法令・契約関連
定期建物賃貸借とは?店舗契約でのメリットや確認ポイントをわかりやすく解説

- 目次

定期建物賃貸借は普通建物賃貸借とは異なるため、賃貸人と賃借人双方の理解が求められます。
店舗管理を担当していて、以下のような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
- 定期建物賃貸借についてよく分からないので不安
- 定期建物賃貸借のメリットとデメリットを知りたい
- 定期建物賃貸借で注意すべき点は何かを知りたい
本記事では、定期建物賃貸借の特徴やメリット・デメリット、確認すべきポイントを紹介します。
定期建物賃貸借について理解を深めて、契約トラブルを回避しましょう。
定期建物賃貸借とは?
定期建物賃貸借とは、あらかじめ決められた期間を対象とした賃貸借契約のことで、借地借家法38条に基づいています。
通常、建物賃貸借契約は更新拒絶や解約する際に正当事由が必要であり、賃貸人は正当事由がなければ契約の更新を拒めません。このため、契約期間が不透明になる、賃料の改定が行えない、立退き料発生により収益が減少するなどが問題視されることもありました。
こうした中、1999年12月9日に借地借家法を改正して定期建物賃貸借制度を導入することが決定し、2000年3月1日に施行されました。
定期建物賃貸借契約を結ぶことで確定的に契約が終了するため、契約期間や収益見通しが明確になり、賃貸人は安定した賃貸経営が可能となりました。
また、審査が比較的通りやすい、賃料が安い傾向にあるなど、賃借人にもメリットがある契約といえます。
定期建物賃貸借の特徴4つ
契約を交わす前に、定期建物賃貸借の特徴をしっかりと把握することが大切です。
定期建物賃貸借の特徴は、以下の4つです。
詳しく解説します。
契約の期間が明確に定められている
定期建物賃貸借は、契約期間がはっきりと決められているのが大きな特徴です。契約期間を自由に設定できるため、1年に満たない月単位や週単位での期間でも有効となります。
建築物の老朽化による取り壊しや建て替えを計画的に行ったり、退去のための立ち退き交渉の手間を省けたりと、賃貸人側にとっては大きな利点になるでしょう。
また、マナーの悪い賃借人が長期間入居することも回避できます。マナーの悪い賃借人が退去することで、必然的に居住環境が良くなり安心して過ごせるでしょう。
事業用物件では店舗が定期的に入れ替わることで、常に魅力のある売り場を保つことが可能です。また、短期での出店を希望している場合にも最適な契約となるでしょう。
このように契約期間が決まっていることは、賃貸人だけでなく賃借人にもメリットがあります。
契約の更新がない
定期建物賃貸借は、契約更新できないのも特徴です。ただし、賃貸人と賃借人が合意すれば再契約はできます。
期間内に手続きを済ませて再契約すれば退去する必要はなく、引き続き同じ物件を継続して利用することが可能です。
注意点として、契約期間中に賃料滞納したり、何らかのトラブルを起こしたりすると賃貸人からの信用を失い、再契約が認められない場合もあります。
また、再契約は更新ではなく新たに契約を結び直すことであるため、今までと同じ条件とは限りません。賃料の値上げや利用条件が変更される可能性があります。
再契約料や契約書発行料など追加費用を請求される場合もあるため、再契約の条件や費用について事前に確認しておくことが大切です。
賃料増減額請求権が認められない場合もある
定期建物賃貸借は、特約によって賃料増減額請求権が排除される場合があります。
賃料増減額請求権とは、地価変動などによって賃料が適切ではなくなった場合に、賃料を合理的な金額に改定する権利のことです。例えば、低すぎる賃料の増額や、高すぎる賃料の減額を請求することが可能です。
しかし、契約書に「賃料の減額は行わない」旨の文言が記載されていた場合、賃借人はその特約に従わなければいけません。つまり、賃借人は契約期間中に賃料の減額請求ができないのです。
契約を結ぶ前に、契約書に賃料増減額請求権の排除について記載があるか確認しましょう。
賃料増減額請求権について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
原則として中途解約ができない
通常の賃貸借契約は、賃借人の意思志でいつでも中途解約を要求できますが、定期建物賃貸借契約は原則として賃貸借契約期間中に中途解約はできません。
なぜなら、賃貸借契約期間中の中途解約を認めると、残りの賃料を受け取れないなど賃貸人にとって不利な契約となるためです。しかし、期間中であっても中途解約を認める旨の特約があれば、中途解約の申出申請ができます。
また、特約がなくとも以下の全ての条件を満たすことで、中途解約権の行使も可能です。
- 物件を居住目的で使用している
- 物件の床面積が200㎡未満である
- やむを得ない事情が発生し、契約を続けることが難しい
物件を事業用として借りている場合は、中途解約権が認められないので注意してください。

定期建物賃貸借と普通建物賃貸借の違い
定期建物賃貸借と普通建物賃貸借の違いについて、表で項目ごとに分かりやすくまとめました。
定期建物賃貸借 | 普通建物賃貸借 | |
