法令・契約関連
店舗の賃貸借契約トラブルについて解説|回避方法や注意点、事例を紹介

- 目次

賃貸借契約トラブルを適切に回避することでスムーズに店舗経営ができます。そのため、トラブル回避方法や注意点は事例を参考にあらかじめ理解しておきましょう。
本記事では以下の悩みを抱える店舗経営者向けに解説しています。
- 店舗賃貸借契約のトラブルとは?
- テナント物件の賃貸借契約時の注意点とは?
- 賃貸借契約のトラブルを回避する方法とは?
店舗を経営する際の参考にしてください。
店舗の賃貸借契約時によくあるトラブル
店舗の賃貸借契約時によくあるトラブルは、以下の3つです。
賃貸借契約時のトラブルは契約前に確認しておくことで対策可能なものばかりです。そのため契約内容や契約内容とテナント物件が一致しているか自分の目で確かめておきましょう。
修繕に関するトラブル
よくあるトラブル1つ目は、修繕に関するトラブルです。修繕に関するトラブルは、契約時にしっかり内見していない場合や、賃貸人側の対応が遅い場合に発生します。
事前に確認ができていないと、営業開始してから天井から雨漏りすることが発覚し、修繕するために店を一時営業停止することになってしまうかもしれません。
賃貸人は賃借人に対し、利用目的に従った使用・収益をさせる義務を負います。よって、本来の利用目的で使用・収益できない場合には、修理費は賃貸人側の負担となることがあります。さらに、修繕の理由が物件の管理不備のような場合、営業停止にともない、賃貸人に休業補償も請求することができる場合もあります。
契約前には修繕がすでに済んでいるのか、休業補償の可否や修繕時の対応についてなどは事前に確認しておきましょう。
インフラ設備のトラブル
よくあるトラブル2つ目は、インフラ設備のトラブルです。インフラ設備のトラブルは、設備を直接確認せずに契約した場合に発生し、賃貸人側と賃借人側のどちらが修繕費用を負担するかでトラブルになります。なることがあります。
飲食店であれば、給湯や水道、ガス設備は必須です。しかし、契約書しか見ていない場合、本来欲しい位置に設置されていなかったり、そもそも設置されていなかったりする場合があります。
また、駅前などの好立地や相場より安い賃料に目を奪われ即決した結果、上記のようなインフラ設備トラブルに遭遇する可能性があります。
貸店舗の状態を整備しておくことは大家賃貸人の義務であるため、契約前に必要なインフラ設備が整っているか、正常に動作するかを確認することが大切です
管理会社から申込金が返還されないトラブル
よくあるトラブル3つ目は、管理会社から申込金が返還されないトラブルです。申込金とは、契約前に物件を借りたいと意思表示をするために、一時的に管理会社に預けるお金です。
しかし、申込を撤回した場合でも、管理会社から申込金が返還されない事例があることが報告されています。申込金が優先的に入居審査をしてもらう目的で一時的に預けたお金の場合、契約が成立しなかったときには申込金を返還しなければなりません。なぜなら、契約が成立しなかった場合に賃貸人側の宅建業者は申込金を返還する必要があることが宅地建物取引業法に定められているためです。
上記のトラブルに遭遇しないために、申込金を振り込む前に、申込金が一時的に預けるだけの金銭であること、宛名、金額、返還期日、担当者の押印とサインなどが揃っている書類を作成し保管しておくことをおすすめします。

店舗の賃貸借契約の注意点

店舗の賃貸借契約の注意点は以下の3つです。
賃貸借契約において賃貸人と賃借人の認識がズレている、もしくは賃借人の確認漏れが原因でトラブルになることがあります。注意点をあらかじめ理解しておき、賃貸借契約に役立ててください。
原状回復の認識のズレ
注意点1つ目は、原状回復の認識のズレです。賃借人は契約したテナント物件を退去する際に原状回復させる必要があります。しかし、どこまで原状回復させるかの認識が賃貸人と賃借人で異なることでトラブルになります。
特に賃貸人が変更になった場合は注意が必要です。契約時の賃貸人とは原状回復の認識が合致していても、新賃貸人との間で認識の相違が生じることがあり、その場合、退去時に予想以上の修繕費を請求される可能性があります。
原状回復の範囲については賃貸借契約書に明記されているため、判断基準はありますが不要なトラブルを避けるために原状回復の範囲についての認識は一致させておきましょう。
用途変更時の確認漏れ
注意点2つ目は、用途変更時の確認漏れです。賃貸借契約する際にはテナントの使用目的を明確にしなければなりません。しかし契約途中で用途変更をしたが、賃貸人側に申告しないことでトラブルになることがあります。
契約当時は雑貨屋を経営していたが、3年後に経営方針を変えて飲食店として再オープンしたい場合などは用途変更の申告が必要です。
賃貸人との間でトラブルを起こさないためにも、用途変更の可能性が出た段階で賃貸人に相談しておくことをおすすめします。
テナント物件の契約形態を確認しておく
注意点3つ目は、テナント物件の契約形態を確認しておくことです。賃貸借契約は普通借家契約と定期借家契約で更新頻度や契約条件が異なる場合があるためです。
上記の違いを認識していないことで途中解約ができず、トラブルにつながる恐れがあります。
普通借家契約であれば賃借人都合での途中解約が可能です。しかし定期借家契約は原則として途中解約ができません。
賃貸借契約時には自分がどちらで契約した方が都合が良いのか、もしくはトラブルに遭わない契約はどちらなのか、しっかり検討しておきましょう。
定期借家契約について詳しく知りたい方や事業用物件を借りる際の注意点について知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
賃貸借契約でトラブルに遭わない方法

