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借地借家法とは?店舗・オフィスの賃貸借契約にかかわるポイントもわかりやすく解説
- 目次
借地借家法は、店舗やオフィスの賃貸借契約を適切に結ぶ上で重要な法律です。契約管理を担当する方の中には、以下のような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
- 複数の店舗やオフィスの運営において、契約関連のリスクを減らしたい
- 賃貸借契約や更新を行う際の法的な知識不足によるトラブルが増えている
- 借地借家法を基礎から学んで実務に活かしたいが、まとまった勉強時間を確保できない
本記事では、借地借家法の基礎知識や、店舗やオフィスの賃貸借契約にかかわる重要なポイントをわかりやすく解説します。適切な賃貸借契約の締結に向けて、ぜひお役立てください。
借地借家法とは
借地借家法とは、土地や建物の賃貸借に関する基本的なルールを定めた法律で、読み方は「しゃくちしゃっかほう」です。借地借家法は、賃貸人と賃借人両方の権利や義務を明確にし、主に賃貸借契約関連のトラブルを減らすために制定されました。
特に、賃借人が不利な立場に立たされることがないよう、契約の最短期間や更新、解約条件などのルールが細かく規定されています。例えば、賃貸借契約の途中で賃貸人から一方的に契約を解約除されることを防ぐため、賃借人の権利を強く保護する仕組みが整えられています。
借地借家法が定められた背景
借地借家法が定められた背景には、戦後の住宅不足や地価の急激な高騰があります。
当時、賃貸借契約において、不当に賃料を釣り上げられるなど賃借人が不利な立場に立たされるケースが多く見られました。賃借人の不利な立場を解消するために、賃借人の権利を保護し、不公平な契約条件を防ぐことを目的として借地借家法が制定されたのです。
借地借家法により、賃貸人と賃借人の関係が法的に明確化され、賃借人が安心して賃貸借契約を結びやすくなりました。
借地借家法の旧法と新法
借地借家法は、1991年に「借地法」と「借家法」を一本化し、効率的な法律運用を実現しました。
旧法では、借地と借家に関する法律が別々に存在していましたが、新法の借地借家法においては2つの法律が統合され、より包括的な規定が設けられました。新法では、定期借地権や定期借家権などの新しい制度が導入され、現代のニーズに対応した法整備が行われています。
また、旧法に基づく契約には引き続き旧法が適用されるなど、既存の契約に影響を与えないような配慮もされています。
借地借家法の歴史
借地借家法は、1921年に制定された「借地法」と「借家法」が起源です。2つの法律が制定された後は時代のニーズに合わせて改正が行われ、1991年に「借地法」と「借家法」を統合して「借地借家法」が制定されました。借地借家法の施行日は1992年8月1日です。
さらに、2022年には、デジタル化の進展に伴い、電磁的記録による契約が一部で可能となる改正が行われました。借地借家法は時代とともに進化を続け、賃借人と賃貸人の権利を保護する役割を果たしています。
借地借家法の主な改正履歴は次の通りです。
年 | 制定・改正内容 |
1909年 | 建物保護ニ関スル法律制定(借地権保護の起源) |
1921年 | 「借地法」と「借家法」制定(借地人・借家人の権利保護) |
1941年 | 借地法改正(正当事由なしの契約更新拒否を禁止) |
1966年 | 借地法改正(借地権の譲渡や転貸が裁判所の承認で可能に) |
1991年 | 借地借家法制定(借地法と借家法を統合し、定期借地権を創設) |
2022年 | 借地借家法改正(38条2項の改正により、電磁的記録での契約が一部可能に) |
賃貸借契約において借地借家法の理解が重要な理由
店舗やオフィスの賃貸借契約において、借地借家法の理解が欠かせない理由は次の3つです。
それぞれの理由を見ていきましょう。
理由その1:権利の保護
借地借家法を理解することで、賃借人の権利を保護することができます。借地借家法は、特に賃貸人に比べて交渉力が弱いとされる賃借人を守るために制定されました。
例えば、契約更新時に賃貸人が不当な条件を提示した場合でも、借地借家法に基づいて適切に対応することで、賃借人の権利を守れるでしょう。また、契約期間中に賃貸人から突然の契約の解約を要求された場合でも、法律による正当な理由がない限り、契約の解約は認められません。
