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【貸主企業向け】テナント家賃の値上げ交渉の実務|判断軸・根拠資料・トラブル回避

目次
  1. テナントへの家賃値上げ交渉前に貸主が押さえるべき基本
  2. 家賃の値上げ変更が認められる法的基準
  3. 交渉前に必ず確認すべき契約条件は?
  4. 更新時と契約期間中で判断が変わる理由
  5. 賃料増額のメリットとリスク
  6. 賃料相場調査と周辺環境の分析
  7. 現行賃料が「相場のどこに位置するか」を整理する
記事を読むよりも、まずは詳しい資料を読みたい方へ

テナント家賃の値上げ交渉は、貸主企業にとって不動産収益を見直すための一つの判断手段です。一方で、進め方を誤ると、テナントとの関係悪化や契約トラブルにつながる可能性があります。

貸主企業にとって重要なのは、感覚的な押し引きではなく、契約条項と客観データに基づいて「妥当な水準」を説明できる形で進めることです。家賃の是非は「強く言えるか」ではなく、第三者にも合理的と評価され得る根拠を用意できているかで決まります。

本記事では、法人貸主の実務担当者を想定し、

  • 家賃値上げを検討する際の法的な考え方
  • 事前に確認すべき契約・条件整理のポイント
  • 交渉を紛争化させないための実務上の進め方

を、判断軸の整理という観点から解説します。
社内説明や中長期的な賃貸経営を見据えた検討材料として、活用できる内容を目指します。

テナントへの家賃値上げ交渉前に貸主が押さえるべき基本

テナント家賃の値上げ交渉は、事前整理の質によって結果が大きく左右されます。
交渉に入る前に、値上げの背景要因、想定されるリスク、法的な前提条件を整理しておくことが重要です。

家賃値上げの検討背景には、単一の理由ではなく、複数の外部環境の変化が重なっています。
近年は、物価上昇や原材料費の高騰により、修繕費や設備更新費が増加する傾向があります。
これらのコスト増を反映しなければ、中長期的な収支バランスを維持できないケースも考えられます。

一方で、契約条件やテナントとの取引関係を考慮せず、一方的に値上げを通知することは、紛争リスクを高める要因となります。
値上げの合理性を説明できない場合、交渉が長期化し、結果として空室や関係悪化につながる可能性もあります。

また、家賃交渉においては、法律面の理解が不可欠です。
借地借家法では、賃料の増額は貸主の判断だけで確定するものではなく、協議と合意を前提としたプロセスが想定されています。
根拠や説明を欠いた進め方は、テナントとの対立を深め、事業運営に影響を及ぼすおそれがあります。

そのため交渉前には、物件の収益性だけでなく、テナントの事業継続性や契約関係を踏まえた冷静な判断が求められます。

なぜ今、家賃値上げの検討が増えているのか|物価・修繕・税負担

近年、法人貸主の間で家賃値上げを検討する動きが増えている背景には、不動産を取り巻くコスト構造の変化があります。

主な要因は以下のとおりです。

  • 物価・原材料費の上昇:
    • 例:外壁補修や設備更新の見積額が、数年前と比べて高額化している
  • 修繕・設備投資負担の増加:
    • 例:老朽化対応や省エネ改修により、計画外の支出が発生
  • 税負担の増加:
    • 例:固定資産税評価額の見直しにより、保有コストが上昇

これらの要因が重なることで、現行賃料のままでは収益性を維持しにくいと判断されるケースもあります。
ただし、コスト増のみを理由とした値上げは、必ずしも合理的と受け取られるとは限らない点に注意が必要です。

貸主からの一方的な値上げは可能か?合意が前提となる理由

借地借家法において、家賃の増額は貸主の通知だけで一方的に確定するものではありません。
増額請求という制度自体は存在しますが、実務上はテナントとの協議と合意が重要な位置づけとなります。

特に、次のような状況では合意形成が難航しやすくなります。

  • 周辺相場と比較して値上げ幅が大きい場合
    • 例:同一エリア・同規模物件の賃料水準を大きく上回る設定
  • 値上げ理由が抽象的で、客観資料が示されていない場合
    • 例:「経費が増えたため」といった説明にとどまるケース

