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倉庫の賃貸借契約は借地借家法が適用される?立ち退きを求められた時の対処法も解説

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倉庫を借りる際、賃貸借契約に借地借家法が適用されるかどうかを知ることは重要です。倉庫契約を検討しているマネージャーや経営者の中には、以下のような悩みを抱えている方もいるでしょう。
- 倉庫契約に借地借家法が適用されるのか知りたい
- 立ち退きを求められたときの対応方法を知りたい
- 倉庫契約に関するあらゆるリスクを減らしておきたい
本記事では、倉庫の賃貸借契約に借地借家法が適用されるかについて、法的な根拠をもとに解説します。また、立ち退きを求められた際の対処方法についても詳しく説明します。倉庫契約のリスクを減らすための参考にしてください。
倉庫の賃貸借契約とは
事業用の倉庫に関する契約には、大きく分けて賃貸借契約と寄託契約の2種類があります。
倉庫の賃貸借契約は、倉庫のスペースを借りる形式で、借地借家法が適用されます。借りたスペースは自由に使用可能ですが、倉庫賃貸借契約では、保管荷物に対する善管注意義務は通常適用されません。
一方、寄託契約は、トランクルームなどで利用される契約形態で、倉庫業者に荷物を預ける契約です。寄託契約では、倉庫業者に荷物の善管注意義務があり、安全な保管環境が提供されます。
借地借家法とは
借地借家法とは、土地と建物の貸し借りに関するルールを定めた法律で、1992年に施行されました。借地借家法は、建物を所有する目的で土地を借りる場合や、事業用や居住用などの用途に関係なくあらゆる建物の賃貸借契約に適用されます。
借地借家法は、賃貸借に関する民法の特別法として定められており、民法よりも優先的に適用されます。
民法に定められている物の貸し借りに関する規定を不動産賃貸借に適用すると、賃借人が不利益を被る可能性が高いです。賃借人を保護し、賃貸人とのパワーバランスを是正する目的で借地借家法が設けられています。
借地借家法が適用されるとどうなるか
借地借家法が適用されると、主に次の2つの権利が守られます。
それぞれの権利について詳しく解説します。倉庫契約において借地借家法が適用されるとどうなるかを理解しておくと良いでしょう。
権利その1:不当な立ち退きを回避できる
借地借家法により賃借人は不当な立ち退きを回避する権利を持っています。借地借家法の適用がある場合、賃貸借契約に期間の定めがあっても、単に契約期間が満了しただけでは賃貸人側から明け渡しを求めることができない場合があります。明け渡しを求めるにあたって正当事由が必要になります。
借地借家法は賃借人の保護を目的としており、店舗や事務所、倉庫などの建物賃貸借契約にも適用されます。契約期間が満了しても安心して使用を続けられるため、賃借人の安定した事業運営が可能となります。
権利その2:不相当な賃料の減額を請求できる
借地借家法第32条第1項にもとづき、賃料の不相当性が認められる場合には、賃料の調整を求めることが可能です。例えば、地域の不動産市場の相場が下がっているにもかかわらず、契約している賃料が相場に比べて不相当に高い場合、賃借人は賃料の減額を請求できる場合があります。
契約内容や経済状況の変動を定期的に確認し、適切な賃料設定を行うことが賃貸借契約の公平性を保つためにも重要です。
借地借家法にもとづいて賃料減額を請求できる条件を詳しく知りたい方は次のリンクをチェックしてください。賃料適正化の流れや交渉の注意点も解説しています。
借地借家法の適用範囲
借地借家法は、土地や建物の賃貸借契約に関する特別法であり、適用範囲について理解することが重要です。借地借家法は、特定の条件下で倉庫を含む建物や土地を借りる場合に適用され、賃貸人と賃借人の権利と義務を規定しています。以下では、具体的な適用範囲について詳しく解説します。
借地契約の場合の建物所有目的とは
土地を賃借する場合、「建物所有を目的とする」場合に借地借家法が適用されます。借地借家法の適用範囲における「建物所有を目的とする」の定義とは、借地を使用する主な目的が建物を所有することを意味します。単に土地に建物が建っているだけでなく、借地の利用目的の中心が建物を所有することが条件です。居住用建物、事務所ビル、賃貸建物などは要件を満たし、借地借家法の適用を受けます。