賃貸借契約でトラブルに遭わない方法は、以下の2つです。
上記のように、賃貸借契約を結ぶ前にはしっかりと準備しておくことが重要です。必要経費が想定より多かったり契約内容が思っていたものと違ったりすると、トラブルにつながる可能性があります。
店舗と賃貸借契約をする際の注意点もまとめているので、参考にしてください。
賃貸借契約書と重要事項説明書の詳細を読み込む
トラブルに遭わない方法1つ目は、賃貸借契約書と重要事項説明書の詳細を読み込むことです。契約内容を十分に把握していなかったり、賃貸人側と認識がズレていたりすることで、契約後や退去時にトラブルに遭うことは往々にしてあります。
賃貸借契約書や重要事項説明書は文章量も多く、普段聞きなれない言葉もあるでしょう。
しかし、重要事項説明書には重要な箇所がまとめられているため、契約時には必ず全てに目を通し、不明点や疑問点があれば賃貸人や不動産業者に確認するようにしましょう。
賃貸借契約書について詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
賃貸借契約に必要な費用を計算しておく
トラブルに遭わない方法2つ目は、賃貸借契約に必要な費用を計算しておくことです。予算を組まないと、契約する際の費用に想定以上のお金がかかった場合、人件費や材料費など、他に必要な箇所にお金を回せなくなります。
一般的な費用を以下にまとめたので、契約時の参考にしてください。
項目 | 相場 |
礼金 | 家賃の1〜2カ月 |
保証金 | 家賃の5〜10カ月(退去時に返還あり) |
共益費 | 家賃の5〜10% |
前家賃 | 入居日の日割り計算+翌月の家賃 |
保険料 | 5,000円程度 |
仲介手数料 | 家賃の1カ月 |
相場より金額が高い場合は賃料減額交渉の余地があります。一方、相場より極端に安いとテナント設備の不具合などが整備されていない場合などがあり、賃借人側にデメリットがあるため注意が必要です。

賃貸借契約時に注意するべき物件
賃貸借契約時に注意するべき物件は、以下の2つです。
それぞれの物件にはメリット・デメリットが存在します。それぞれの特徴を理解し、納得した上で賃貸契約をするようにしましょう。
居抜き物件
注意するべき物件1つ目は、居抜き物件です。居抜き物件を契約する際によくあるトラブルは以下のとおりです。
- 契約書にある備品が実際にはない
- 前の賃借人が廃棄物をそのままにしている
居抜き物件は前の賃借人が残した設備や備品を引き継ぎ可能です。一方で賃貸人側が把握している状況と実際のテナント物件状況が異なる場合があります。
さらに前の賃借人が廃棄物をそのままで退去することもあります。賃貸人側から廃棄物の処理費用を入居時に請求される場合があるので注意しましょう。契約時には廃棄物の処理について明確に定めておくとよいでしょう。
居抜き物件は設備や備品を再利用できるため初期費用が抑えられる反面、契約書の内容と相違があったり、廃棄物の処理でトラブルにあう可能性があるので注意しましょう。
スケルトン物件
注意するべき物件2つ目は、スケルトン物件です。スケルトン物件を契約する際によくあるトラブルは以下のとおりです。
- 初期費用が多くかかる
- 退去時に原状回復費がかかる
スケルトン物件は内装や設備が一切ない状態の物件です。その分コンセプトや内装を自由に決めることができます。一方で内装工事費や設備の購入にお金がかかり、居抜き物件と比較して多くの初期費用が必要です。
さらに退去時は入居時の状態に戻さなければならないため、原状回復費がかかります。そのまま退去してしまうと、保証金から費用が支払われる可能性があるため注意が必要です。
スケルトン物件は初期費用や退去時の原状回復費など、多くの費用がかかる傾向にあります。賃貸借契約時にはしっかり予算を組んでおきましょう。
賃貸の店舗でトラブルに遭った際の相談先
賃貸の店舗でトラブルに遭った際の相談先は、以下の2つです。
個人で賃貸人や不動産とトラブルを解決できれば問題ありません。しかしどちらが費用を負担するかなどのトラブルは議論が平行線になりやすい話題でもあります。
自分1人では解決できない、自分では判断できないといった場合は法律に基づいて判断するために専門機関への相談をおすすめします。
日本司法支援センター(法テラス)
相談先の1つ目は、日本司法支援センター、通称「法テラス」と呼ばれています。法テラスは国が運営する法律問題に関する総合案内所です。
賃貸借契約に関するトラブルは多岐にわたります。相談先が分からない店舗経営者の方は、法テラスに相談することで、適切な相談窓口や専門機関を紹介してもらうことができます。
さらに審査はあるものの、収入によっては弁護士費用の一部立替が可能な場合があります。
賃貸借契約トラブルの専門家や相談窓口がわからず困った場合は、法テラスに一度相談してみることをおすすめします。
一般社団法人不動産適正取引推進機構
相談先の2つ目は、一般社団法人不動産適正取引推進機構です。不動産適正取引推進機構は不動産取引(売買契約・賃貸借契約の締結など)に関する無料の電話相談が可能です。
相談することで弁護士や不動産トラブルの専門家が間に入り、賃借人と宅建業者間の問題を公平かつ迅速に解決してくれます。
主な解決事例としては以下のような不動産に関するトラブル解決に強みがあります。
- 手付金を返金してくれなかった
- 重要事項説明書の説明がなかった
- 契約後に地中から産業廃棄物が見つかった
そのため賃貸借契約トラブルに遭った際は相談先の1つとして挙げられます。
ただし相談は電話対応のみで対面、メール、文章での対応はしていないため注意が必要です。
賃貸借契約におけるトラブルの判決事例

