法令・契約関連

事業用賃貸借契約書の注意点|判断を誤ると揉めやすい実務ポイント

目次
  1. 事業用賃貸借契約書の注意点|判断を誤らないための実務整理
  2. 事業用賃貸借契約書は「ここを外すと揉める」
  3. 居住用契約と同じ感覚で判断するとズレる理由
  4. 事業用賃貸借契約書の条文を見る前の前提整理
  5. 法人契約で特に揉めやすい5つの条文
  6. 賃貸借契約書“だけ”では判断できない前提条件
  7. 実務でよくある判断ミスとその結果
  8. 判断が社内だけでは完結しなくなる場面
  9. まとめ|事業用賃貸借契約書は「読むもの」ではなく「判断する材料」
記事を読むよりも、まずは詳しい資料を読みたい方へ

事業用賃貸借契約書の注意点|判断を誤らないための実務整理

事業用・法人向けの賃貸借契約書の注意点は、どの条文がどの場面でリスクとして効いてくるかを把握することにあります。

事業用賃貸借契約書は、「細かく読むこと」自体が目的ではありません。
重要なのは、その契約条件が事業を継続できる前提として成立しているかを判断することです。

実務では、契約締結時ではなく、更新・賃料改定・中途解約・退去といった局面で、初めて契約書の影響が顕在化します。
条文を根拠に押し切られそうになった時に、判断が止まるケースは少なくありません。

これは、賃貸借契約書を「判断材料として整理していない」ことが原因です。

本記事では、更新・賃料改定・原状回復・解約の話が現実に動き出し、条文を根拠に判断を迫られた時に、どう判断すべきか分からなくなっている法人担当者向けに、事業用賃貸借契約書の見方・注意すべき点を整理します。

事業用賃貸借契約書は「ここを外すと揉める」

結論として、事業用・法人向けの賃貸借契約書で特にトラブルになりやすいのは、契約後に効いてくる条文です。
注意すべき条文は、次の5つです。

  • 賃料改定条項:改定条件/指標(相場・指数等)/協議の手順
  • 中途解約条項:解約可否/予告期間/違約金の算定
  • 原状回復条項:原状定義/スケルトンか/設備扱い
  • 造作・設備に関する特約:買取請求権排除の有無/撤去義務/貸主設備の修繕責任
  • 無催告解除・営業補償に関する特約:是正期間の有無/解除事由の範囲/通知手続き

これらの条文は、契約締結時には問題になりにくい一方で、事業環境が変化したときに、実務上の影響が表面化します。

重要なのは、条文があるかどうかではありません。
「どのタイミングで、誰が、どの判断に使う条文なのか」という視点で整理できているかです。

以下は、揉めやすい条文と実務で問題になりやすい場面を整理したものです。

論点問題が表面化しやすいタイミング注意点として表面化しやすい実務上の影響
賃料改定条項更新・市況変動時根拠資料が不足し、協議が長期化する
中途解約・解約予告条項撤退・縮小判断時解約期日の認識違いにより、想定より長期間の賃料負担が発生する
原状回復条項退去時回復範囲の解釈で費用負担が膨らむ
造作・設備特約改装・撤退時撤去義務の有無で判断が分かれる
無催告解除等賃料遅延・経営悪化時突然の解除リスクが顕在化する

たとえば、賃料改定条項が「協議する」とのみ記載されている場合、改定可否や算定根拠の整理が不足し、判断が進みにくくなることがあります。

居住用契約と同じ感覚で判断するとズレる理由

事業用不動産は、居住用不動産と比べて、当事者の合意(特約)の効き方が相対的に強くなりやすい傾向があります。
借地借家法の枠組み自体は共通していますが、実務での扱いは大きく異なります。

