コスト関連
インフレで店舗家賃は上がる?経営影響を防ぐ対処法を解説

- 目次

インフレが進行していくと、不安になるのがランニングコストの上昇です。インフレ対策として経営を見直しているうちに、以下のような悩みを抱える方もいるでしょう。
- インフレが進んでいった場合、店舗家賃は今後どうなっていくの?
- インフレによって店舗家賃の値上げを告げられたらどうすればよい?
本記事では、インフレが店舗家賃へどのように影響していくのかを解説し、賃貸人から値上げ交渉をされたときの対処法を紹介します。
最後まで読むことで、インフレの進行による経営への影響を回避できる可能性があるため、ぜひ参考にしてください。
インフレが進行していく中で店舗の家賃は値上がりしていくのか?
インフレが進行していくと、店舗の家賃は値上がりしていく可能性があります。店舗の家賃は相場の影響を受けやすく、インフレとの関係性は複雑です。
インフレで物件や土地の価格が上昇していった結果、店舗家賃の値上がりにつながる場合があります。しかし、簡単に店舗家賃が値上がりするわけではありません。
なぜなら、日本では「借地借家法」という法律により賃借人が守られるようになっているからです。この法律では、「正当な理由」と「賃貸人、賃借人両者の合意」がなければ家賃を変動できないようになっています。
日本ではインフレが進行することで家賃が値上がりする可能性はあっても、賃貸人は値上げしにくくなっているのが現状です。
インフレによって家賃が上がる理由

インフレによって家賃が上がる理由は、以下の3点です。
家賃の値上げは賃借人の合意を得る必要があり、値上げには正当な理由が求められます。インフレが進行すると賃貸人にとって正当な理由となる要因が増えていきます。
家賃の値上げ交渉を申し出られたときに正当な理由に該当するのか判断するために、インフレによってなぜ家賃が上がるのかを理解しておきましょう。
理由その1:不動産物件の価値が変わったため
インフレによって不動産の価値が上がることで、家賃の値上げを要求される場合があります。
土地や物件の状態、周辺の環境などの影響によって、不動産の価値は決まります。インフレの進行は、不動産の価値を決める項目へ影響があり、正当な理由として認められやすいのです。
世間の経済状況に伴い不動産の価値が変動したことで、家賃の値上げにつながる可能性があります。
理由その2:物価の上昇に伴い賃貸人の負担が増えるため
インフレによる物価の上昇は、賃貸人の負担が増えるため、家賃の値上げ理由として認められる傾向にあります。
物価が上昇することで、賃貸人が不動産を経営していくため、管理費や修繕費などのコストが増えていくでしょう。賃貸人は次第に経営が困難となっていくため、家賃を値上げせざるを得なくなっていきます。
インフレが進行すると、税金も上昇するため賃貸人の負担が増えた結果、店舗家賃が値上がりすることもあります。
理由その3:インフレによって同じエリアの家賃が値上がりしたため
インフレによって同じエリアの家賃が値上がりすると、現在使用している店舗の家賃が上がる傾向にあります。
店舗の家賃は「賃貸事例比較法」という手法で決められていることが多く、同じエリアの家賃に左右されやすいです。インフレが進行すると、同じエリアの家賃が上がりやすいため、正当な理由として認められやすくなります。
家賃の値上げで正当な理由として認められないケース

インフレが進行しても、家賃の値上げで正当な理由として認められないケースは以下の3つです。
家賃の値上げは交渉を断る重要な判断材料となるため、正当な理由と区別して覚えておきましょう。
ケースその1:賃貸人の収入確保のためにする場合
賃貸人の収入確保のために、店舗の家賃を上げることは正当な理由として認められない場合があります。
インフレが進行したとしても、賃貸人にとって経済状況にあまり変動がない場合もあるでしょう。インフレによる経済的負担がないにもかかわらず賃貸人の利益向上を目的とする家賃の値上げは、一般的に不当な理由となります。
ケースその2:同じエリアの家賃と比較して大幅な差が生じる場合
同じエリアの家賃と比較して大幅な差が生じる場合は、店舗家賃を値上げする理由として認められない場合があります。
店舗の家賃は同じエリアの相場に影響を受けやすく、不動産によほどの付加価値がない限り、周囲の物件よりも家賃を高くするのは難しいでしょう。
インフレで同じエリアの家賃相場が変動していなければ、値上げをすることで周囲の家賃と乖離してしまうため、正当な理由として認められません。
ケースその3:契約書に家賃の値上げをしない旨の記載がある場合
契約書に家賃の値上げをしない旨の記載がある場合、店舗の家賃を上げるよう要求されても、正当な理由として認められません。
契約書は法的な効力が強く、契約書に記載がある場合はインフレが進行したとしても、家賃の値上げが認められないようになっています。
契約書に記載している期間が終了すると、契約書の効力がなくなるため、家賃の値上げ交渉をされる場合があるため注意が必要です。