同様の考え方で、借地上に倉庫を建設して建物を主要な使用目的としている場合も借地借家法が適用されます。しかし、駐車場として土地を借り、付属施設として仮設の事務所や物置を設置している場合、建物所有が主要目的とはみなされず、借地借家法の適用はありません。借地権の目的が建物の所有でない場合、つまり土地に建物がない場合も同様に、借地借家法は適用されません。
正当な事由とは
土地の場合は借地借家法第6条、建物の場合は借地借家法第28条にもとづき、賃貸人が賃借人に立ち退きを求めるには「正当事由」が必要です。
建物賃貸借の場合の具体的な正当事由として、建物の老朽化による強度不足があります。建物が老朽化し、地震などの自然災害時に倒壊の恐れがある場合、安全性を確保するための建て替え計画があると、正当事由として認められることがあります。
次に、土地賃貸借の場合の正当事由として、賃貸人が土地をどうしても必要とする場合が挙げられます。例えば、賃貸人が土地に居住用の家を建てる必要がある場合です。また、賃借人に立ち退き料という名目で金銭的補償をしたことも、正当事由として考慮される場合があります。
その他、土地が再開発予定地に指定されている場合や、賃借人に過失がある場合なども正当な事由にあたります。再開発予定地の場合、賃借人に対して立ち退き料の支払いが必要ですが、土地所有者には行政から補償金が支払われます。

倉庫賃貸借契約の期間
倉庫賃貸借契約の期間は、普通借家契約と定期借家契約で異なります。
普通借家契約の存続期間は一般的に2〜3年で、契約満了後も自動的に更新されることが多いです。普通借家契約では借地借家法が適用されるため、賃貸人からの契約終了が難しくなります。そのため、賃貸人から更新を拒絶する正当事由がない場合、賃借人は希望する期間、契約を継続できることがあります。
一方、定期借家契約では、契約期間が予め定められており、契約期間満了とともに契約は終了します。再契約は双方の同意があれば可能ですが、賃借人が更新を希望しても賃貸人が同意しない場合は再契約できません。また、イベントなどの一時的な使用の場合も借地借家法の適用除外となるので注意が必要です。
倉庫の場合も、建物同様に賃貸人が正当な事由を示す場合、立ち退きを求められることがあるので、契約期間について理解を深めておくと良いでしょう。
倉庫の立ち退きを求められる主な理由
倉庫の立ち退きを求められる主な理由は、次の3つです。
以上の理由にもとづいて倉庫の立ち退きを求められる場合をそれぞれ詳しく解説します。
理由その1:賃貸人の都合による場合
倉庫の立ち退きを求められる主な理由として、賃貸人の都合による立ち退き要求が発生する場合が挙げられます。例えば次のようなケースです。
- 賃貸人の方針変更により建物の用途を変更する場合
- 賃貸人が変わったことによる建物使用の方針が変わる場合
賃貸人の都合による場合、事前勧告を行った上で立ち退きに応じる必要があります。
理由その2:賃借人の契約違反が原因の場合
賃借人の契約違反が原因で立ち退きを求められる場合があります。例えば以下のような行為は契約違反にあたり、立ち退きに応じる必要があります。
- 賃料の滞納
- 騒音などの迷惑行為
- 契約時と異なる用途での使用
- 賃貸人に許可なく改築した場合
違反があった場合には立ち退きに応じる必要がある上、立ち退きが遅れたことによる遅延損害金を請求されることもあるため、注意が必要です。
理由その3:予め契約期間が決まっている場合
定期借家契約など元々契約期間が決まっている場合、契約終了後は自動的に更新されません。契約期間満了により立ち退きを求められることが一般的です。契約期間終了時に定期借家契約が確実に終了することを前提としているためです。
契約期間満了後も引き続き物件を利用したい場合は、賃貸人と賃借人が双方納得の上で再契約を行う必要があります。したがって、再契約の条件や手続きについても事前に十分に確認しておくことが重要です。
定期借家契約について詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。店舗物件を定期借家契約で結ぶメリット・デメリット、注意点について解説しています。
貸倉庫の立ち退きを求められた場合の対処方法

貸倉庫の立ち退きを求められた場合の対処方法として、次の3つ紹介します。
それぞれの対処方法について詳しく解説します。
