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インフレで家賃はどう変わる?テナント賃料の目減り回避と収益改善の実践法

- 目次
商業用不動産の賃料は、緩やかな上昇が続いています。一方、更新を重ねた契約賃料は上昇ペースに追いつきにくく、「取り残される」ケースが増えています。
放置していれば実質的な値下げが積み上がる局面だからこそ、賃料を見直すタイミングと根拠を整理します。
インフレはテナント賃料にどう影響するのか?市場動向を整理
インフレが続く現在、商業用不動産(オフィス・店舗)の賃料は、全体として緩やかな上昇傾向にあります。一方で、日本では借地借家法に基づき、賃料改定には「相当性」の裏付けが求められるため、欧米ほど物価への連動が早くはありません。
インフレと賃料の関係を捉えるには、賃料を押し上げる要因を整理することが重要です。
インフレが賃料に影響する3つのメカニズム

以下は、賃料水準に影響しやすい主要な要因です。
それぞれの因果関係を押さえることで、今後の交渉余地や更新戦略の判断材料になります。
| 要因 | 賃料への影響 | 補足(実務イメージ) |
| 建築費の上昇 | 再調達原価が増加し賃料を押し上げる要因に | 資材価格・人件費増→新築コスト上昇 |
| 地価・不動産価格の上昇 | 必要利回り確保のため賃料を押し上げる要因に | 投資マネーがインカム資産へ流入しやすい局面 |
| 市場賃料とのギャップ拡大 | 更新・入替時に賃料見直しの圧力が強まる要因に | 契約賃料<市場賃料 となるケースが増加 |
東京ビジネス地区(都心5区)では、2023年以降、募集オフィス賃料が緩やかに上昇し、空室率の低下が続く状況が見られます。
参考:三鬼商事「オフィスマーケット 東京ビジネス地区/2025年10月時点」
賃料が上がりやすい立地/下がりにくい立地
インフレ局面でも、立地特性により賃料変動の幅は大きく異なります。

▼上がりやすい立地
- 銀座・表参道などブランド集積エリア(旗艦店ニーズが強い)
- インバウンド需要が厚い観光地・繁華街
- 駅前一等地・基幹交差点周辺(供給余地が限定)
▼下がりにくい立地
- 駅近 × 高通行量の生活導線上にある物件
- 食品・日用品など生活密着型テナントが核の施設
- 大型再開発エリア(将来の集客・ブランド力改善期待)
一方、地方都市や郊外では空室が残り、賃料引き上げが難しいケースも多く見られます。
店舗とオフィスで異なる「賃料変動のクセ」
用途ごとに、賃料が動く仕組みは違います。更新判断では必ず分けて検討します。
| 用途 | 賃料の動き方 | 補足(実務イメージ) |
| 店舗 | 売上連動賃料があるため物価・消費回復を賃料に投影しやすい | 売上悪化時は退去リスク増(収益性バランスが重要) |
| オフィス | 固定賃料が中心で名目賃料は動きにくい | ただしフリーレントなどインセンティブ増により、貸主の実収入は下がり、利回り低下につながることも |
インフレ局面で賃貸経営を考える際は、「立地」×「用途」×「市場賃料とのギャップ」 の3点を可視化することが、適正賃料の判断精度を高める第一歩になります。
この整理ができると、交渉すべきか/維持すべきかの判断が明確になります。
インフレ局面でオーナーが収益改善できる仕組みとは?
インフレはテナントにとってコスト増ですが、適切に対応できればオーナーにとっては収益改善のチャンスになります。ポイントは、「名目賃料」と「実質賃料」の違いを正しく理解することです。
名目賃料と実質賃料を分けて捉える理由
賃料には、次の2つの見方があります。
| 賃料の種類 | 定義 | 実務で起きる例 |
| 名目賃料(Face Rent) | 契約書に記載される数字。インセンティブや物価は反映しない | 据え置きでも見た目は変わらない |
| 実質賃料(Effective/Real Rent) | インセンティブ控除+物価変動を踏まえた“実質価値” | 物価が上昇するほど、同じ名目賃料でも受け取る価値(購買力)は低下(=実質賃料が目減りする) |
インフレ局面では、
- 名目賃料 → 横ばい
- 実質賃料 → 目減り
という状況が起きやすいです。

インフレが資産価値と賃料を押し上げる仕組み
インフレ時は、不動産価格そのものも上がりやすくなります。
| 起点 | 連鎖 | 結果 |
| 建築費・地価上昇 | 新規供給コストが上がり、既存物件の代替価値が上昇 | 必要賃料水準が切り上がる |
| 必要賃料水準上昇 | 契約賃料が据え置きなら“乖離”が生まれる(適正化余地) | NOI(純収益)改善 |
| NOI改善 | 物件価値押し上げ | 売却想定価値も上昇 |
“取りに行かなければ消えてしまう利益”がある
日本の商業用賃貸借では、
- 契約期間中は賃料固定
- 賃料改定には合意が必要(自動連動なし)
という形式が一般的です。
その結果として起きるのが、
- 市場賃料は上昇
- 契約賃料は据え置き
- 実質賃料は継続的に低下
であり、市場賃料の上昇分を反映しない限り、“見えない減額”が累積することになります。
インフレ局面での賃貸経営では、黙っていれば実質賃料が減少し、適切に動けば収益改善の余地が生まれます。
まずは、
- 市場賃料とのギャップ
- 更新・期間満了のタイミング
- インセンティブの影響
これらを整理し、利益を取りこぼさない設計が求められます。