賃貸借契約におけるトラブルの判決事例を2つ紹介します。
何が原因でトラブルが起こり、結果どういった判決が出たのかをあらかじめ理解し、自分がトラブルに遭わないようにしましょう。
裁判にまで発展すると店舗経営にとって余計なお金や時間がかかります。また判決結果によっては営業に支障をきたす可能性もあります。
以下の事例から、賃貸借契約のトラブルについて参考にしてください。
店舗の内装工事に関する事例
紹介するトラブルの判決事例1つ目は、店舗の内装工事に関する事例です。
概要 | 飲食店目的で契約した賃借人がマンション管理組合に内装工事を不承認とされたために開業できなかった。 そのため、マンション管理組合と賃貸人に損害賠償を求めた。 |
争点 | 管理規約に店舗営業を禁止する規定はないため、内装工事の不承認が違法行為にあたるかどうか。 |
判決 | 賃借人の請求を棄却。 マンション管理組合は共同の利益を促進させ、住環境を維持するために内装工事を不承認とすることは可能であると判断した。 |
今回のトラブルは事前に使用目的をマンション管理組合に相談していないことが原因の一つでした。契約時には営業方法や使用方法に問題ないか、あらかじめ確認を取りましょう。
出典:一般社団法人不動産適正取引推進機構|店舗の内装工事を不承認としたマンション管理組合と貸主に対する、借主の損害賠償請求が棄却された事例
賃借人が保証金の返還を求めた事例
紹介するトラブルの判決事例2つ目は、賃借人が保証金の返還を求めた事例です。
概要 | 賃借人は保証金を税抜家賃の6カ月分の300万円とし、解約時には解約時賃料の2カ月分を償却すると定められていた。 しかし、売却により賃貸借物件の賃貸人が交代した。 そのため保証金の償却の取り扱いを巡って紛争となった。 |
争点 | 賃貸人が売却によって変更になった場合に保証金が新賃貸人に継承されるかどうか。 |
判決 | 賃借人の請求を全額認容。 賃貸契約における保証金の返還義務は賃貸人の交代時に継承されるため、新賃貸人に返還義務が生じると判断した。 |
今回のトラブルは宅建業者が保証金の取り扱いに対しての説明不足が原因です。賃貸人が交代した場合には契約内容に相違がないか確認しましょう。
出典:一般社団法人不動産適正取引推進機構|保証金の返還債務は賃貸物件の売買当事者間で引き継がれた金額に拘らず新賃貸人に承継されるとした事例
賃貸借契約に関するトラブルを避けて適切に営業しよう
賃貸借契約トラブルは契約前に書面を注意深く読んだり、実際にテナント物件を確認したりすることで防げる事例が多く存在します。
契約書や重要事項説明書の内容は、複雑かつ説明に時間がかかるため簡略化されがちです。しかし疑問点や不明点は賃貸人や不動産業者に確認しておくことで適切に契約できます。
賃貸の店舗でトラブルに遭った場合は、本コラムの「賃貸の店舗でトラブルに遭った際の相談先」(見出しに飛ぶリンクを設置)を確認しましょう。
店舗の賃貸借契約では、契約内容の確認だけでなく、賃料が適正かどうかを見極めることも重要です。
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【監修者】幸谷 泰造(弁護士)
東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。