合意を得るためには、周辺賃料データ、修繕計画、物件の競争力などを整理し、合理的に説明することが欠かせません。
一方的な主張ではなく、説明と協議のプロセスを踏む姿勢が重要です。

家賃交渉が「トラブル化」しやすい典型パターン

家賃値上げ交渉は、進め方によってはトラブルに発展しやすいテーマです。
特に注意すべき典型的なパターンは以下のとおりです。

  • 通知方法やタイミングが唐突
    • 例:事前説明なく、内容証明郵便のみで値上げを通知
  • 金額のみを提示し、根拠説明が不足している
    • 例:相場資料や修繕内容の説明がないまま条件変更を提示
  • テナント側の事業状況を考慮していない
    • 例:テナントの事業継続性が不安定な局面で、条件変更を通告する

このような進め方は、テナントの不信感を招き、感情的な対立を生みやすくなります。
交渉を円滑に進めるためには、透明性を確保し、想定される疑問や反論を事前に整理したうえで説明する姿勢が重要です。

家賃の値上げ変更が認められる法的基準

家賃の増額を検討する際には、法律や裁判実務でどのような判断基準が用いられているかを理解しておくことが不可欠です。
とくにBtoB貸主企業にとっては、値上げの可否そのものよりも、合理性をどのように説明できるかが重要になります。

法的に家賃の増額が認められるかどうかは、単一の要因で決まるものではありません。
借地借家法の考え方や過去の裁判例では、以下のような要素を総合的に勘案する姿勢が取られています。

  • 経済事情の変動(物価・金利・社会情勢)
  • 周辺の賃料相場との乖離
  • 建物・設備の状況や改修の有無
  • 契約内容や特約の有無
  • テナントの事業内容や利用状況

たとえば、同一エリアで募集賃料が上昇している場合でも、自社物件の条件や現行賃料の位置づけによっては、必ずしも増額が合理的と評価されるとは限りません。

協議や調停では、当事者双方の主張に加え、不動産鑑定士の意見書や周辺相場データなどを踏まえ、個別事情を丁寧に積み上げたうえで判断が行われます。

そのため、交渉前の段階で 「なぜこの水準が妥当と考えられるのか」を説明できる材料を整理しておくことが重要になります。

借地借家法32条の位置づけ|増額請求について

借地借家法第32条では、経済事情の変動や周辺相場との乖離などにより、賃料が不相当となった場合、当事者が賃料の変更を請求できるという考え方を示しています。

ここで注意すべき点は、増額請求=自動的に賃料が上がる、という制度ではないという点です。

  • 貸主は増額を「請求」できる
  • しかし、賃料が確定するには協議・合意が必要
  • 合意に至らない場合、調停や訴訟といった法的手続きに移行する可能性がある

という位置づけになります。

つまり、借地借家法32条は貸主の一方的な権利行使を認める条文ではなく、合理性を前提とした協議の枠組み を定めたものと理解するのが実務的です。

BtoB貸主企業にとっては、 「法的に言えるかどうか」よりも、紛争化した場合に第三者から合理的と評価されるかという視点が重要になります。

裁判所・調停で重視されやすい判断要素|近傍同種・経済事情

裁判所や調停の場では、次のような要素が重視される傾向があります。

  • 近傍同種物件の賃料水準
    • 例:同一エリア・同用途・同規模の募集賃料や成約事例
  • 経済事情の変化
    • 例:物価指数、金利動向、地域環境の変化
  • 物件固有の条件
    • 例:立地、築年数、設備仕様、改修履歴
  • 現行賃料の位置づけ
    • 例:周辺相場と比較して高いか、低いか

たとえば、現行賃料が周辺相場より低い水準にある場合、増額の必要性が認められやすくなる傾向があります。一方で、相場を大きく上回る金額を提示しても、合理的な根拠を示せなければ認められにくいと考えられます。

また、建物のグレードアップや設備更新が行われている場合は、賃料水準を検討する際の一要素となり得ます。
ただし、これも単独で増額を正当化するものではなく、相場やテナントの事業状況とあわせて評価される点に留意が必要です。

そのため実務上は、いきなり大幅な値上げを主張するのではなく、客観データをもとに、段階的・説明可能な水準を検討することが望ましいです。

交渉前に必ず確認すべき契約条件は?