事業用賃貸借契約では、次の点が特徴として挙げられます。

  • 特約が有効と判断されやすい
  • 借主が法人であること自体が、交渉力や自己責任の前提とされやすい
  • 契約自由の原則が強く働く

このため、「居住用では問題にならなかったから大丈夫」という感覚で契約すると、
後から不利な条件が一気に顕在化する可能性があります。

一例として、居住用では制限されやすい原状回復範囲も、事業用では特約次第で借主負担が広く認められる傾向があります。
その結果、退去時に初めて費用負担の大きさに直面する場合があります。

事業用賃貸借契約書の条文を見る前の前提整理

前章で述べた「居住用と同じ感覚ではズレる」前提を踏まえ、ここでは条文を見る前に判断の前提として揃える観点を整理します。
この前提を押さえないまま条文を読んでも、その条文が実務に与える影響を正しく判断できません。

事業用・法人向けの賃貸借契約書は、「一般的にどうか」ではなく、「この契約条件が、自社の事業計画や撤退判断にどう影響するか」という視点で読む必要があります。

事業用賃貸借契約と居住用賃貸借契約の決定的な違い

事業用不動産の賃貸借契約では、「当事者間で何に合意したか」が強く重視されます。

その結果、事業用賃貸借契約では次のような設計になりやすい傾向があります。

観点事業用賃貸借契約の
一般的傾向
判断を誤ると起きること
原状回復範囲が広く設定されやすい退去時に想定外の工事費が発生する
賃料改定特約により柔軟に設計される市況変動時に条件変更の議論が生じる
解約条件予告期間が長めに設定されやすい撤退判断後も賃料負担が継続する
借主義務居住用より広く課されやすい管理・修繕負担の判断が重くなる

たとえば、居住用不動産では、原状回復の考え方について国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が参照されることが多い一方で、事業用不動産では、特約の内容次第で借主負担が大きくなることがあります。

参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

普通借家契約と定期借家契約の実務上の違い

普通借家契約と定期借家契約の違いは、「更新できるかどうか」だけではありません。

  • 普通借家契約:更新が前提
  • 定期借家契約:期間満了で契約終了

重要なのは、「満了時にどうなるか」ではなく、満了後にどこまで交渉の余地が残されているかです。

定期借家契約について基本知識を確認したい方は、下記の記事をご参考ください。

定期借家契約とは?メリット・デメリットと契約前のチェック項目
定期借家契約とは?メリット・デメリットと契約前のチェック項目

実務上は、次のような差が生じやすくなります。

観点普通借家契約定期借家契約
契約終了更新拒絶には一定の制約がある期間満了で終了
契約継続時の扱い更新が前提となり、条件は協議ベースで整理されやすい再契約(新契約)となり、条件は貸主から提示されやすい
コスト顕在化分散して表面化満了時に一気に顕在化

たとえば、定期借家契約で再契約条件が事実上限定されている場合、満了時に「再契約か退去か」の判断を迫られ、その結果として賃料条件の再提示、原状回復、移転コストといった複数のコスト判断が同時期に集中するケースも見られます。

このため、定期借家契約では、「契約期間中」だけでなく、「満了時の選択肢」まで含めて、事前に判断軸を整理しておくことが重要になります。

ここまで見てきたように、事業用賃貸借契約では、契約の種類や特約の設計によって、「いつ・どの論点が・どの程度効いてくるか」が大きく異なります。

判断を誤らないための整理順|条文を見る前に確認すべき流れ

事業用賃貸借契約書を確認する際、実務で判断が詰まりやすいのは、条文を先に読み込み、前提条件の整理が後回しになるケースです。

実際には、次の順番で整理しないと、条文の意味や交渉余地を正しく判断することが難しくなります。

▼判断の整理順(実務上の考え方)

① いま何が問題になっているか:

更新なのか、賃料改定なのか、解約・退去なのか。
将来の話ではなく、「すでに動き始めている論点」を明確にします。

② その判断は、いつ・誰が迫られているか:

今すぐ結論が必要なのか、次回更新まで時間があるのか。

現場判断か、経営判断かによって、取るべき選択肢は変わります。

③ 契約書の条文は、その場面を想定して書かれているか:

条文が存在することと、その場面で当然に適用されるかは別です。

前提条件や想定場面がずれていないかを確認します。

④ 条文の外にある前提条件は何か:

周辺相場、建物全体の運営方針、過去の運用実態など、賃貸借契約書に直接書かれていない要素が、判断に影響していないかを整理します。

⑤ その結果、取り得る選択肢は何か:

そのまま受け入れるのか、条件整理を行うのか、交渉・再契約・退去を含めて、現実的な選択肢を並べます。

この整理を経て初めて、各条文が「判断を縛るもの」なのか、「判断材料の一つ」なのかが見えてきます。

法人契約で特に揉めやすい5つの条文

ここからは、事業用賃貸借契約で頻出する基本条文を「判断を誤りやすいポイント」として整理します。

多くのトラブルは、条文を知らなかったからではなく、「どう効く条文なのか」を事前に整理していなかったことが原因です。

賃料改定条項|前提未整理が交渉の長期化を招く

賃料改定条項そのものは、多くの担当者が把握しています。
実務で問題になりやすいのは、賃料改定について「協議する」とだけ記載され、改定の前提や判断軸が整理されていないケースです。

このような契約では、改定の可否や考え方について、当事者それぞれが自分なりの前提を無意識に置いたまま契約していることがあります。
しかし、その前提は契約書上で共有・明文化されていません。

その結果、実際に更新や市況変動の局面になると、

  • 貸主側は「相場変動を踏まえ、改定を検討するのが当然」と考えている
  • 借主側は「協議と書かれている以上、合意がなければ直ちに賃料は変わらない」と理解している

といったように、前提の解釈が噛み合わず、交渉が長期化するケースが見られます。

なお、「協議する」と定められている場合でも、賃料増減額請求権が当然に排除されるわけではありません。

改定の余地が残る以上、当事者間の解釈が分かれやすく、その前提や判断ルールが整理されていないと、交渉が長期化しやすくなります。

中途解約条項|「いつ賃料が止まるか」が判断軸

中途解約条項では、解約できるかどうかだけでなく、「いつ賃料の支払いが終了するか」を正確に把握することが重要です。

特に確認すべきなのは、次の2点です。

・解約可能となる時期  (一定期間、解約が制限されていないか)

・解約予告期間  (3か月~等)

これらの前提によって、撤退を判断してから実際に賃料負担が終了するまでの期間は大きく変わります。

たとえば、解約予告が6か月前と定められている場合、判断が1か月遅れるだけで、追加で数か月分の賃料負担が生じることもあります。

原状回復条項|「原状」の定義を誤ると負担が跳ねる

原状回復義務は、事業用賃貸借契約では借主負担が重く設定されやすい条文です。
重要なのは、原状が何を指すのかが、どこで定義されているかです。

この定義次第で、退去時の工事範囲や費用負担は大きく変わります。

たとえば、スケルトン返しが前提の場合、内装・設備の撤去費用が一気に顕在化することがあります。

造作・設備に関する特約|初期投資とのバランスを見る

事業用賃貸借契約では、借地借家法33条で定められた造作買取請求権を排除する特約が置かれることがあります。
その場合、判断すべきポイントは、初期投資をどこまで回収できる設計になっているかです。

  • 契約期間は投資回収に十分か
  • 中途解約時の扱いはどうなっているか
  • 原状回復義務とセットで負担が重なっていないか

これらを整理せずに契約すると、撤退時に投資回収が未完のまま費用だけが残る可能性があります。

参考:e-Gov法令「借地借家法 第33条」

無催告解除・営業補償に関する特約|「形式条文」ほど注意する

無催告解除や営業補償を否定する特約は、事業用賃貸借契約で盛り込まれていることがあり、契約締結時には深く意識されにくい条文です。

しかし、これらは形式的に見える一方で、賃料遅延や経営悪化といったトラブルが生じた場面では、貸主側が契約条文を根拠に解除を検討する際の判断材料になります。

具体的には、

・是正期間を設けずに解除できるか

・退去にあたって補償義務が生じるか

といった点が、条文の有無や内容によって左右される可能性があります。

重要なのは、条文が記載されているかどうかではなく、どのような事象が起きた場合に、どの範囲まで発動し得るのかを事前に整理しておくことです。

賃貸借契約書“だけ”では判断できない前提条件

賃貸借契約書を精査することは重要ですが、それだけで事業用不動産に関するすべてのリスクを防げるわけではありません。
実務では、契約書の外にある前提条件によって、判断や交渉の余地が大きく左右される場面も少なくありません。