借地借家法に精通していることで、賃借人は不当な要求や行動から自分を守り、安心して土地や建物を利用できるでしょう。
理由その2:トラブルの回避
借地借家法に基づいた契約を結ぶことで、将来的なトラブルを未然に防げることがあります。
借地借家法は、賃貸借契約における双方の権利と義務を明確に規定しており、例えば賃貸人による不当な契約の解約や賃料の一方的な値上げを防げます。また、契約書に記載された条項が法的に適正であるかどうかを確認することで、後々発生し得る紛争やトラブルを事前に回避可能です。
賃借人が契約時に法的保護を受けることは、契約後に発生する可能性のある問題を未然に防ぎやすくなります。借地借家法により、賃貸借関係が円滑に進み、双方にとって安心できる環境が保たれるでしょう。
理由その3:賃料の交渉力の向上
借地借家法を理解することで、賃貸人との交渉力が向上します。
借地借家法は、賃料の適正化や賃貸条件の透明性を確保するための規定が設けられており、賃借人が不利な立場に立たされることを防ぎます。
例えば、賃貸人から不当な賃料の引き上げを要求された場合でも、借地借家法に基づいて合理的な主張を行うことで、適正賃料の維持が可能となるでしょう。さらに、契約条件の見直しにおいても、法律に裏付けられた交渉が行えるため、賃借人にとって有利な条件を引き出せます。
借地借家法の知識を持つことは、賃借人が賃貸人との交渉において、弱い立場に甘んじないためにも重要です。賃料や契約条件の交渉力を高めることで、長期的に安定した賃貸借関係を築けるでしょう。
賃料の減額交渉に興味がある方は、次の記事も参考にしてください。賃料を減額交渉するための準備や交渉時の注意点を詳しく解説しています。
土地に関する借地借家法のポイント
適切に店舗やオフィスの賃貸借契約を締結するためにも、土地に関する借地借家法の条文をおさえておくと良いでしょう。土地に関する借地借家法のポイントは次の6つです。
それぞれのポイントを詳しく解説します。
ポイントその1:普通借地権と定期借地権
借地借家法に基づく土地の賃貸借契約には、「普通借地権」と「定期借地権」の2種類があります。
普通借地権は、契約期間が満了しても更新が可能であり、契約を更新し続ければ半永久的に土地を借り続けられるでしょう。一方、定期借地権は契約期間が決まっており、契約期間が満了すると更新はされず、借地権者は土地を返還する必要があります。
定期借地権には「一般定期借地権」や「事業用定期借地権」などがあり、それぞれ契約期間や用途が異なります。借地の目的や契約期間に応じて、適切な借地権を選ぶことが重要です。
ポイントその2:借地契約に借地借家法が適用されるケース
借地借家法は、すべての土地賃貸借契約に適用されるとは限りません。主に「建物の所有を目的とする土地の賃貸借」に適用されます。
例えば、建物を建てるために土地を借りる場合、契約の更新や賃料の増減などの借地借家法の規定が適用されます。しかし、駐車場や農地など、建物所有を目的としない土地賃貸借には適用されません。
従って、土地の利用目的に応じて、借地借家法が適用されるかどうかを確認することが重要です。
ポイントその3: 借地権の期間
借地権の存続期間は、借地借家法によって明確に定められています。
普通借地権の場合、初回の存続期間は最短で30年と定められており、更新時には20年、次回以降は10年といった形で延長されます。一方、定期借地権では、契約期間が終わると更新されず、土地は地主に返還されるのです。
借地借家法により、借地契約の期間がどれくらい続くかを事前に把握でき、将来の計画を立てやすくなります。契約を更新し続ける限り、借地権は維持されるため、長期的な土地利用が可能です。
ポイントその4:借地権の更新を拒む理由
借地借家法では、借地権の更新を拒むためには正当な理由が必要とされています。
正当事由には、地主が土地を必要とする事情や土地の利用状況が含まれます。また、地主が借地権者に対して土地の明け渡しと引き換えに財産上の給付をする申し出をした場合も、更新を拒む理由と認められるでしょう。
更新を拒むには正当な理由が必要であり、地主側にも負担が伴うため、借地権者の権利が保護されています。
ポイントその5:借地権の対抗要件
借地権を第三者に対して主張するためには、一定の対抗要件を満たす必要があります。
借地借家法によれば、借地権の対抗要件として、借地上に建物が存在し、建物が借地権者名義で登記されていることが求められます。地主が変わった場合でも、借地権者は新たな地主に対して借地権を主張できるでしょう。