契約方法 | 1.書面による契約が必要 2.契約書等とは別に「更新はされず、期間の満了により終了する」旨を書面に記載し、賃借人への説明が必要 | 書面、口頭での契約のどちらでも可能 |
更新の有無 | 期間が終了すると、更新はできない(再契約は可能) | 更新できる |
契約期間 | 1年未満の契約も有効となる | 1年未満の契約の場合は、期間の定めがなくなる |
賃借料の増減 | 特約の定めに従う | 特約にかかわらず、賃借料の減額を請求できる |
中途解約の可否 | 1.床面積200㎡未満の居住用建物であり、借家人が転勤、療養、親族の介護などのやむを得ない事情により、建物を生活の本拠として使用継続が難しい場合、中途解約の申し出が可能となる 2.中途解約に関する特約があれば、その定めに従う | 特約があれば、その定めに従う |
定期建物賃貸借と普通建物賃貸借では、契約方法や更新の有無など様々な面で違いがあります。
普通建物賃貸借契約は賃借人を、定期建物賃貸借契約は賃貸人を保護する意味合いが強い制度と考えると分かりやすいです。
定期建物賃貸借契約の成立要件4つ
定期建物賃貸借契約を締結させるには様々な条件があり、きちんと満たさないと契約として成立しない場合があります。
定期建物賃貸借契約の成立要件は、以下の4つです。
詳しく解説します。
契約期間を定める
定期建物賃貸借契約は必ず期間を定めなければならず、契約書に契約期間の明記が必要です。例えば、建物を「1年間に限って賃貸借する」というように記載すれば契約が成立します。
一方、契約期間を「開店日から3年間」「賃借人が死亡するまで」などにすると、期間が明確にならないため契約が成立しません。このように不確定な期限を定められていると、契約が無効になる恐れがあります。
期間が明確にされているため、賃借人は店舗の運営計画を立てやすいという利点があります。
契約の更新がされないことを明記する
定期建物賃貸借契約を成立させるには、契約更新がないことの記述が必要です。そのため、契約書に「契約の更新はなく、期間満了をもって契約は終了する」旨の文言を記載することが求められます。
契約更新はできませんが、再契約は可能なので再契約に関する文言も追加できます。この際に、再契約を原則とする趣旨の文言を入れてしまうと、更新を否定する条項と矛盾が生じて契約が成立しません。
あくまでも、賃貸人と賃借人が納得した場合のみ再契約が認められる旨の文言が適切です。
賃借人への事前説明が必要
定期建物賃貸借契約の成立には、契約前に賃貸人から賃借人に対して更新がない旨を記載した書面を交付し、口頭での説明が必要です。なお、契約書とは別に説明文が記載された書面でなければなりません。
説明義務の目的は、賃借人に定期建物賃貸借契約の内容を正しく理解してもらうことにあります。
事前説明は賃貸人に課せられた義務ですが、仲介者が代理権を授与されたうえで、代理人として説明することは認められています。そのため、仲介業者が間に入って契約するケースもあります。
もし、賃貸人や代理人から事前説明がなかった場合、契約は無効です。
書面により契約する
定期建物賃貸借契約を結ぶ際、口頭での契約は無効となるので必ず公正証書等の書面で行わなければなりません。
ただし、必ずしも公正証書の作成が必要という訳ではなく、一般の書面でも契約することが可能です。
公正証書の作成には、公証役場で公証人とやりとりするため時間がかかるうえ手数料が発生します。そのため、わざわざ公正証書を作成して契約するケースは少ないでしょう。
書面を交付されたら、内容をしっかりと読み込んで納得してからサイン・押印しましょう。
定期建物賃貸借のメリットとデメリット

定期建物賃貸借契約すると、賃借人にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、定期建物賃貸借のメリットとデメリットを紹介します。
定期建物賃貸借のメリット
定期建物賃貸借の大きなメリットとして、賃料が安めな傾向にある点、審査が通りやすい点が挙げられます。
定期建物賃貸借は契約期間が明確に決められており、長期間にわたって事業をしたい賃借人から避けられることがあります。そこで、物件の空きがないように賃料を安く設定して呼び込むケースがあり、結果として割安で借りることが可能です。
例えば、人気の商業施設や駅ビルなど賃料が高く設定されている物件でも、定期建物賃貸借契約であれば安く借りられる場合があります。
定期建物賃貸借契約は更新できないため、更新料の支払いが発生しません。契約期間が3年や5年など長期間となっても更新料を支払わなくて良いので、賃借人の経済的負担が軽くなります。
また、何か問題が生じても、契約期間が終了すれば退去となるため、入居時の審査を甘めにしているケースもあります。創業間もない、資金が乏しいなど、信用力に自信がない場合も審査に通過できる可能性があるのは魅力的でしょう。
定期建物賃貸借のデメリット
定期建物賃貸借のデメリットは、物件を気に入ったとしても更新ができず、賃貸人が再契約に応じない限りは退去しなければならない点です。
賃貸人が定期建物賃貸借契約にする理由として、建物建て替えなどの計画がある、迷惑行為をする賃借人が長居するリスクを避けたい、などが挙げられます。
