要です。

選び方が分からない場合は、まず企業活動の川上から川下までのバリューチェーンを可視化することをおすすめします。企業活動を調達から製造、物流、販売、消費者に分解し、それぞれが影響する領域を特定することで、課題や強みが見えやすくなる効果があります。

取り組む課題を選定した後は、その課題の達成に向けた指標を決定し、指標についてデータの洗い出しと収集を行います。

指標を決定する際に利用できるのが、ロジックモデルと呼ばれる5段階のプロセスです。ロジックモデルとは、事業活動を資本の投入から生産、その生産物が生み出す影響までの道筋を追ったプロセスです。例えば、SDGsの目標3のターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水を通じた感染症及びその他の感染症に対処する」についてロジックモデルで指標を作成した場合、以下のような例となります。

プロセス内容指標の例
投入投入資源のうち、
SDGsに正または負の影響を与えうるものは何か
研究開発費をいくらにするか
活動投入資源を用いる活動は何か開発した浄水薬の販売
(販売活動における定性的な指標)
算出その活動により何が生み出されるか浄水薬の販売数など
結果対象の人々にどのような変化をもたらすか浄化した水の使用量
(全使用量における割合(%))
影響その結果がもたらす変化とは水系感染症発生率の低下
(販売前との比較(%))

優先課題が決定された後は、その課題を達成するためのKPI(主要業績評価指標)を設定します。KPI(主要業績評価指標)は、目標を達成するために設定される具体的な行動指標のことで、進捗を促進し、進捗状況について情報発信する基盤となるものです。STEP2で決定した優先課題から導き出すことが推奨されており、正しくKPIを設定することで、負の影響を抑制し正の貢献をする機会を提供する効果があります。

各KPIを設定する上では、基準となるベースラインを設定することと、進捗状況が具体的に計測可能であること、期限を区切ったものにすることが重要です。例えば、社内の女性役員を増加させるという目標がある場合、ベースラインとしていったん2021年度末の女性役員数を設定します。そして、2025年に2021年度から2人増、2030年に2021年度から5人増というKPIを立てることで、進捗を把握しやすくなります。

KPIについては、意欲的な設定が重要です。例えば、二酸化炭素ガス“5%削減”より、“80%削減”という意欲的な目標を設定した方が、将来に向けより大きな影響や達成度が期待できます。そのため、未来への大きな転換点となるために、時間軸を大きくとった意欲度の大きい目標を設定する場合があります。ただし、時間軸は長いほど、それを達成するための進捗管理や説明責任が曖昧になりやすいため、短中期的な目標も設定するとよいでしょう。

こういったことから、リーディング企業は目標設定に「アウトサイド・イン」のアプローチを取り入れています。アウトサイド・インアプローチとは、世界的な視点で何が必要かについて外部から検討し、それに基づいて目標を設定することにより、現状の達成度と求められる達成度のギャップを埋めていくアプローチのことです。

目標を決定した後は、世間に対してSDGsへのコミットメントを公表します。コミットメントの公表は従業員や取引先のモチベーションを高めるだけでなく、外部のステークホルダーとの建設的な対話の基盤を作る効果があります。

KPIを設定し、コミットメントを公表した後は、そのKPIを達成できるよう、既存の事業活動のいたるところに持続可能性を統合していく作業が必要です。大幅な改革には経営トップの主導が鍵となります。企業においては、取締役会がその重要な役割を果たすという認識が強まっており、取締役会において持続可能な目標を経営幹部の採用・報酬基準に組みこむことなどが求められます。

全ての部門に持続可能性を組み込むためには、各部門の主体的な取り組みが重要です。持続可能な目標を組織内に確実に定着させるために、組織内のすべての人に対して、目標が企業の新たな価値を創造し他の事業目標の進展につながるという共通の理解を得ることが重要です。また、目標達成に対する特別ボーナスを報酬体系に組み込むのもよいでしょう。一部企業では、SDGsに関する部門横断的なプロジェクトチームを設置することもあるようです。

一方で、持続可能性の課題は企業単体では効率的に実施できないこともあります。企業内だけでなく、社外にもパートナーシップを形成しましょう。協調を重視する姿勢はSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にも明示されています。パートナーシップは主に以下3つのタイプに分けられます。

バリューチェーン・
パートナーシップ
バリューチェーン内の企業が相互に協力して、市場に新しいソリューションを提供する
セクター別
イニシアチブ
同業種の企業同士で協力して、業界に共通する課題や、基準・慣習の改善などに取り組む
多様なステークホルダーによる
パートナーシップ
企業と行政団体、市民団体などが協力し合い、課題の解決に取り組む