家賃の値上げ交渉に入る前に、賃貸借契約の内容を正確に把握することは不可欠です。
契約条件の確認は、交渉を有利に進めるためというより、想定外の法的リスクや手続きミスを避けるための前提作業と位置づけるべきです。

賃貸借契約書には、更新時期、通知方法、賃料改定に関する特約などが定められていることがあります。
これらの条項は、家賃増額が可能かどうかだけでなく、どのタイミング・手順で進めるべきかを左右します。

たとえば、一定期間の賃料据え置きを定めた特約がある場合、その期間内に増額請求を行うことは、実務上も法的にもハードルが高くなると考えられます。

また、賃料改定に関する特約が存在している場合であっても、その内容や類型によって貸主が主張できる範囲は異なります。

特約の文言や締結経緯を踏まえずに進めた場合、通知時期や方法、根拠資料が整っていても、交渉段階で説得力を欠く可能性があります。

書類の不備や通知遅延は、結果として貸主側の主張を弱める要因となり得るため、契約書は条文単位で確認し、必要に応じて専門家の意見を踏まえて整理することが望まれます。

賃貸借契約書で確認すべき条項|特約・更新・通知条件

賃貸借契約書では、次のような条項を重点的に確認する必要があります。

  • 賃料改定に関する特約の有無:
    • 例:賃料の増減や据え置きについて、具体的な条件や方法が定められているか
  • 更新条件・更新時期:
    • 例:更新契約の締結時に条件変更が可能とされているか
  • 必要書類や手続きの定め:
    • 例:合意書の作成義務や、書面提出期限の明記

これらの条件は、契約書に記載されているかどうか、またどのような表現になっているかによって、交渉の進め方やスケジュールが大きく変わります。

更新時と契約期間中で判断が変わる理由

家賃値上げを検討する際、更新時と契約期間中では、貸主・テナント双方の立場が異なります。

更新時は、家賃改定を検討しやすいタイミングである一方、テナントにとっては退去や移転を判断する節目でもあります。

例:更新時に大幅な値上げを提示
→ 条件見直しをきっかけに、他物件への移転を検討される可能性

そのため、更新時の値上げは、短期的な賃料単価だけでなく、継続入居による中長期収益を踏まえた判断が必要です。

一方、契約期間中に家賃改定を行う場合は、借地借家法の考え方を踏まえ、合理的な理由と十分な説明を行い、合意形成を重視する進め方が求められます。

このように、更新時と契約期間中ではテナントの受け止め方や判断軸が異なるため、貸主側も物件の競争力、相場、テナントの事業状況を踏まえて、慎重に交渉方針を整理することが重要です。

賃料増額のメリットとリスク

賃料増額は、貸主企業にとって収益改善の手段となり得る一方、慎重な判断を要するテーマです。
重要なのは、短期的な収益効果だけでなく、中長期の賃貸経営全体に与える影響を見極めることです。

賃料を引き上げることで、物件保有コストや修繕費の増加に対応しやすくなります。
また、賃料収入が増えることでキャッシュフローが改善し、結果として物件の収益性や資産価値の評価に影響を与える可能性もあります。

一方で、周辺相場や物件条件を踏まえない値上げは、テナントとの対立や交渉の長期化を招くおそれがあります。
賃料増額は「上げられるかどうか」ではなく、上げた結果、賃貸経営として合理的かどうかが問われます。

貸主側のメリット|収益改善・維持費補填・資産価値維持

賃料増額によって期待される主なメリットは、次のとおりです。

  • キャッシュフローの改善:
    • 例:修繕費や共用部更新費を、追加借入に頼らず賃料収入で賄える
  • 維持管理コストの補填:
    • 例:老朽化対応や設備更新を計画どおり実施しやすくなる
  • 収益性の向上による資産評価への影響:
    • 例:賃料水準の改善により、物件全体の収益性が見直される可能性

