契約書の管理&電子化
電子インボイス|導入のメリット&課題、Peppol(ペポル)まで解説
本コラムでは、請求書管理の効率化に役立つ電子インボイスの基本から、企業にもたらすメリット、導入時の課題までを解説します。インボイス制度の開始に伴い、紙ベースでの書類管理による弊害を防ぐには、電子インボイスの導入が必要です。請求書のやり取りを電子化することで、管理の効率化や控除額計算の自動化につながります。スムーズにインボイス制度へと移行できるよう、お伝えする情報を参考に社内システムや取引先の見直しを行い、電子インボイスの導入準備を進めましょう。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除を受けるための新たな仕組みのことです。2023年(令和5年)10月1日から運用が開始されます。仕入税額控除とは、課税売上にかかる消費税額から課税仕入にかかる消費税額を差し引いて、納税する消費税を算出するプロセスを指します。
インボイス制度により、仕入税額控除を受けるにはインボイス(適格請求書)の発行・保存が必要になりました。インボイスを発行する際は、現行の「区分記載請求書」の記載事項に以下の3つの事項を追加して記載する必要があります。
- 登録番号
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
売主は、買主に求められた場合、必ずインボイスを交付しなければなりません。売主がインボイスを交付するには、事前に適格請求書発行事業者の登録手続きを行う必要があります。登録は2021年(令和3年)10月1日から可能ですが、課税事業者でなければ登録できないため注意しましょう。ただし、現在免税事業者の場合、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録手続きを行うと、制度開始のタイミングで自動的に課税事業者に登録されます。
また、売主には交付したインボイスの写しを保存する義務が発生し、買主は受領したインボイスを適切に保管する必要があります。
※「インボイス制度」の記事へのリンク
電子インボイスとPeppol(ぺポル)について
インボイス制度では、適格請求書の紙媒体でのやり取りだけでなく、電子取引での授受(電子インボイス)も認められる予定です。ここでは、電子インボイスの概要と運用上のグローバルな規格である「Peppol」について解説します。
電子インボイス
電子インボイスとは、消費税の仕入税額控除に必要なインボイスを電子データ化する仕組みを指します。請求書や納品書などをデジタル化し、紙媒体と同等の地位を与えるための施策です。日本に先がけて電子インボイスが導入されているEUでは、すでに電子化された請求書が紙の請求書と同等に扱われています。電子インボイスの提供方法には、以下のような手段が考えられます。
- 光ディスクや磁気テープ等の記録用媒体による提供
- EDI取引を通じた提供
- 電子メールによる提供
- インターネット上のサイトを通じた提供
どの方法で提供された書類でも、記載ルールに則ったものであればインボイス制度上の適格請求書として扱われ、仕入税額控除に利用できます。
【出典】「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達の制定について(法令解釈通達)」(国税庁)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/kansetsu/20180606/index.htm
国際規格であるPeppol(ぺポル)
Peppolとは、商取引に必要な電子文書をネットワーク上でやり取りするための国際的な標準規格のことです。現行の紙媒体を電子化するだけでは、事業者ごとに仕様や規格がバラバラになってしまう可能性があるため、国際規格であるPeppolを導入することで電子インボイスの仕様を標準化できます。
「Pan European Public Procurement Online」の頭文字を取ってPeppolと表記し、「ペポル」と読みます。ベルギーの法律に基づく非営利の国際協会である「Open PEPPOL」が管理しており、欧州だけでなくオーストラリアやシンガポールでも利用されているのが特徴です。日本では「電子インボイス推進協議会(EIPA)」がデジタル庁などと連携し、国際標準仕様のPeppolを拡張して「日本版Peppol」の策定を進めています。
電子インボイスがもたらす5つのメリット