店舗の家賃が値上がりするタイミング
インフレが進行して、正当な理由があったとしても、すぐに店舗の家賃が値上げされるわけではありません。なぜなら、家賃の値上げ交渉にはそれぞれ適切なタイミングがあるからです。
店舗の家賃が値上がりするタイミングは以下の2つです。
家賃が値上げされやすいタイミングを知っておくことで、賃貸人から値上げ交渉をされる前に準備できるようになります。
タイミングその1:退去時
店舗の家賃が値上がりするタイミングは、退去時が多い傾向にあります。
賃借人がいなくなることで賃貸人は家賃収入をなくします。しかし、退去時に家賃を値上げしておくと、次の賃借人に対して値上げ交渉をせずとも、高めに設定した家賃で収入を得られるのです。
退去時は賃借人がいない期間に物件の改装をすることで、値上げした家賃に見合った付加価値を付ける場合もあります。
タイミングその2:契約更新時
契約更新時は店舗の家賃が値上がりしやすいタイミングです。
賃貸人との店舗契約は、「普通借家契約」を結んでいることが多く、契約期間は2年ごとに更新されます。契約期間が満了するたびに、賃貸契約を更新できるため、賃貸人は家賃を値上げしやすくなっています。
一般的に契約更新前の3~6カ月には家賃値上げの通知が届くため、契約更新時期が近づいてきたら交渉に必要な準備を整えておきましょう。
店舗家賃の値上げ交渉をされた場合の対処法

店舗家賃の値上げ交渉をされた場合の対処法は以下の4つです。
家賃の値上げ交渉をされた場合、どのように対処したらよいのかを把握しておくと、賃貸人とのトラブルを回避できるでしょう。
対処法その1:冷静に対処する
店舗家賃の値上げ交渉をされた場合は、冷静に対処しましょう。
経営が芳しくない状況では、賃貸人・賃借人ともに感情的になりやすくなっています。理論的な会話が求められる交渉の場において、感情的になってしまうと判断を誤ってしまうことにもなりかねません。
家賃の値上げ交渉までには賃貸人から貸借人へ、事前に通知をする必要があります。通知が来てから交渉までに一定の猶予があるため、準備を進めておくと交渉の場で冷静に対処できるようになるでしょう。
対処法その2:同じエリアの家賃相場を確認する
店舗家賃の値上げ交渉をされた場合は、同じエリアの家賃相場を確認しましょう。
店舗家賃の相場は、不動産のポータルサイトや不動産屋へ問い合わせることで確認できます。確認作業に時間を要することもあるため、値上げ交渉の通知が来たらできるだけ早めに調べておきましょう。
以下の記事では、店舗家賃の相場について解説しています。店舗の適正賃料を調べてみたい方は、ぜひ参考にしてください。
対処法その3:なぜ家賃を値上げするのかを尋ねる
店舗家賃の値上げ交渉をされた場合は、なぜ家賃を値上げするのかを尋ねてみましょう。
賃貸人によっては、不当な家賃の値上げ交渉を持ちかけてくる場合もあります。賃借人にも家賃の値上げを拒否する権利がありますが、拒否するための正当な理由を用意しておかなければなりません。
家賃を値上げする理由が不当であった場合は、拒否できるだけの知識を付けておきましょう。
対処法その4:専門家に相談する
店舗家賃の値上げ交渉をされた場合は、専門家に相談するのも一つの手です。
交渉までに事前に知識を付けても、賃貸人に圧力をかけられて断りづらくなることもあるでしょう。法律の専門家に相談すると、交渉に必要な情報を収集・分析し、適切な対処法を考えてくれます。
専門家へ相談した経験がない場合は、敷居が高く感じることもあるでしょう。ビズキューブ・コンサルティングでは、無料賃料適正診断を行っているため、気軽に相談できます。
以下の記事では、賃料適正化コンサルティングについて解説しています。コンサルティングを受ける前の予備知識として、参考にしてください。
東京都主要エリアの店舗賃料推移(2021年~2024年)

以下に、銀座・渋谷・新宿・表参道(日本におけるオフィス数上位4地域)の各エリアについて、全フロア平均・1F(路面店舗)・1F以外の月額坪単価(円/坪)を、2021年上期から2024年下期まで半期ごとにまとめました。各エリアともコロナ禍からの回復やインバウンド需要の影響により賃料動向に変化が見られます。表の後に補足として各エリアのトレンドや今後の見通しも記載します。
店舗家賃の相場を年ごとに比較しているので、その動向を把握していきましょう。