なぜ「今」が賃料を見直す最適タイミングなのか?
商業用不動産では、動くタイミングが収益インパクトを大きく左右します。
日本の契約慣行(賃料固定/改定は合意ベース)を踏まえると、インフレ局面の「今」は複数の好機が重なっている状態です。
賃料改定がしやすい3つのタイミング
以下の3局面は、賃料改定(=賃料適正化)に動きやすいタイミングです。
| タイミング | 動ける理由 | 実務でのポイント |
| 契約更新 | 契約条件を見直す機会(普通借家は2〜3年ごとの更新契約が多い) | 市場賃料・CPIなど客観根拠の整理 |
| テナント入替(退去/新規入居) | 合意前提が不要になるため市場へ一気に接続 | 内装仕様・用途変更とセットで再設計 |
| 立地環境の変化(再開発など) | 物件価値変化を賃料へ反映しやすい | 来街者数・売上増の見込みを提示 |
インフレ+コロナ後の需給回復が同時進行する今は、この3点が同時に成立しやすい局面です。
「後追い改定」が難しくなる3つの理由
様子見を続けると、次のような不利が蓄積します。
- 市場賃料が上がり切った後では、テナントの許容余地が縮小
- 景気悪化局面に入ると、逆に減額要請リスクが増加
つまり、物価・賃料が上がり始めた“前後”が、最も動きやすく、成果を得やすいタイミングなのです。
空室リスクと期待収益のバランスを設計する
賃料の増額を検討する際は、次の視点をセットで確認します。
- 市場水準と比べて適正か?
- テナントの収益性から見て妥当か?
- 空室になった場合の再募集期間・賃料水準は?
ポイントは、「空室リスク込みで期待収益が改善するか」を冷静にシミュレーションして判断することです。
インフレ局面では、賃料を据え置くほど、実質的な値下げが累積するリスクが高まります。
賃料改定を先送りするほど、実質賃料の目減り=機会損失が積み上がります。
市場環境が動く“初期”は、小さな改定でも効果が出やすい/後追いすると回収が難しくなる分岐点です。適正化の一歩が、そのまま資産価値の改善につながります。
インフレに強い契約設計と賃料改定の実務
インフレ環境下で安定的な収益を確保するには、契約自体に「インフレ耐性」を組み込む発想が欠かせません。
ここでは、その代表的な契約設計と実務の進め方を整理します。

①物価連動で「見えない目減り」を防ぐ契約設計
インフレに連動して賃料水準を適切に保つ仕組みとして、次の2タイプが契約時の合意に基づき導入されます。(※更新途中に自動反映されるものではありません)
| 契約設計 | 概要 | 実務イメージ |
| CPI連動賃料 | CPI(消費者物価指数)等に連動し自動調整 | インフレ率に応じて毎年見直し(上限・下限設定可) |
| ステップアップ賃料 | 契約期間中に段階的に賃料引上げ | インフレ・再開発効果などを事前に反映 |
いずれも、
- 連動させる指数の選定
- 調整頻度(例:年1回)
- 変動幅の設定(キャップ&フロア)
など、設計論点が多いため、専門家と組み立てる前提が基本です。
②商業テナントは「複合型賃料」で調整余地を確保
商業施設では、賃料が複数要素で構成されるケースが多くあります。
| 主な構成要素 | 収益への影響 | 留意点 |
| 固定賃料 | 安定収益の基盤 | インフレ局面では目減りリスク |
| 売上歩合賃料 | 需要回復メリットを取り込みやすい | 売上変動時のリスクを分担 |
| 共益費・広告費 | 収益確保の「調整弁」になり得る | 増加分の説明責任が必要 |
| 内装・設備負担区分 | 資産維持/集客力向上に影響 | A/B/C工事でコスト配分が変わる |
インフレ局面では、固定賃料の上昇を抑えつつ、売上連動分や共益費で“実質取り分”を最適化する設計が選択肢になります。例えば、固定賃料を据え置きながら歩合賃料割合を数%見直すだけでも、収益改善余地が生まれるケースがあります。
ただし、歩合比率を高めすぎると収益の安定性が低下するため、ポートフォリオ全体のバランス管理が重要です。
③「根拠に基づく賃料改定」のための実務ステップ
賃料適正化は、次のプロセスを踏むことで進めやすくなります。
- 現状把握:
・契約条件(賃料・インセンティブなど)
・周辺募集賃料・空室率
・テナント収益性の把握(※詳細データは開示されないため、業態別の一般水準を参照) - 根拠の整理:
・インフレ率/建築費/地価などマクロ指標
・エリア別の賃料トレンド
・物件固有の付加価値(再開発・導線改善など) - 改定案の設計:
・市場賃料とのギャップ解消幅
・段階的調整/指数連動の有無
・空室発生時の再募集シナリオ - テナントとの協議:
・双方のメリット整理
・売上・集客改善策と合わせて提案 - 契約反映:
・合意内容を確実にドキュメント化
プロセスは、データ(数値根拠)×ストーリー(改善意義)の両立が鍵となります。
特に、空室リスク込みで期待収益が改善するかをシミュレーションし、判断材料を揃えることが重要です。
契約と市場データの両面を押さえることが、安定収益と資産価値維持の前提となります。
特にインフレ局面では、放置すれば目減り/設計すれば改善が同時に成立するため、先手の対応が合理的です。
賃料改定が収益に与えるインパクト:改善と放置リスクの差
インフレ局面では、わずか数%の乖離が「数千万円〜数億円」の成果差につながります。特に、複数年にわたる継続収益では複利的な差が大きくなります。
ここでは仮想モデルを用い、改善効果と放置した場合の損失をイメージできるよう整理します。

