コスト関連

インフレで家賃はどう変わる?テナント賃料の目減り回避と収益改善の実践法

目次
  1. インフレはテナント賃料にどう影響するのか?市場動向を整理
  2. インフレ局面でオーナーが収益改善できる仕組みとは?
  3. なぜ「今」が賃料を見直す最適タイミングなのか?
  4. インフレに強い契約設計と賃料改定の実務
  5. 賃料改定が収益に与えるインパクト:改善と放置リスクの差
  6. まずは自物件の「適正賃料」を把握することが第一歩
記事を読むよりも、まずは詳しい資料を読みたい方へ

商業用不動産の賃料は、緩やかな上昇が続いています。一方、更新を重ねた契約賃料は上昇ペースに追いつきにくく、「取り残される」ケースが増えています。

放置していれば実質的な値下げが積み上がる局面だからこそ、賃料を見直すタイミングと根拠を整理します。

インフレはテナント賃料にどう影響するのか?市場動向を整理

インフレが続く現在、商業用不動産(オフィス・店舗)の賃料は、全体として緩やかな上昇傾向にあります。一方で、日本では借地借家法に基づき、賃料改定には「相当性」の裏付けが求められるため、欧米ほど物価への連動が早くはありません。

インフレと賃料の関係を捉えるには、賃料を押し上げる要因を整理することが重要です。

インフレが賃料に影響する3つのメカニズム

インフレが賃料に影響する3つのメカニズム

以下は、賃料水準に影響しやすい主要な要因です。
それぞれの因果関係を押さえることで、今後の交渉余地や更新戦略の判断材料になります。

要因賃料への影響補足(実務イメージ)
建築費の上昇再調達原価が増加し賃料を押し上げる要因に資材価格・人件費増→新築コスト上昇
地価・不動産価格の上昇必要利回り確保のため賃料を押し上げる要因に投資マネーがインカム資産へ流入しやすい局面
市場賃料とのギャップ拡大更新・入替時に賃料見直しの圧力が強まる要因に契約賃料<市場賃料 となるケースが増加

東京ビジネス地区(都心5区)では、2023年以降、募集オフィス賃料が緩やかに上昇し、空室率の低下が続く状況が見られます。

参考:三鬼商事「オフィスマーケット 東京ビジネス地区/2025年10月時点」

賃料が上がりやすい立地/下がりにくい立地

インフレ局面でも、立地特性により賃料変動の幅は大きく異なります。

インフレ局面で賃料が上がりやすい/下がりにくい立地

▼上がりやすい立地

  • 銀座・表参道などブランド集積エリア(旗艦店ニーズが強い)
  • インバウンド需要が厚い観光地・繁華街
  • 駅前一等地・基幹交差点周辺(供給余地が限定)

▼下がりにくい立地

  • 駅近 × 高通行量の生活導線上にある物件
  • 食品・日用品など生活密着型テナントが核の施設
  • 大型再開発エリア(将来の集客・ブランド力改善期待)

一方、地方都市や郊外では空室が残り、賃料引き上げが難しいケースも多く見られます。

店舗とオフィスで異なる「賃料変動のクセ」

用途ごとに、賃料が動く仕組みは違います。更新判断では必ず分けて検討します。

用途賃料の動き方補足(実務イメージ)
店舗売上連動賃料があるため物価・消費回復を賃料に投影しやすい売上悪化時は退去リスク増(収益性バランスが重要)
オフィス固定賃料が中心で名目賃料は動きにくいただしフリーレントなどインセンティブ増により、貸主の実収入は下がり、利回り低下につながることも

インフレ局面で賃貸経営を考える際は、「立地」×「用途」×「市場賃料とのギャップ」 の3点を可視化することが、適正賃料の判断精度を高める第一歩になります。

この整理ができると、交渉すべきか/維持すべきかの判断が明確になります。

インフレ局面でオーナーが収益改善できる仕組みとは?