銀座エリア
銀座は日本有数の高級商業エリアで、ラグジュアリーブランドの旗艦店が集積しています。2021年以降、1F賃料はコロナ禍による落ち込みから持ち直し、2022年上期には一時坪8万円近くまで回復しました。しかしその後はやや減少に転じ、2024年上期には約6.46万円/坪まで下がっています(インバウンド需要の本格回復前の水準)。全フロア平均賃料も2022年をピークに下落傾向で、空中階(1F以外)の賃料は相対的に伸び悩んでいます。直近(2024年下期)はインバウンド客数の急増も例が出たため、1F賃料は再び約6.79万円/坪に上昇しています。以下の表に示します(単位:円/坪・月)。
【参照】
店舗賃料1位は銀座、インバウンドで強含みに | 業界関連ニュース | 東京都宅建協会 全宅保証協会東京本部)
店舗賃料、インバウンド人気の高いエリアで高額を維持 | 最新不動産ニュースサイト「R.E.port」
店舗賃料トレンド2024 秋(一般社団法人日本不動産研究所)
期別 | 全フロア平均 (円/坪・月) | 1F賃料 (円/坪・月) | 1F以外 (円/坪・月) |
2021年上期 | 35,700 | 75,200 | 31,600 |
2021年下期 | 39,300 | 75,100 | 31,900 |
2022年上期 | 42,300 | 79,200 | 33,400 |
2022年下期 | 43,200 | 77,500 | 34,100 |
2023年上期 | 39,700 | 68,700 | 35,000 |
2023年下期 | 36,900 | 64,600 | 32,500 |
2024年上期 | 36,900 | 64,600 | 32,500 |
補足・見通し
銀座の1F賃料ランキングは常に全国トップで、2024年上期時点でも銀座が第1位(坪約6.46万円)でした。希少な優良立地では高額賃料が維持されており、インバウンド消費の追い風もあって高水準を保っています。ただし、空中階は空室が目立ち供給過多の傾向が続いており、1Fほどの力強い賃料上昇には至っていません。今後もインバウンド需要が堅調な限り賃料は下支えされるものの、全体としては2022年頃のピーク水準に戻るには時間がかかるとみられます。
渋谷エリア
渋谷は若者文化・サブカルチャーの発信地で、多様な業態の店舗が混在するエリアです。1F賃料はコロナ禍後に急回復し、2023年上期には約6.05万円/坪まで上昇しました(前期比+8%)。これはインバウンド客や国内若年層の消費が戻り、好条件物件への出店が活発化したためです。
しかしその後、出店ニーズが一巡すると募集賃料はやや調整局面に入り、2024年上期には約5.39万円/坪まで低下しました。全フロア平均賃料も同様の山谷を描き、2023年下期をピークにわずかに下落しています。ただ渋谷はもともと店舗供給が限られており、インバウンド人気もあって賃料マーケットは概ね絶好調との評価です。直近(2024年下期)は再びテナント出店意欲が強く、1F賃料は約4.85万円/坪で下げ止まっています。
渋谷エリアの賃料推移(円/坪・月)は以下の通りです。
期別 | 全フロア平均 | 1F賃料 | 1F以外賃料 |
2021年上期 | 37,300 | 51,300 | 30,500 |
2021年下期 | 35,000 | 44,500 | 31,900 |
2022年上期 | 35,100 | 43,600 | 32,200 |
2022年下期 | 37,100 | 55,500 | 32,700 |
2023年上期 | 39,900 | 60,500 | 33,800 |
2023年下期 | 36,800 | 53,900 | 34,000 |
2024年上期 | 36,000 (推定) | 48,500 | 34,000 (推定) |
補足・見通し
渋谷の賃料は、2022~2023年にかけて1Fが急騰し(特に2022年下期~2023年上期)、その後はやや調整しています。インバウンド需要の高まりや渋谷独自のカルチャーコンテンツが集客を牽引しており、空中階賃料も緩やかな上昇を続けています。今後も優良物件の供給が限られる中、インバウンドと若年層消費が堅調であれば賃料は高止まりすると予想されます。一方、景気後退などで消費マインドが冷えれば再度調整局面もあり得るため、動向を注視する必要があります。
新宿エリア
新宿は繁華街とオフィス街が混在し、歌舞伎町など夜間経済でも知られるエリアです。1F賃料は2022年上期まで緩やかに上昇しましたが、その後は下落に転じ、2024年上期には約4.67万円/坪と都内主要エリアでは最も低い水準でした。
