法令・契約関連
定期借家とは?普通借家との違いや賃貸借契約上のメリットを解説


物件を借りる際に結ぶ賃貸借契約の1つとして「定期借家」という契約があります。賃貸物件を借りる際に多く適用されるのは「普通借家」なので、定期借家はあまり馴染みがないかもしれません。
本記事では、
- 定期借家とは
- 普通借家との違い
- 定期借家に住むメリット
について紹介をします。
また定期借家契約が向いているケースも紹介していますので、定期借家とは何かを知りたい方や、借りたい物件の契約条件が定期借家になっている方はぜひ参考にしてください。
定期借家とは
定期借家とは、不動産の賃貸借契約の1つで、居住できる期間があらかじめ決められている契約方法です。
期間は賃貸人が決めることができ、契約期間が満了になった場合は速やかに退去しなければなりません。定期借家契約の内容を知らないと、次の物件を探すタイミングが遅れ、一時的に居住場所がなくなってしまうことも考えられるため、注意が必要です。
以下の章では、定期借家契約における契約期間と中途解約や更新について解説します。
契約期間
契約期間における定期借家契約と普通借家契約の違いは以下の通りです。
契約期間の概要 | |
定期借家契約 | 賃貸人が自由に決められる (期間に制限がなく1年未満も可能) |
普通借家契約 | 最低でも1年以上の契約期間が必要 |
定期借家契約は、賃貸人が契約期間を自由に決めることができ、契約期間は1年未満でも問題ありません。
しかし、普通借家契約では期間に決まりがあり、最低でも1年以上の契約期間を設定する必要があります。厳密には1年未満の設定も可能ですが、1年未満で契約した場合は「期間の定めのない契約」として扱われてしまうため、ほとんどの契約が1年以上で設定されています。
定期借家契約は、賃貸人にとっては期間満了で必ず退去してもらえるメリットがあるため、長期出張などで家を空ける短期間だけ賃貸に出したい場合などに有効です。
また取り壊しが決まっている場合や、再開発のエリアに該当しているためいずれ立ち退きが必要な場合など、長期間の契約ができない場合に定期借家が用いられるケースが多いです。
中途解約や更新
中途解約や更新についての定期借家と普通借家の違いは以下の通りです。
中途解約 | 更新の可否 | |
定期借家契約 | 賃貸人・賃借人ともに原則不可 | 不可 |
普通借家契約 | 賃貸人・賃借人ともに可能 ※賃貸人からの場合は正当な理由が必要 | 可能 |
定期借家における中途解約は、賃貸人・賃借人ともに原則できません。ただし、以下の全ての事由に該当する場合 、賃借人から1か月前までに解約の申し入れを行うことができます。なお、事業用の場合は1を満たさないため解約はできません。
- 居住用の建物であること
- 床面積が200平方メートル未満の物件であること
- 転勤・療養などやむを得ない事情により、賃借人が建物を自己の本拠として使用することが難しくなった場合であること
また、契約時に中途解約ができる旨の契約(中途解約留保条項)を結んでいる場合も、中途解約ができます。普通借家の場合は、中途解約はいつでも可能です。ただし、賃貸人から中途解約を希望する場合は、正当な理由がないと認められません。
契約の更新については、定期借家の場合は更新ができません。契約期間満了となった段階で契約は終了し、賃借人はすぐに退去する必要があります。
普通借家の場合は、契約更新が可能です。契約満了の約1〜3か月前に契約更新するかどうかの案内が届くため、更新の希望を自由に選択できます。

定期借家に住む場合のメリットとデメリット
本章では、定期借家に住む場合のメリットとデメリットを解説します。定期借家は普通借家よりも短期間で借りれるメリットがありますが、その反面、契約の途中で解約ができないなどのデメリットがあります。
定期借家のメリット・デメリットを理解しないまま契約してしまうと、契約後のトラブルを引き起こしてしまう可能性があるため、必ず契約前に理解をしておきましょう。
メリット
定期借家契約の物件を借りるメリットは、