インフレはテナントにとってコスト増ですが、適切に対応できればオーナーにとっては収益改善のチャンスになります。ポイントは、「名目賃料」と「実質賃料」の違いを正しく理解することです。

名目賃料と実質賃料を分けて捉える理由

賃料には、次の2つの見方があります。

賃料の種類定義実務で起きる例
名目賃料(Face Rent)契約書に記載される数字。インセンティブや物価は反映しない据え置きでも見た目は変わらない
実質賃料(Effective/Real Rent)インセンティブ控除+物価変動を踏まえた“実質価値”物価が上昇するほど、同じ名目賃料でも受け取る価値(購買力)は低下(=実質賃料が目減りする)

インフレ局面では、

  • 名目賃料 → 横ばい
  • 実質賃料 → 目減り

という状況が起きやすいです。

名目賃料は横ばいでも、実質賃料は目減りする

インフレが資産価値と賃料を押し上げる仕組み

インフレ時は、不動産価格そのものも上がりやすくなります。

起点連鎖結果
建築費・地価上昇新規供給コストが上がり、既存物件の代替価値が上昇必要賃料水準が切り上がる
必要賃料水準上昇契約賃料が据え置きなら“乖離”が生まれる(適正化余地)NOI(純収益)改善
NOI改善物件価値押し上げ売却想定価値も上昇

“取りに行かなければ消えてしまう利益”がある

日本の商業用賃貸借では、

  • 契約期間中は賃料固定
  • 賃料改定には合意が必要(自動連動なし)

という形式が一般的です。

その結果として起きるのが、

  • 市場賃料は上昇
  • 契約賃料は据え置き
  • 実質賃料は継続的に低下

であり、市場賃料の上昇分を反映しない限り、“見えない減額”が累積することになります。

インフレ局面での賃貸経営では、黙っていれば実質賃料が減少し、適切に動けば収益改善の余地が生まれます。

まずは、

  • 市場賃料とのギャップ
  • 更新・期間満了のタイミング
  • インセンティブの影響

これらを整理し、利益を取りこぼさない設計が求められます。

なぜ「今」が賃料を見直す最適タイミングなのか?

商業用不動産では、動くタイミングが収益インパクトを大きく左右します。
日本の契約慣行(賃料固定/改定は合意ベース)を踏まえると、インフレ局面の「今」は複数の好機が重なっている状態です。

賃料改定がしやすい3つのタイミング

以下の3局面は、賃料改定(=賃料適正化)に動きやすいタイミングです。

タイミング動ける理由実務でのポイント
契約更新契約条件を見直す機会(普通借家は2〜3年ごとの更新契約が多い)市場賃料・CPIなど客観根拠の整理
テナント入替(退去/新規入居)合意前提が不要になるため市場へ一気に接続内装仕様・用途変更とセットで再設計
立地環境の変化(再開発など)物件価値変化を賃料へ反映しやすい来街者数・売上増の見込みを提示

インフレ+コロナ後の需給回復が同時進行する今は、この3点が同時に成立しやすい局面です。

「後追い改定」が難しくなる3つの理由

様子見を続けると、次のような不利が蓄積します。

  • 市場賃料が上がり切った後では、テナントの許容余地が縮小
  • 景気悪化局面に入ると、逆に減額要請リスクが増加

つまり、物価・賃料が上がり始めた“前後”が、最も動きやすく、成果を得やすいタイミングなのです。

空室リスクと期待収益のバランスを設計する

賃料の増額を検討する際は、次の視点をセットで確認します。

  • 市場水準と比べて適正か?
  • テナントの収益性から見て妥当か?
  • 空室になった場合の再募集期間・賃料水準は?