賃貸人と賃借人双方の合意があれば再契約できますが、最初の契約とは異なる条件を提示される可能性があります。
なぜなら、賃貸人は賃料などの条件を変更できるからです。場合によっては、普通建物賃貸借契約よりもコストアップする恐れがあります。
賃貸人が定期建物賃貸借にしている理由を確認し、契約期間が終了した後のことを考えておくことが大切です。
定期建物賃貸借契約で確認すべきポイント4選
定期建物賃貸借契約を締結する前に、確認しておくべきポイントを押さえておくとトラブルを回避できます。
定期建物賃貸借契約で確認すべきポイントは、以下の4つです。
詳しく解説します。
契約期間
定期建物賃貸借契約を締結する際に、契約期間がいつまでなのかを確認することが大切です。
店舗として物件を借りる場合、内装工事など設備投資が必要なケースもあるでしょう。店舗の運営計画は、投資の回収とその後の収益を見込んで立てなければなりません。
契約期間が短いと、投資回収が終わってから利益が出始めたところで契約終了となる可能性があります。
一方で、定期建物賃貸借契約は新商品のプロモーションやブランド認知拡大を目的として、ポップアップストアを短期間出店する際に利用しやすいという利点もあります。
契約期間がどのくらいなのか把握したうえで、店舗の開店時期や閉店時期、投資回収と収益見込みといった運営計画を立てましょう。
再契約の可否
定期建物賃貸借は契約更新できませんが、特約として再契約が可能なので再契約に関する文言が記載されているか確認しましょう。
例えば、建物の取り壊しや建て直しなどが理由で定期建物賃貸借契約となっている場合は、再契約することは難しいです。
一方、賃借人とのトラブル回避のために定期建物賃貸借契約にしている場合は、問題がなければ再契約を可能としているケースもあります。
ただし、再契約は更新ではないので新しく契約を締結することになり、賃貸人によって賃料など条件が変更される可能性があります。
トラブル回避のために、契約を交わす前に再契約の可否や再契約後の条件について必ず確認しましょう。
期間終了前の通知
定期建物賃貸借では契約期間が1年以上の場合、期間満了の1年から6ヶ月前までの間に賃貸人から賃借人に対して契約終了の通知を行う義務があります。ただし、契約期間が1年未満の場合は、通知する必要はありません。
法律上では口頭での通知も問題はないとされていますが、言った言わないのトラブルが発生する可能性があります。そのため、書面で行われるケースがほとんどです。
書面は郵便やメールで送られてきますので、賃貸人から書面を渡されたら受領したことを示すサインや押印をして、書面を送付しましょう。
もし、口頭で通知された場合は、トラブル回避のために書面での通知を求めると良いです。
原状回復の範囲
定期建物賃貸借契約でも、退去する際には賃借人が原状回復する義務が生じます。そのため、最初に物件を借りた時と同じ状態にして、明け渡しをしなければなりません。
事業のために物件を借りていた場合、内装の取り壊しや床の修復、設備の復旧など原状回復の範囲が広くなり、工事費もかさむ可能性があります。
契約書の記載内容によっては、経年劣化や通常損消耗による汚損に関しても原状回復を求められ、費用も賃借人がすべて負担しなければなりません。
事業用に物件を借りる際、契約書に記載されている原状回復に関する内容をしっかりと確認しましょう。
定期建物賃貸借の契約前には専門家への相談がおすすめ
定期建物賃貸借は、契約期間が明確に決められているうえ更新ができない代わりに、賃料が比較的低めに設定されており、更新料が発生しないといったメリットがあります。
しかし、再契約となった際に賃料の増額など条件が変更される可能性があることを留意すべきです。
このまま定期建物賃貸借契約を結んで良いのかと不安を感じたら、賃料交渉に特化したプロに相談しましょう。
専門的なコンサルティングサービスを利用することで、賃貸人との関係性を保ちながら最適な賃貸借契約を結ぶことができる可能性があります。
また、専門家は定期建物賃貸借契約や賃料に関する正しい知識を持っており、客観的な立場でサポートしてくれます。複雑な書類業務も請け負っているため、通常業務に支障をきたす心配も少ないです。
賃料適正化コンサルティングが気になった方は、次の記事を参考にしてください。専門的なコンサルティングがもたらす効果や導入の注意点を詳しく解説しています。
定期建物賃貸借を理解して契約トラブルを防ごう
本記事では、定期建物賃貸借の特徴や普通建物賃貸借との違い、定期建物賃貸借のメリットデメリットなどについて詳しく解説しました。
定期建物賃貸借は、契約期間が明確に決められていますが、賃料が安くなる傾向にあるため初期コストを抑えられる可能性があります。しかし、契約更新ができない、賃料増減額請求権が認められない場合もあることに注意しましょう。定期建物賃貸借を理解し、契約書の内容をしっかりと把握することで、契約トラブルを防げます。
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【監修者】幸谷 泰造(弁護士)
東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。