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賃料減額を請求できる条件とは?適正化の流れや交渉の注意点もわかりやすく解説

目次
  1. 賃料減額の基礎知識
  2. 賃料の適正価格とは
  3. 賃料減額請求が認められる条件
  4. 賃料減額の流れ
  5. 賃料減額交渉における注意点
  6. 賃料減額のポイントと成功への道筋

賃料は固定費の中で大きな割合を占めるため、減額の可能性があれば積極的に検討する価値があります。店舗やオフィスの賃料は、法的な根拠がある場合には減額が可能です。

多くの経営者や責任者の中には、以下のようなお悩みを持っている方も多いでしょう。

  • 本当に賃料を減額できるのか
  • 自社物件の賃料が市場価格と比較して適正かどうか
  • 賃料の減額を通じてコスト削減を実現したい

本記事では、賃料減額の方法、適正賃料の判断、そしてコスト削減への道筋を詳しく解説します。効果的な交渉により、経営の効率化をはかりましょう。

賃料減額の基礎知識

賃料減額のための交渉を進める上で、根拠となる法律などの基礎知識は重要です。そこで、おさえておきたい項目は次の3つです。

それぞれ詳しく解説します。

賃料増減請求権とは

賃料増減請求権は、賃貸借契約における当事者間の公平を保つための重要な法的権利です。賃借人は経済環境や市場の状況の変動に応じて、賃料の増額や減額を求めることができます。

たとえば、不動産市場の低迷が続いている中で、不合理に高い賃料が設定されている場合、賃料を合理的な額に見直すことが可能です。不動産価値が経済情勢により上昇または下降する場合には、賃料増減請求権の行使が当事者間の公平性を保つために役立ちます。

賃借人が賃料減額請求権を行使するだけでなく、賃貸人が賃料増額請求権を行使することもできるため、お互いに公平な条件のもとで契約を維持することが可能です。

以下では、賃借人が行使する賃料減額請求権について解説します。

賃料減額請求権の法的根拠

賃料減額請求権の法的根拠となるのは、借地借家法と民法です。賃料減額交渉において根拠となる法律を理解しておくことは、適正な賃料設定に向けた重要なステップです。

それぞれの法律を詳しく見ていきましょう。

借地借家法

借地借家法の第11条と第32条には、当事者間の公平をはかるための規定が設けられています。長期にわたる賃貸借契約において、時の経過とともに大きく変わる経済や市場の状況を考慮したものです。

契約の締結時から条件が大きく変化し、現在の賃料が公平ではなくなった場合に、賃料の増減を請求できます。法的な枠組みは、「事情変更の原則」と呼ばれ、予測不可能な市場の状況の変動や物件の状態の変化など、具体的な事情が変わった際に適用されます。

該当条件の1つにあるのが地域の不動産市場の状況が急激に変わり、相場が大幅に上下する場合です。賃料の適正化をはかるためには、法律に則った交渉が重要です。

一方的に「賃料を下げて欲しい」と賃料減額を申し出るだけではなく、具体的な市場データや条件の変化を根拠にすることが、双方にとって建設的な解決策となります。

民法

2020年4月の改正民法の施行により、賃料減額に関して「請求できる」とされていた規定がより具体化されるとともに、一定の要件が認められる場合には当然に減額されると改訂され、賃借人の保護が強化されました。

改正民法第611条1項は以下の通り。

「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」

引用:民法|e-Gov法令検索

改正民法により、賃借人の責任ではない事由、たとえば自然災害や予見不能な事象が原因で物件が使用収益できなくなった場合に、賃料が減額されます。

賃借人は経済的な安心を得られるとともに、賃貸借契約の公平性が保持されます。たとえば、トイレなどの設備の故障が原因で建物が使用収益できない場合であって、賃借人の責任でない場合にも、賃料の減額が可能です。

賃借人が予見しえない状況で苦境に立たされた際に、公平な対応を図るための重要な法的根拠となります。

当サイトには賃料増減請求権について詳しくまとめた記事もあります。気になる方は以下の記事も参考にしてください。

賃料増減請求権とは?借地借家法32条1項の法律を解説
賃料増減請求権とは?借地借家法32条1項の法律を解説

賃料減額ガイドラインとは

貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドラインは、賃貸物件における不具合や変更事情に応じて賃料を適正に調整するための参考基準で、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が公開しています。

ガイドラインには、設備の劣化や自然災害による使用不能など、契約時と異なる状況が発生した場合に賃料減額すべきかを判断するための具体的なステップが含まれています。

故障が賃借人の過失でない場合であって使用および収益ができなくなった場合にどの程度賃料を減額すべきかの目安を提供し、賃貸借契約の公平性を保ちながらトラブルを防ぐことが目的です。

ただし、ガイドラインで示されているのはあくまで減額の目安であり、必ず適用されるものではないことを理解しておきましょう。

参考:日管協版「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を一般公開

賃料の適正価格とは

賃料の適正化は、賃借人と賃貸人との公平を図るために重要です。テナント物件の賃料に影響する主な要因は次の8点です。

  • 設備
  • 築年数
  • 間取り
  • 立地条件
  • 物件構造
  • 周辺環境、周辺の賃料相場
  • 自店舗が周囲に与える影響
  • 租税公課の増減