ポイントは、「空室リスク込みで期待収益が改善するか」を冷静にシミュレーションして判断することです。

インフレ局面では、賃料を据え置くほど、実質的な値下げが累積するリスクが高まります。

賃料改定を先送りするほど、実質賃料の目減り=機会損失が積み上がります。
市場環境が動く“初期”は、小さな改定でも効果が出やすい/後追いすると回収が難しくなる分岐点です。適正化の一歩が、そのまま資産価値の改善につながります。

インフレに強い契約設計と賃料改定の実務

インフレ環境下で安定的な収益を確保するには、契約自体に「インフレ耐性」を組み込む発想が欠かせません。

ここでは、その代表的な契約設計と実務の進め方を整理します。

①物価連動で「見えない目減り」を防ぐ契約設計

インフレに連動して賃料水準を適切に保つ仕組みとして、次の2タイプが契約時の合意に基づき導入されます。(※更新途中に自動反映されるものではありません)

契約設計概要実務イメージ
CPI連動賃料CPI(消費者物価指数)等に連動し自動調整インフレ率に応じて毎年見直し(上限・下限設定可)
ステップアップ賃料契約期間中に段階的に賃料引上げインフレ・再開発効果などを事前に反映

いずれも、

  • 連動させる指数の選定
  • 調整頻度(例:年1回)
  • 変動幅の設定(キャップ&フロア)

など、設計論点が多いため、専門家と組み立てる前提が基本です。

②商業テナントは「複合型賃料」で調整余地を確保

商業施設では、賃料が複数要素で構成されるケースが多くあります。

主な構成要素収益への影響留意点
固定賃料安定収益の基盤インフレ局面では目減りリスク
売上歩合賃料需要回復メリットを取り込みやすい売上変動時のリスクを分担
共益費・広告費収益確保の「調整弁」になり得る増加分の説明責任が必要
内装・設備負担区分資産維持/集客力向上に影響A/B/C工事でコスト配分が変わる

インフレ局面では、固定賃料の上昇を抑えつつ、売上連動分や共益費で“実質取り分”を最適化する設計が選択肢になります。例えば、固定賃料を据え置きながら歩合賃料割合を数%見直すだけでも、収益改善余地が生まれるケースがあります。

ただし、歩合比率を高めすぎると収益の安定性が低下するため、ポートフォリオ全体のバランス管理が重要です。

③「根拠に基づく賃料改定」のための実務ステップ

賃料適正化は、次のプロセスを踏むことで進めやすくなります。

  1. 現状把握:
    ・契約条件(賃料・インセンティブなど)
    ・周辺募集賃料・空室率
    ・テナント収益性の把握(※詳細データは開示されないため、業態別の一般水準を参照)
  2. 根拠の整理:
    ・インフレ率/建築費/地価などマクロ指標
    ・エリア別の賃料トレンド
    ・物件固有の付加価値(再開発・導線改善など)
  3. 改定案の設計:
    ・市場賃料とのギャップ解消幅
    ・段階的調整/指数連動の有無
    ・空室発生時の再募集シナリオ
  4. テナントとの協議:
    ・双方のメリット整理
    ・売上・集客改善策と合わせて提案
  5. 契約反映:
    ・合意内容を確実にドキュメント化

プロセスは、データ(数値根拠)×ストーリー(改善意義)の両立が鍵となります。

特に、空室リスク込みで期待収益が改善するかをシミュレーションし、判断材料を揃えることが重要です。

契約と市場データの両面を押さえることが、安定収益と資産価値維持の前提となります。

特にインフレ局面では、放置すれば目減り/設計すれば改善が同時に成立するため、先手の対応が合理的です。

賃料改定が収益に与えるインパクト:改善と放置リスクの差

インフレ局面では、わずか数%の乖離が「数千万円〜数億円」の成果差につながります。特に、複数年にわたる継続収益では複利的な差が大きくなります。

ここでは仮想モデルを用い、改善効果と放置した場合の損失をイメージできるよう整理します。

賃料を“適正化した場合”と“放置した場合”の差

オフィスビルの改善イメージ

項目
規模延床5,000㎡(約1,500坪)複数テナント
現行賃料20,000円/坪・月
市場賃料約21,500円/坪・月(都心ビジネスエリアでは近年7〜8%上昇が見られる想定)