最後のステップでは、ステークホルダーに対して企業の立てた優先目標や、実際の活動内容、達成度を報告します。

株主などのステークホルダーからの開示要求が影響し、企業の持続可能性に関する情報開示はここ10年で劇的に増加しました。実際、世界のトップ250社のうち93%が持続可能性の達成度を報告しています。

報告には次のような目的があります。

  • 持続可能な意思決定プロセスの支援
  • 組織発展の促進
  • 達成度の向上
  • ステークホルダーとの協業
  • 投資の呼び込み

なお、これらの報告はGRIが策定した枠組みなどの国際基準に沿うことが重要です。この国際基準は質の高い情報を作成し、全般的なコミュニケーションを行う上で有益です。

SDGsの達成度については、次の内容を開示することが求められます。

  • そのSDGsが適合するとされた理由と過程(優先課題をどう決定していったかの過程)
  • SDGs に関する著しい正または負の影響
  • SDGs に関する企業の目標とその達成に向けた進捗状況目標と進捗
  • 目標達成のための戦略と実践

国内企業のSDGsの取り組みについて

具体的なSDGsの導入方法がわかったところで、現時点の日本での取り組みの状況を確認する方法を説明します。

個別企業の取り組み事例をまとめたサイト

実際に日本国内の企業がどのようにSDGsに取り組んでいるかについては、事例をまとめたサイトを参考にすると良いでしょう。 

例えば、農林水産省のホームページには「SDGs×食品産業」というコンテンツがあり、食品事業者の取り組みを中心に紹介しています。

また、経済産業省関東経済産業局が発表する「SDGsに取り組む中小企業等の先進事例の紹介」では、中小企業の取り組みをPDFにまとめています。各企業には業種名が併記され、かつ、達成を目指している目標がアイコンで表示されているため、自社に近い業種を選べば、どのような取り組みを行うべきか決める際の参考になります。

さらに、一般社団法人日本経済団体連合会が発表する「KeidanrenSDGs」では、経団連の会員企業の取り組み事例を見ることができます。一覧表示されたSDGsの目標をクリックすると、その目標の取り組み事例が表示される仕組みです。また、企業名で検索することもできて便利です。

アンケート調査から見る国内企業の状況

公益財団法人地球環境戦略研究機関が発表した「SDGs進捗レポート2022」では、GCNJ会員企業437会員に調査を実施しています。GCNJ(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン)は、 国連グローバルコンパクトに署名・加入している民間企業・団体の日本でのローカルネットワークです。回答のあった223会員によると、企業内の進捗状況は以下のようになっています。

  • SDGsの認知・浸透度

中間管理職と従業員へのSDGsの認知が長く課題となっていましたが、2021年の浸透度が約8割に到達しました。企業内部にまで広く浸透してきていることが分かります。

  • ジェンダー平等への取り組み

全体の83%がジェンダー平等を経営課題として位置付けて施策に反映していると回答する一方、女性役員比率については75%が「目標設定していない」と回答しました。女性役員比率に関する目標設定は、ジェンダー平等推進を経営戦略に落とし込む良いアプローチになるため、実施されることを推奨します。

  • 働きがいや人権に関する取り組み

働きがいについては、全体の92.8%が「従業員の労働時間の管理と適正化」について取り組んでいます。一方、同一労働同一賃金に対する取り組みは53%と低い状況です。

人権については全体の61%が「経営トップからのコミットメントが表明されている」と回答しました。人権に関する進捗は従業員数の多さに比例しており、従業員数50,000人以上の企業では80%を越える項目もあります。

  • 循環経済に関する取り組み

使用済み容器、製品の回収、リサイクル資源の利用などは、回答した158社の約6割にあたる95社以上の企業が既に取り組みを実施していると回答しました。一方、シェアリングや製品のサービス化、リサイクルの体制構築などは約4割程度であり、遅れが見られます。

  • 気候変動に関する取り組み

全体の70.4%が、「ネットゼロ」を達成するための目標を設定しています。ネットゼロとは、温室効果ガス(GHG)の排出を実質ゼロにすることを言います。具体的にはCO2やメタンなどの温室効果ガス排出量から、森林などの吸収量などを差し引いて合計がゼロになる状態のことです。世界では2050年をその達成目標年としています。

 

【出典】「SDGs進捗レポート2022」(公益財団法人地球環境戦略研究機関)

https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/11980/220228_SDGs+business_jp%28corrected%29.pdf