しかし直近の2024年下期には約5.66万円/坪へ急伸し、渋谷を抜いて再び都内2位の水準に戻っています(前期比+21%と大幅上昇)。これは新宿東口の大型開業(歌舞伎町タワーなど)による集客増や、インバウンド需要に対応した店舗出店(免税店・リユース店等)の活発化が背景にあります。全フロア平均賃料も2024年上期に底を打ち、下期には持ち直しました。
新宿エリアの賃料推移(円/坪・月)は以下の通りです。
期別 | 全フロア平均 | 1F賃料 | 1F以外賃料 |
2021年上期 | 33,300 | 51,500 | 29,000 |
2021年下期 | 36,900 | 54,000 | 30,000 |
2022年上期 | 37,500 | 56,300 | 33,300 |
2022年下期 | 37,200 | 57,100 | 34,700 |
2023年上期 | 34,700 | 53,600 | 34,100 |
2023年下期 | 34,100 | 48,100 | 32,500 |
2024年上期 | 34,000 (推定) | 46,700 | 31,200 |
補足・見通し
新宿の1F賃料は銀座・渋谷より低位ですが、2024年下期に大幅上昇して渋谷を追い抜く動きが見られました。歌舞伎町を中心に夜間経済が復調し、インバウンド客を取り込む免税店やリユース店の出店が目立っています。
今後、新宿駅周辺で進行中の再開発(小田急百貨店・京王百貨店の建替えなど)が完了すれば、新たな集客とテナント需要を生み出し賃料押上げ要因となる可能性があります。一方でエリア内の立地格差も大きく、プライムエリア(新宿通り沿い)では坪当たりの賃料が他より高水準で推移する一方、裏通りでは空室が残存し賃料伸び悩みもみられます。総じて、新宿エリアの賃料はインバウンド景気に支えられつつ、再開発効果による上昇余地も期待されます。
表参道エリア
表参道は高級ブランド店が並ぶ日本有数のファッションストリートで、青山・原宿エリアを含め感度の高い店舗が集積しています。1F賃料はコロナ禍でも比較的底堅く推移し、2023年下期には約5.78万円/坪まで上昇、その後2024年上期には約6.19万円/坪と都内2位の水準に達しました。銀座に次ぐ高水準で、インバウンド復調の恩恵も受けて堅調です。全フロア平均賃料も緩やかな上昇トレンドを描き、2024年上期時点で銀座を上回る坪4.62万円となっています。空中階も含め、ブランド志向の強いテナント需要によって賃料は安定的に推移しています。
表参道エリアの賃料推移(円/坪・月)は以下の通りです。
期別 | 全フロア平均 | 1F賃料 | 1F以外賃料 |
2021年上期 | 37,000 | 47,900 | 38,400 |
2021年下期 | 41,600 | 51,500 | 36,100 |
2022年上期 | 42,900 | 55,300 | 35,900 |
2022年下期 | 43,200 | 53,700 | 37,100 |
2023年上期 | 43,500 | 57,800 | 36,600 |
2023年下期 | 46,200 | 61,900 | 38,100 |
2024年上期 | (資料未公表) | 60,900 | (資料未公表) |
補足・見通し
表参道の1F賃料は常に都内トップクラスで推移しており、2024年上期には銀座に迫る水準でした。インバウンド人気も高く、ラグジュアリーブランドの出店ニーズが強いため賃料は高止まり傾向にあります。青山・原宿エリアを含めた周辺ではコスメやカフェなど新規出店も相次ぎ、エリア全体で出店意欲が維持され賃料も堅調と分析されています。
今後もブランド戦略上このエリアに旗艦店を構える動きが続く限り、大幅な賃料下落リスクは小さいでしょう。一方、表参道交差点周辺のプライム立地以外では物件によってばらつきもあり、募集件数は減少傾向に入ったものの依然として空室も見られる状況です。総じて、表参道エリアの賃料は高水準を維持しつつ安定推移すると見込まれます。
参考文献: 日本不動産研究所「店舗賃料トレンド」各号(2021~2025)
インフレの影響で店舗家賃が値上がりする前に無料賃料適正診断を
日本はインフレが進行しても、借地借家法によって家賃が上がりにくい傾向にあります。しかし、インフレが進行し続ければ家賃の高騰は十分に考えられます。
賃貸人・賃借人ともにインフレの影響を受けるため、お互い正当な理由があっても、交渉が難航することもあるでしょう。自社のみでは困難な交渉でも、専門家に相談することで適切に対応できる可能性があります。
インフレによる家賃の値上げに不安を感じている方は、まずビズキューブ・コンサルティングの無料賃料適正診断をしてみることをおすすめします。