前提条件の確認ポイント(相場・規約・運営方針)

賃貸借契約書の文言とは別に、次のような前提条件は、実務判断に直接影響します。

  • 周辺相場との乖離:
     契約賃料が周辺相場と大きく乖離している場合、
     更新や改定の局面で協議が生じやすくなります。
  • 用途制限や管理規約:
     建物全体の用途制限や管理規約によって、
     想定していた営業形態や改装内容が制限されることがあります。
  • 建物全体の運営方針:
     テナント構成や長期運営方針によって、
     更新条件や退去時の扱いが実務上左右されるケースも見られます。

これらは契約書本文に直接書かれていない場合でも、規約・運営方針・相場といった前提として実務上効くことがあります。

条文だけで判断を進めると、後から前提条件が判明した際に、出店・改装・更新の前提を組み直す手戻りが発生し、社内の決裁や相手方との条件調整が長引くことがあります。

実務でよくある判断ミスとその結果

実務でよく見られるのが、「契約書にそう書いてあるから、拒否できない」と即断してしまう判断です。

しかし、契約書の文言だけを根拠に結論を出してしまうと、本来確認すべき論点を見落とすことがあります。

実際には、次のような事情が判断材料になるケースも少なくありません。

  • 交渉余地が残っている場合:
     条文上は一見すると一方的に見えても、
     前提条件や適用場面を整理すると、協議の余地が残ることがあります。
  • 前提整理が不足している場合:
     条文は特定の前提を想定して書かれており、
     実際の状況と前提がずれていると、そのまま当てはめることが適切でない場合があります。
  • 運用実態が判断材料になる場合:
     契約締結後の運用や過去の対応実績によって、
     条文の解釈や対応方針が実務上調整されているケースも見られます。

こうした点を確認しないまま即断すると、後から交渉や再判断が必要になり、結果として意思決定や対応が長期化することがあります。

判断が社内だけでは完結しなくなる場面

賃貸借契約書を読み込み、論点を整理しても、判断に踏み切れない状態が続くことがあります。

たとえば、契約更新・賃料改定・移転や撤退といった局面で、条文上の整理はできているものの、前提条件や選択肢の整理が追いつかず、「どの判断が最適か」を社内だけで決めきれないケースです。

このような場面では、条文の正誤を確認することよりも、前提条件を整理し、取り得る選択肢を並べたうえで、経営への影響を比較する視点が求められます。

ビズキューブ・コンサルティングは、店舗・オフィスに関わるコスト適正化や、再契約サポートや退去サポートといった業務を通じて、累計50,000件以上の賃貸借契約書を扱ってきました。

賃料適正化コンサルティングとは?効果と導入時の注意点を解説
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まとめ|事業用賃貸借契約書は「読むもの」ではなく「判断する材料」

事業用不動産の契約書は、条文の内容を把握すること自体が目的ではありません。

その条件のもとで事業を継続できるか、将来の更新・改定・撤退といった選択肢を現実的に取れるかを判断するための材料です。

実務では、契約締結時ではなく、更新や賃料改定、解約といった局面で、条文の前提や解釈が初めて問題になることがあります。

違和感を覚えた時点で立ち止まり、条文そのものと、前提条件や運用実態を切り分けて整理することで、判断ミスや想定外のトラブルを防ぎやすくなります。

なお、こうした判断を進めるうえでは、条文だけでなく、賃料水準や更新・再契約時の条件整理が重要になります。

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