特に、都心部では環境の変化が多く、頻繁に価格変動が生じます。契約時には適正だった賃料も、時間が経過すると市場の状況の変動により不適切なものになることがあります。

立地に見合った賃料であるかどうかを定期的に見直し、経営状況に適した適正価格を維持することが大切です。

賃料減額請求が認められる条件

賃借人にとって賃料は重要なコストに占める割合の高い固定費であり、可能な限り低くおさえたいものです。賃料減額が認められる主な条件は以下の4つです。

それぞれの条件を詳しく解説します。

土地建物の価格が低下した場合

借地借家法では、土地や建物の価格が下落するなど経済事情が変動した場合、賃料の見直しが可能です。賃料の適正な見直しを行う際には、次のような賃料に直接関連するすべての経済事情が考慮されます。

  • 不動産の価格変動
  • 物価や所得水準の変動
  • 経済活動における制限

客観的な指標としては、消費者物価指数や賃料指数が参考にされることがあり、明確なデータを用いて賃料減額の妥当性が判断されます。

賃料減額請求権は、経済の変動に対して賃借人を保護するために重要な役割を果たします。

周辺の賃料相場が低下した場合

周辺の賃料相場が低下した場合、賃料の見直しにつながることがあります。借地借家法に基づく「事情変更の原則」により、契約時と異なる新たな状況が発生した際には、賃料の減額が認められる可能性があります。

たとえば、予定されていた地域の再開発が中止された場合などのケースです。また、近隣の賃料相場の下落は、エリアの市場価値が下がっていることを示唆し、賃料減額の請求に有力な根拠となる場合があります。

定期的に物件の立地や周辺環境をリサーチし、目指す利益に向けた適正な賃料を再評価することが重要です。

ただし、賃料は物件の個性や契約の特性にも影響されるので、単に周辺の賃料が下落しただけでは、自動的に賃料が下がるわけではないことを理解しておきましょう。

店舗の賃料相場や適正化に関する問題点などをまとめた記事もあります。気になる方は以下のリンクも参考にしてください。

店舗家賃相場とは?適正化でコスト削減する方法を解説
店舗家賃相場とは?適正化でコスト削減する方法を解説

土地建物に対する租税が増加した場合

土地建物に対する租税やその他の負担が増加した場合、賃料減額の請求に直接影響を与える可能性があります。

借地借家法では、土地や建物にかかる税金や公共料金などの負担が変動した際、それらの変動を賃料の見直しの理由として認めることができます。法的には、租税の増加が賃料決定の基礎となった経済事情への影響が大きく、かつ既存の賃料が不相当であると判断される場合には、賃料の減額が可能となることがあります。

賃料減額が認められるかは、具体的な事情の変動と影響の大きさに基づいて個別に判断されることになります。

建物や設備に不具合がある場合

建物や設備に重大な不具合が発生した場合、改正民法に基づいて賃料の減額が認められることがあります。

改正民法は、賃借人に過失がなく、自然災害やその他の不可抗力によって建物が使用・収益できなくなった場合、または建物の一部が滅失した場合に賃料減額が可能であることを規定しています。

具体的な事例としては、地震災害による建物の損傷や浸水した場合、トイレなどの重要な設備が全く機能せず建物の使用ができない場合が含まれます。

ただし、建物の老朽化による小さな不具合については、使用収益できないとまではいえず賃料減額の適用外となる場合もあります。賃料減額ガイドラインに基準が示されているので、参考にしましょう。

参考:日管協版「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を一般公開

賃料減額の流れ

賃料適正化の流れは、適切な賃料の設定に必要な手順を踏んで行われます。以下の箇条書きに示す流れは、賃料減額過程を効率的かつ公正に進めるために重要なステップとなります。

  1. 賃料減額サポートの準備:賃料の妥当性を裏付けるための情報を収集・整理
  2. 価格と利回りの計算:物件の土地および建物の現在価格を評価し、利回りを計算することで、賃料の適正水準を算出
  3. 周辺環境の評価:物件周辺の環境変化が経営に与える影響を評価し、賃料設定に反映
  4. 賃料適正診断書の作成:調整を求める具体的な内容を記載した賃料適正診断書を作成し、賃借人に提出
  5. 賃料減額サポート内容の準備:賃貸人の対応力や立場を理解し、相互の利益を考慮した減額サポート内容を考案
  6. 適切なタイミングでの交渉:市場状況や物件状態を踏まえ、機会損失を避けるために適切な時期に賃料減額サポート

以上の手順を適切に実施することで、賃料減額がスムーズに進行し、双方にとって公平な契約が成立する可能性が高まります。

賃料減額交渉における注意点

賃料減額交渉は賃貸人との信頼関係の上に成り立つため、適切な準備をする必要があります。賃料減額交渉における注意点は次の6つです。

それぞれの注意点を詳しく解説します。

注意点その1:新リース会計により賃料の会計処理が変わる

2027年以降の新リース会計基準導入に伴い、賃料の会計処理に大きな変更が生じる予定です。オペレーティングリースはオフバランスで処理されていましたが、新基準ではオンバランス処理が必要になり、リース資産と負債をバランスシートに計上することが求められます。