短期間で格安に物件を借りられる点や、再契約時に契約内容を見直せることです。また、普段居住用の物件を一時的に貸し出すケースも多く、普通借家契約では借りられない物件を利用できることも魅力です。再契約が可能な場合は、新たな条件を提示することもできます。
デメリット
定期借家契約のデメリットは、特定の条件を除き、原則契約の途中で解約することができない点です。
普通借家の場合は、他に良い物件が見つかったり、気分的に引っ越しをしたいといった個人的な理由でも、基本的に賃借人からの中途解約は認められています。
しかし、定期借家契約の場合は先に説明した3つの条件を満たす場合以外は、中途解約ができません。普通借家契約では認められる内容であっても、定期借家契約では認められずに契約満了まで住まなければならないため、契約期間が満了になる前にやむを得ない事由以外で引っ越しをする可能性が少しでもある場合は、定期借家契約は避けるべきです。
また、再契約を希望する場合に賃料の値上げ交渉をされる可能性があることもデメリットです。メリットとして契約内容の見直しができる点を挙げましたが、賃貸人も賃借人に対して契約内容を交渉できる権利を持っています。
そもそも再契約は、契約内容に対し双方の合意があって初めて成立するものです。賃借人が再契約を希望する場合でも、賃貸人からの賃料の値上げ希望に添えない場合は、高い確率で再契約は難しいです。
契約内容に合意できない場合は、当初の契約通り期間満了で退去しなければならないことを覚えておきましょう。
定期借家に住む際の注意点
本章では定期借家に住む場合の注意点について解説します。
定期借家契約には、契約内容において様々なルールが定められています。理想の物件が見つかったとしても、建物の内観や近隣施設だけを見て契約を決めてしまうのは危険です。
契約した後でトラブルにならないために、事前に確認しておくべき項目がいくつかあるため、以下の章で詳しく解説します。
注意点その1:違約金の発生
定期借家契約では、契約期間を残したまま中途解約を希望する場合、違約金の支払いを賃貸人から求められる場合があります。
前述の通り、定期借家の場合は特定の理由を除き、原則中途解約ができません。そのため、居住用建物で床面積が200平方メートル未満の物件においてやむを得ない事情を除けば本来は解約ができませんが、違約金を支払うことで賃貸人・賃借人の双方が合意すれば、中途解約ができるケースがあります。
しかし、違約金は残りの契約期間の賃料の合計となるため、月5万円の物件で残り6ヶ月の契約期間がある場合は、30万円の支払いを求められます。引っ越しにかかる費用と合わせるとかなりの金額になってしまうため、契約期間には注意して、少しでも途中で解約する可能性がある場合は普通借家で探すことが望ましいです。
また、中途解約の適用は居住用に借りた物件に対してのみ有効です。よって事業用として物件を借りている場合は該当しないため、注意してください。
定期借家契約の物件を中途解約する時の詳細については以下の記事でも解説していますので、参考にしてください。
注意点その2:再契約の可否
定期借家契約において、契約満了後の再契約ができるかどうかは賃貸人次第です。賃貸人の事情によっては再契約が難しいケースがあるため、再契約が前提で借りないように注意しましょう。
再契約の希望がある場合は、初回の契約を結ぶ際に必ず確認しておくことが望ましいです。事前確認をせず、賃貸人に再契約の意思がない場合、契約満了時に再契約を申し出ても断られてしまいます。
再契約はできるものと思い込んでいると、万が一再契約ができなかった際に、物件探しや引っ越しの日程を急遽組まなければなりません。引っ越しの手続きに遅れが生じ、退去日を過ぎてしまうと、損害金を負担しなければならない可能性もあるため、注意してください。
注意点その3:物件の質
定期借家契約を結ぶ場合は、物件の質にも注意しましょう。
定期借家契約は短期間でも契約できることが特徴のため、近々取り壊しが決まっているような古い物件に適用されることも多いです。
取り壊しの予定がある築年数が古い建物の場合、賃貸人は建物への経費は極力削減するようになります。設備を新しくしても、結局取り壊してしまうのであれば意味がないからです。