更新や入替のタイミングを捉え、平均 5%(+1,000円/坪・月) の適正化ができた場合、

▼年間収益改善額:
1,500坪 × 1,000円 × 12カ月
1,800万円/年の増収

もし市場利回り(期待利回り)が5%で評価される物件なら、

▼物件価値の押し上げ効果:
1,800万円 ÷ 0.05
約3億6,000万円

比較的小さな見直しでも、利益も資産価値も 大きな改善が見込まれることが分かります。

店舗ビルの改善イメージ

項目
立地駅前ハイストリート沿い
現行賃料80,000円/坪・月
周辺成約賃料90,000円/坪・月

▼更新時の調整例:

項目変更前変更後
賃料形態固定のみ固定+歩合(固定75,000円+売上の3%)
  • テナント:固定費が下がり、運営しやすくなる
  • オーナー:売上増(インフレ・観光回復)分を取り込める

歩合分が上振れすれば、景気回復のメリットを賃料に反映できるため、実質賃料が旧来賃料(80,000円)を超える可能性があります。

改定見送りが招く「ゆっくりした値下げ」

以下のようなケースを想定します。

  • 物価:毎年+2%ずつ上昇
  • 契約賃料:10年間据え置き

この場合、実質価値は 約18%の目減りとなります。名目が据え置きでも、物価上昇が毎年積み重なるためです(複利効果)。

見た目はそのままでも、実質的には毎年少しずつ値下げしているのと同じ結果になります。インフレ局面では、放置=損の累積になることが明確です。

まずは自物件の「適正賃料」を把握することが第一歩

インフレ局面の賃貸経営では、いまの賃料が市場と比べてどれほど乖離しているか、この“現在地”の把握が出発点になります。

適正賃料の判断に必要な4つの情報

以下の情報を組み合わせると、賃料の妥当性が客観的に見えてきます。

情報具体項目判断に影響する示唆
市場賃料募集・成約賃料(用途/階数別)市場とのギャップ把握
需給動向空室率、入替頻度(マクロ/ミクロ)賃料上昇余地、退去リスク
商圏データ人口、所得、来街者数、インバウンド売上ポテンシャル(歩合比率の妥当性)
物件スペック築年、設備、視認性、導線、用途制限上位互換物件との比較材料

整理することで例えば、

  • 市場賃料が上がっているのに自物件だけ据え置き
    →回収できたはずの利益が積み上がらない
  • 逆にテナント負担が過大になり退去が増えそう

といった兆候が分かります。

適正賃料が見えると、戦略の幅が広がる

単純な「上げる/上げない」ではなく、複数の選択肢が取れるようになります。

例えば、

  • 今回は据え置き → 次回更新で CPI連動導入を検討
  • 空中階だけ乖離が大きい → フロア別に戦略を分けて是正
  • 再開発完了後に大幅見直しのシナリオを設定 等

数字が見えると、判断に迷わなくなります。

ビズキューブの「賃料適正診断」で意思決定を支援

とはいえ、これらのデータ収集と分析をオーナー単独で行うのは大きな負担です。

ビズキューブ・コンサルティングでは、市場募集賃料データ250万件×実態分析賃料データ15万件を基に、自物件の適正賃料レンジの算出と賃料適正化の支援をいたします。

この支援によりインフレ局面で問われる、「上げるべきか、維持すべきか」「どこまで上げられるか」「空室リスクとどう両立させるか」を、感覚ではなくデータとロジックで検討できるようになることがポイントです。

まずは「自物件が市場と比べてどの位置にいるか」を数値で把握すること。
ここが明確になれば、次に取るべきアクションは自ずと定まります。

払いすぎている賃料、放置していませんか?

実は、相場よりも高いテナント賃料を支払い続けている企業は、少なくありません。
その差額は、毎月数十万円から数百万円に及ぶ可能性があります。

ビズキューブ・コンサルティングは、賃料適正化コンサルティングのパイオニアとして、
これまでに【35,558件・2,349億円】の賃料削減を支援してきました。

まずは、無料の「賃料適正診断」で、現在の賃料が適正かどうかをチェックしてみませんか?
診断は貸主に知られることなく実施可能なため、トラブルの心配もありません。安心してご利用いただけます。

賃料適正診断