対処方法その1:賃貸人の都合による場合
賃貸人の都合による立ち退きの場合、所定の猶予期間を設けた勧告がなされていれば、立ち退きに応じなければならない可能性があります。賃貸人から賃借人への勧告は、退去日の1年前から6ヶ月前に行わなければなりません。
対処方法その2:賃借人の契約違反が原因の場合
賃借人の契約違反が原因で立ち退きを求められる場合、立ち退きを拒否することは困難となることがあります。賃料の滞納や無断での用途変更などが該当し、立ち退きを拒否できない上に、契約違約金や遅延損害金を請求される可能性もあります。
万が一違反があった場合、速やかに是正措置を取り、賃貸人との交渉を円滑に進める必要があります。契約違反を避けるために、普段から契約内容を十分に理解し、遵守することが重要です。ただし、契約違反に覚えのない場合は、法律の専門家などのアドバイスを受けることも検討しましょう。
対処方法その3:予め契約期間が決まっている場合
定期借家契約など、予め期限が決まっている場合、契約終了時には立ち退きを求められることが一般的です。ただし、継続して利用したい場合は、賃貸人と交渉し、双方が納得すれば再契約が可能となることがあります。契約期間満了前に再契約の意思を伝え、条件を確認することが重要です。
定期借家契約の場合は、期限が設定されている理由を確認すると良いでしょう。建物の取り壊しが決まっている場合などは、再契約が難しいかもしれません。しかし、単にマナーの悪い賃借人に居座られることを避けるために定期借家契約にしている場合もあります。この場合はルールを守っていれば再契約できる余地があります。
立ち退き以外に想定される問題点と解決策
立ち退き以外に想定される次の問題点について、解決策とあわせて紹介します。
適切な対処法を知ることで、契約条件の見直しや交渉を円滑に進めることができます。それぞれの問題点、解決策を見ていきましょう。
問題点その1:賃料の増額を請求された
地価の上昇や周辺の賃料よりも安い場合などの理由で、賃料の増額を請求されることがあります。建物賃貸借の場合、借地借家法第32条第1項にもとづき、賃貸人には賃料増額請求権が認められています。
増額請求を受けた際は、まず理由を確認し、正当な理由かどうかを冷静に見極めることが必要です。増額請求が正当であるかどうかは、経済事情や不動産市場の変動、周辺の賃料相場などをもとに判断されます。
賃料の増額請求について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。テナント賃料の値上げの要求に対する適切な対処法を解説しています。
問題点その2:周辺の相場に比べて賃料が高い
周辺の相場に比べて賃料が高い場合、不相当に高い賃料を支払っている可能性があります。
地価の下落により周辺の賃料が低下している場合、借地借家法にもとづいて賃料減額の請求ができる可能性があります。借地借家法の「事情変更の原則」によって、契約時と異なる新たな状況が発生した際には、賃料の見直しが認められることがあります。
まずは、周辺地域の賃料相場を調査し、支払っている賃料が適正かどうかを確認しましょう。例えば、地域の再開発の中止、近隣の賃料相場が下落している場合などが減額請求の有力な根拠となります。収集した情報をもとに賃料減額の交渉を行うことが重要です。
賃料の適正化を図るためには、専門家のサポートを利用することも有効です。賃料適正化のコンサルティングに興味がある方は以下の記事を参考にしてください。
まとめ
倉庫の賃貸借契約では、借地借家法が適用されることで賃借人の権利が守られ、不当な立ち退きや不相当な賃料の請求を防ぐことができます。ただし、契約の種類によって適用範囲が異なるため、契約内容を十分に確認することが重要です。また、賃貸人の都合や契約違反などで立ち退きを求められるケースもあるため、適切な対処方法を理解しておくと安心です。
賃料の増額や周辺相場との乖離が気になる場合は、適正な賃料を維持するための交渉が必要になります。状況に応じた賃料適正化の方法を知り、適切な対策を取ることで、経営リスクを軽減し、安定した事業運営が可能になります。
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【監修者】幸谷 泰造(弁護士)
東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。