よって、生活に支障がないような設備不良に対しては修理に応じてくれなかったり、先延ばしにされてしまうケースがあります。
築年数の古い物件を借りるときは、賃料だけでなく、室内の設備がきちんと使えるか、交換が必要なほど劣化していないかを確認してから契約しましょう。

定期借家契約が向いているケース
本章では、どのような方が定期借家に向いているかを紹介します。定期借家は短い契約期間や更新が不要であることから、契約にかかる費用を抑えたい場合にも向いている契約方法です。
また、審査基準が普通借家と比較して低い傾向にあるため、事業用で物件を借りる際など、入居審査に懸念点がある場合にもおすすめです。
以下の章では、定期借家が向いているケースを3つに分けて紹介します。
ケースその1:更新料を抑えたい
定期借家契約は、更新料を抑えたい場合に有効な契約方法です。定期借家の契約期間は短く設定できることが特徴ですが、5年や10年といった長期間の契約を定めた物件もあります。
例えば事業用として10年間物件を借りる必要がある場合、2年契約の普通借家だと合計4回の更新料を払わなければなりません。
しかし、定期借家の場合は更新がないため、10年間の賃貸借契約が結べれば1度も更新料を支払うことなく10年間借りることができます。
店舗経営において、運営にかかるコストを可能な限り抑えることができれば、手元に残る利益が増えるメリットがあります。更新料は1回分でも安いとはいえない金額を支払うため、4回分も削減できれば大幅なコストカットが可能です。
更新料を極力抑えて長期間契約したい場合は、契約期間が長い定期借家を選択しましょう。
ケースその2:賃料を抑えることを優先している
定期借家契約は、賃料を抑えたい方にもおすすめです。
通常、普通借家契約では更新を希望すれば長期間住み続けられるので、契約期間が終わるタイミングで再度更新を行えば退去する必要はありません。
しかし、定期借家契約では更新はできず、契約期間が満了となれば賃借人は退去しなければなりません。契約期間が短い傾向にあるうえ、更新ができないというデメリットから、普通借家契約の物件よりも賃料・敷金・礼金が低く設定されている場合があります。
普通借家の物件よりも初期費用が大幅に抑えられるので、費用を少しでも削りたい方は定期借家を選びましょう。
なお、店舗として借りる際の賃料相場が気になる方は、以下の記事を参考にしてください。
ケースその3:入居審査に懸念点がある
定期借家契約は、入居審査に懸念点がある方にもおすすめできます。
普通借家契約の物件で事業をする場合、年単位の契約になるため、賃借人の支払い能力や入居後のトラブルを起こすリスクなどをチェックしなければならず、審査基準が高い傾向にあります。
しかし、定期借家契約は賃貸人が設定した契約期間が過ぎれば契約が満了になり、再契約を望まなければ契約は終了します。賃借人よりも賃貸人の事情を考慮した契約方法になるため、賃貸人にとってのリスクが少ないことが大きなメリットです。
上記の内容から、更新の必要がある普通借家契約と比較すると、定期借家契約のほうが審査の基準が低い傾向にあります。
事業用として借りたくても、なかなか審査に通らなかったり、収入面などで審査に懸念点がある場合は、定期借家を選択してみましょう。
定期借家は契約内容の詳細を事前に確認しておこう
定期借家は賃料が安い傾向にあるためコストを抑えられたり、審査基準が低かったりするので、店舗用に借りる場合におすすめできる契約方法です。
しかし、賃貸人によっては再契約ができなかったり、修繕が発生しても対応範囲が限られたりする場合があるため、事前に契約内容や建物内外装の劣化度は把握しておくべきです。
賃料の安さや立地だけで契約を決めずに、契約内容の詳細を確認したうえで、自身の希望に合う物件を探しましょう。
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【監修者】幸谷 泰造(弁護士)
東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。