オフィスビルの改善イメージ
| 項目 | 値 |
| 規模 | 延床5,000㎡(約1,500坪)複数テナント |
| 現行賃料 | 20,000円/坪・月 |
| 市場賃料 | 約21,500円/坪・月(都心ビジネスエリアでは近年7〜8%上昇が見られる想定) |
更新や入替のタイミングを捉え、平均 5%(+1,000円/坪・月) の適正化ができた場合、
▼年間収益改善額:
1,500坪 × 1,000円 × 12カ月
= 1,800万円/年の増収
もし市場利回り(期待利回り)が5%で評価される物件なら、
▼物件価値の押し上げ効果:
1,800万円 ÷ 0.05
= 約3億6,000万円
比較的小さな見直しでも、利益も資産価値も 大きな改善が見込まれることが分かります。
店舗ビルの改善イメージ
| 項目 | 値 |
| 立地 | 駅前ハイストリート沿い |
| 現行賃料 | 80,000円/坪・月 |
| 周辺成約賃料 | 90,000円/坪・月 |
▼更新時の調整例:
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
| 賃料形態 | 固定のみ | 固定+歩合(固定75,000円+売上の3%) |
- テナント:固定費が下がり、運営しやすくなる
- オーナー:売上増(インフレ・観光回復)分を取り込める
歩合分が上振れすれば、景気回復のメリットを賃料に反映できるため、実質賃料が旧来賃料(80,000円)を超える可能性があります。
改定見送りが招く「ゆっくりした値下げ」
以下のようなケースを想定します。
- 物価:毎年+2%ずつ上昇
- 契約賃料:10年間据え置き
この場合、実質価値は 約18%の目減りとなります。名目が据え置きでも、物価上昇が毎年積み重なるためです(複利効果)。
見た目はそのままでも、実質的には毎年少しずつ値下げしているのと同じ結果になります。インフレ局面では、放置=損の累積になることが明確です。
まずは自物件の「適正賃料」を把握することが第一歩
インフレ局面の賃貸経営では、いまの賃料が市場と比べてどれほど乖離しているか、この“現在地”の把握が出発点になります。
適正賃料の判断に必要な4つの情報
以下の情報を組み合わせると、賃料の妥当性が客観的に見えてきます。
| 情報 | 具体項目 | 判断に影響する示唆 |
| 市場賃料 | 募集・成約賃料(用途/階数別) | 市場とのギャップ把握 |
| 需給動向 | 空室率、入替頻度(マクロ/ミクロ) | 賃料上昇余地、退去リスク |
| 商圏データ | 人口、所得、来街者数、インバウンド | 売上ポテンシャル(歩合比率の妥当性) |
| 物件スペック | 築年、設備、視認性、導線、用途制限 | 上位互換物件との比較材料 |
整理することで例えば、
- 市場賃料が上がっているのに自物件だけ据え置き
→回収できたはずの利益が積み上がらない - 逆にテナント負担が過大になり退去が増えそう
といった兆候が分かります。
適正賃料が見えると、戦略の幅が広がる
単純な「上げる/上げない」ではなく、複数の選択肢が取れるようになります。
例えば、
- 今回は据え置き → 次回更新で CPI連動導入を検討
- 空中階だけ乖離が大きい → フロア別に戦略を分けて是正
- 再開発完了後に大幅見直しのシナリオを設定 等
数字が見えると、判断に迷わなくなります。
ビズキューブの「賃料適正診断」で意思決定を支援
とはいえ、これらのデータ収集と分析をオーナー単独で行うのは大きな負担です。
ビズキューブ・コンサルティングでは、市場募集賃料データ250万件×実態分析賃料データ15万件を基に、自物件の適正賃料レンジの算出と賃料適正化の支援をいたします。
この支援によりインフレ局面で問われる、「上げるべきか、維持すべきか」「どこまで上げられるか」「空室リスクとどう両立させるか」を、感覚ではなくデータとロジックで検討できるようになることがポイントです。
まずは「自物件が市場と比べてどの位置にいるか」を数値で把握すること。
ここが明確になれば、次に取るべきアクションは自ずと定まります。

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