新リース会計基準は、リース取引全体に影響を及ぼし、特に不動産賃貸借契約が新たにリース取引の対象となるため、企業の財務報告における透明性が向上します。

そこで、新リース会計基準への変更に適応するためには、賃貸借契約の洗い出しや見直しが重要です。

企業は管理する賃貸借契約の数が増え、経理の負担が増大することが予想されるため、適切な時期に契約内容を確認し、必要に応じて調整を行うことが望ましいです。

新リース会計基準への変更において、賃料・賃貸借契約に及ぶ影響が気になる方は、次の記事を参考にしてください。

新リース会計基準への変更のポイントとは?家賃・賃貸借契約への影響も徹底解説
新リース会計基準への変更のポイントとは?家賃・賃貸借契約への影響も徹底解説

注意点その2:賃貸人との信頼関係を壊さないように配慮する

賃料減額交渉を進める際は、賃貸人との信頼関係を大切にすることが重要です。交渉を始めるにあたり、単に賃料減額を求めるのではなく、公平な賃料で互いに納得できる合意を目指す姿勢が求められます。

意見の相違が生じたとしても、脅迫的な言動を避け、冷静で建設的な対話を心がけましょう。

賃貸人との関係への配慮が、長期にわたる良好な関係を築くためには不可欠です。信頼を基にした賃料減額交渉は、双方の理解と尊重を深め、より良い解決策を見つける助けとなります。

注意点その3:賃料減額を希望する理由と根拠を示す

賃料減額の交渉を行う際、賃料減額を希望する理由と根拠を明確に示すことが重要です。

周辺の賃料相場との乖離が理由の一つである場合、地域内で類似した物件の最新賃料データや不動産鑑定による適正賃料の評価報告を用意することが効果的です。

現在の賃料が市場価格と比べて不相応に高いことを客観的に示せます。また、経済状況の変化が影響している場合は、消費者物価指数や失業率の推移など、公的機関が公表する経済データを引用することも効果的です。

明確な根拠を示すことで賃料減額の必要性に対する説得力が増し賃料減額交渉を優位に進められます。

注意点その4:遡っての賃料減額はできない

賃料減額請求においては、遡っての賃料減額を求めることができない点に注意が必要です。賃料の減額請求は、意思表示が相手方に到達した時点からの効果しか持たないため、過去に遡って適用されることはありません。

したがって、賃料が市場価格と大幅に乖離していると感じた場合は、速やかに賃料減額請求権を行使することが重要です。請求のタイミングとしては、契約の更新時が基本ですが、法律上、いつでも行うことができるためです。

過去の期間に対する賃料の返還を求めることはできないため、市場動向や自身の賃料状況を常に把握し、適切なタイミングで賃料減額請求権の行使・賃料減額交渉することが望ましいです。

注意点その5:賃料減額ができない特約がある

定期借家契約において「賃借人から賃料減額を請求することができない」という特約が設けられている場合、特約は有効とされ、賃料減額が困難になる点に注意が必要です。

定期借家契約は更新が行われないため、契約期間中に賃料の再交渉を行うことは通常できません。特約がある場合、借主は契約前に内容をよく理解し、賃料の固定性を受け入れる必要があります。

定期借家契約において賃料減額を考える場合は、契約の締結時に可能性を探るか、あるいは再契約時に条件を見直す機会を持つべきです。賃料減額ができないという特約がない場合は、法的に賃料減額請求が可能となることも理解しておくと良いでしょう。

注意点その6:通常の業務と並行する場合は負担が大きい

賃料の適正化交渉を経営層や社内人材が直接行う場合、専門的な知識が求められると同時に、通常業務と並行しての賃料減額交渉が大きな負担になる可能性があります。

賃料減額は、市場分析、契約の見直し、法的な側面の理解といった複雑な作業を伴うため、精密なデータ収集と分析を行うには、多くの時間と労力が必要です。賃料減額交渉を社内で行う際には、作業負担を適切に管理し、ミスの発生を防ぐための対策も必要となります。

賃料減額交渉は経済的利益をもたらす重要な業務ですが、通常業務がおろそかにならないよう配慮することが求められます。

賃料減額交渉の成功率を高めたい場合は、専門的なコンサルティングを活用することが有効です。気になる方は賃料適正化コンサルティングについてまとめた記事を参考にしてください。

賃料適正化コンサルティングとは?効果と導入時の注意点を解説
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賃料減額のポイントと成功への道筋

賃料減額を検討する際には、市場の状況の変動や物件状況の変化を理解し、適正な価格設定を目指すことが重要です。

本記事では、賃料減額の条件や交渉のポイントについて詳しく解説しました。

経営層や責任者が賃料を見直すことで、効果的なコスト削減が可能となり、長期的な企業の財務安定につながります。

賃料減額のポイントを理解し、賃料減額を成功させて経営改善をはかりましょう

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【監修者】幸谷 泰造(弁護士)

東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。