とくに複数物件を保有・運営する法人貸主にとっては、個別物件だけでなく、ポートフォリオ全体の収益構造を整えるという観点でも意味を持ちます。

想定すべきリスク|テナント反発・退去・空室期間

一方で、賃料増額には無視できないリスクも伴います。

  • テナントからの反発や交渉の長期化:
    • 例:業績不振やコスト増を理由に、値上げに応じられないと主張される
  • 退去リスクの顕在化:
    • 例:条件見直しをきっかけに、移転や撤退を検討される
  • 空室期間による収益低下:
    • 例:新規テナント募集に時間がかかり、想定以上の収益ロスが発生

新たなテナントを誘致する場合には、仲介手数料や原状回復・内装工事費用が発生することも多く、賃料単価の上昇が、必ずしも収益改善につながらないケースもあります。

短期収益と中長期収益のどちらを優先すべきか

賃料増額の判断においては、短期的な賃料単価の改善と、中長期的な安定収益のどちらを重視するかという視点が欠かせません。

  • 短期収益を優先する場合
    • 例:相場水準への是正を早期に行い、収益性を迅速に改善する
  • 中長期収益を重視する場合
    • 例:緩やかな調整や段階的な見直しにより、継続入居を優先する

テナントの事業状況、契約更新のタイミング、物件の競争力や将来性、市場環境などを総合的に踏まえ、賃貸経営として最適なバランスを見極めることが、貸主企業の経営判断として重要です。

賃料相場調査と周辺環境の分析

賃料相場や周辺環境を客観的に把握することは、賃料増額の合理性を説明するための前提条件です。
BtoB貸主企業にとって重要なのは、「相場より高いか安いか」ではなく、なぜその水準が妥当と判断できるのかを説明できる状態をつくることです。

賃料増額の根拠としては、周辺の賃料相場の調査が欠かせません。
不動産情報サイト、不動産会社へのヒアリング、公的統計などを組み合わせ、複数の情報源から相場を立体的に把握することが重要です。

ただし、同一エリア・同規模の物件であっても、築年数、設備仕様、立地条件、用途などによって賃料には幅があります。
単純な平均値ではなく、自社物件と条件が近い水準との比較が求められます。

近隣・類似物件の調査方法

賃料相場を把握する際は、次のような手順で整理すると実務に活かしやすくなります。

  • 不動産ポータルサイトでの募集賃料調査
    • 例:同一エリア・同用途・同規模の募集賃料を複数件抽出する
  • 地域の不動産会社へのヒアリング
    • 例:直近の成約事例や、募集と成約の乖離状況を確認する
  • 現地確認による補足調査
    • 例:空き区画の数、テナント入替の頻度、来街者の動線を把握する

これらを組み合わせることで、机上データだけでは見えにくい実態を補完することができます。

現行賃料が「相場のどこに位置するか」を整理する

調査した相場データをもとに、現行賃料が周辺相場の中でどの位置にあるかを整理することが重要です。

  • 周辺相場より低い水準にある場合
    • 例:同条件の募集賃料と比べて明確に下回っている
  • 周辺相場と同程度の場合
    • 例:募集賃料レンジの中央値付近に位置している
  • 周辺相場を上回っている場合
    • 例:築年数や立地条件を考慮すると割高と見られる

現行賃料が相場より低い場合は、値上げの必要性を説明しやすい状況と言えます。
一方で、すでに相場を上回っている場合は、増額の合理性を示すために、より慎重な説明が求められます。

ただし、募集賃料データや近隣事例を一定程度集めたとしても、築年数や設備条件、募集と成約の乖離などを踏まえた「適正な位置づけ」まで整理できるケースは多くありません。

そのため実務上は、増額交渉に入る前段階として、現行賃料が相場のどの水準に位置しているかだけを客観的に整理するために、ビズキューブ・コンサルティングの提供する「賃料適正診断」をお試しいただく企業様も少なくありません。

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