電子インボイスの導入は、従来通りの紙媒体による請求書の管理と比較してどのような効果をもたらすのでしょうか。ここでは、電子インボイスにより期待されるメリットを5つご紹介します。
仕入税額控除の計算業務を自動化できる
インボイス制度では、仕入税額控除を行うために必要な情報を会計システムに入力する必要があります。紙媒体でやり取りしている場合は手作業となり、入力の手間が大きいだけでなく、ヒューマンエラーや不正につながる可能性があります。
電子インボイスを導入すると、PDFファイルなどの電子データを会計システムに取り込むだけで仕訳入力や仕入税額控除の計算を行うことが可能になるのがメリットです。日本版Peppolが普及すれば、電子インボイスの規格が統一され、より効率的な経理業務を実現できるようになるでしょう。
データ改ざんの防止に役立つ
電磁的記録のやり取りにおいて心配されるのが、データの改ざんです。この点、電子データにタイムスタンプの付与や電子署名を行うことで書類の真正性を容易に担保できるようになるため、電子インボイスの導入はデータ改ざんの防止にも役立ちます。
総務省では、「eシール」と呼ばれる新たな電子署名の導入が検討されています。eシールとは、電子データの発行元の組織を証明するための仕組みのことです。適格請求書発行事業者の確認作業の手間などを減らすことができ、バックオフィス業務の負担軽減につながります。
海外企業との取引がしやすくなる
電子インボイスの標準化に必要なPeppolは、世界中の国々で導入されているため、電子インボイスの普及によって海外企業との取引がスムーズになるのもメリットです。具体的にはオーストラリアやカナダ、ニュージーランド、シンガポール、スウェーデンなどの国々で運用されています。請求書や契約書のやり取りにおける煩雑さを解消でき、海外進出もしやすくなるでしょう。
ただし、アメリカのようにPeppolとは異なる仕組みでの標準化を目指している国もあるため、今後はそうした国々との連携や請求書の相互流通が課題となる可能性があります。
適格請求書の管理が容易になる
インボイス制度では、売り手と買い手の双方が適格請求書を7年間保存する義務を負います。そのため、紙ベースで管理していると膨大な量になり、保管スペースや経費がかかります。また、必要なタイミングで必要な書類にアクセスしにくいのもデメリットです。
電子インボイスを導入することで適格請求書をネットワーク上で管理できるため、上記問題が解決します。ファイル名やタグ、カテゴリ検索を活用すれば必要な情報にすぐにアクセスでき、業務の効率化も期待できます。
在宅勤務やテレワークでも請求書業務が可能になる
電子インボイスでは、請求書関連の業務で印刷やスキャンなどの物理的な操作が必要ない点もメリットです。ネットワーク上ですべての業務が完結するため、在宅勤務やテレワークを導入している企業でも利用しやすいといえます。
電子インボイスを導入する際の課題
取引先の課税状況を確認する
インボイスを発行できない事業者(免税事業者等)との取引では仕入税額控除を受けられず、納付する消費税額が高くなる可能性があるため、取引先の見直しが必要になるかもしれません。なお、インボイス制度の開始から6年間は、免税事業者等からの仕入れについて、現行の区分記載請求書等でも一定の割合で仕入税額控除が受けられる経過措置が設けられています。具体的には2026年(令和8年)9月までは80%、2029年(令和11年)9月までは50%の割合で控除を受けることができ、2029年10月からは完全に廃止されます。
社内システムの改修・変更を求められる
電子インボイスの運用開始に伴い、請求書の発行や管理に関するルールが変更されるため、現在使用している社内システムの改修・更新が必要になります。インボイスの記載ルールに対応した請求書発行システムの導入や、受領した請求書をインボイスとそれ以外に自動的に区別する会計システムへの改修などが代表例です。そのほかにも販売管理システムやPOSレジ、EDIシステムなどの見直しが必要です。
電子帳簿保存法に対応した契約書管理システムが必要になる
電子帳簿保存法では2022年(令和4年)1月の改正によって、電磁的記録で受領した書類を原則電子データで保存することが義務化されました。これは電子インボイスにも適用されるため、改正法に対応した契約書管理システムが必要になります。ただし、電子データの保存には2年間の猶予期間が設けられており、その期間内は紙での保存も認められています。システムの移行へ向けて取り組みを始めると良いでしょう。