ただし、建物が他人名義で登記されている場合は、対抗力が認められないため、借地権者は注意が必要です。
ポイントその6:土地の賃料の増減額請求
借地借家法では、土地の賃料を増減させる際の手続きについても規定されています。
経済状況の変動や土地の価格変動などにより、賃料が不相当になった場合、賃貸人または賃借人は賃料の増減を請求できる場合があります。もし当事者間で交渉が決裂した場合は、裁判所での判断を求めることも可能です。
借地借家法では、賃料の適正化を図るための手段が用意されており、経済情勢に応じて契約内容を見直せます。
建物に関する借地借家法のポイント
店舗やオフィスの賃貸借契約を是正するためにも、建物に関する借地借家法の条文をおさえておきましょう。建物に関する借地借家法のポイントは次の7つです。
それぞれのポイントを見ていきましょう。
ポイントその1:建物賃貸借に借地借家法が適用されるケース
借地借家法は、建物の賃貸借契約に広く適用されます。土地の賃貸借契約とは異なり、建物を借りる場合には、ほとんどのケースで借地借家法が適用されるでしょう。
建物の賃貸借においては、契約期間の定め、賃料の増減、契約更新の手続きなど、借地借家法の規定が重要な役割を果たします。借地借家法の規定により、賃借人の権利が保護されるため、賃貸人との間での公平な契約を結ぶことが可能になります。
ポイントその2:建物の賃貸期間
借地借家法では、賃貸期間が1年未満の契約は、期間の定めがないものとみなされます。多くの建物賃貸借契約では2年契約が一般的で、更新が自動的に行われるケースが多いです。
賃貸人が契約を更新をしない場合や条件を変更したい場合は、期間が満了する1年前から6ヶ月前までに通知が必要です。借地借家法の規定により、契約の継続性が確保され、賃借人は長期間にわたって建物を使用することが可能です。
ポイントその3:更新拒絶と解約の手続き
建物の賃貸借契約において、賃貸人が契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりする時には、正当な事由が必要です。
借地借家法に基づき、賃貸人は契約期間が満了する1年前から6ヶ月前までの間に更新拒絶の通知を行う必要があります。解約の場合は、解約申し入れの日から6ヶ月経過することで契約が終了します。
ただし、更新拒絶や解約の手続きには、賃貸人の正当な事由が必要であり、簡単に契約を終了させることはできません。
ポイントその4:建物賃貸借の対抗要件
建物賃貸借契約の対抗要件は、借地借家法31条1項に定められています。
具体的には、建物が引き渡されれば、登記がなくても賃借人は借りている建物に対して引渡し後に建物の物権を取得した第三者に賃貸借を主張できます。
借地借家法の規定により、賃借人は契約をより確実に保護でき、第三者からの不当な請求を防ぐことが可能です。
ポイントその5:建物の賃料の増減額請求
借地借家法第32条に基づき、賃貸人と賃借人は次のようなケースにおいて賃料の増減を請求する権利があります。
- 建物の賃料が租税やその他の負担の増減があった場合
- 土地や建物の価格変動
- 経済事情の変化などにより不相当となった場合
例えば、経済環境の変動や地域の開発により賃料が市場価値と大きく乖離することがあります。賃料の乖離が生じた場合は、まず周辺の賃料相場を正確に把握することが重要です。
地域の賃料相場を調査し、得られたデータを基に賃料の増減を検討することで、適正な賃料を設定できる可能性があります。
ただし、特定の期間に賃料の増減額をしないという特約がある場合は、特約に従い増減が制限される点に注意が必要です。
また、借地借家法に基づいて賃貸人から賃料の増額を求められる場合もあります。しかし、不当な値上げ要求は正当な事由に該当しないため、増額を拒否したり、値上げ幅をおさえる交渉を行ったりすることが可能です。
借地借家法を理解することで、賃借人は不当な賃料の支払いを回避し、公正な賃貸借契約を維持するための交渉力を持てます。
賃料増減請求権に興味がある方は次の記事を参考にしてください。借地借家法32条の賃料増減請求権を詳しく解説しています。
ポイントその6:定期借家契約の利用方法
借地借家法第38条に基づく定期借家契約は、契約期間が明確に定められています。通常の賃貸借契約とは異なり、契約期間終了後には自動更新が行われない契約形態です。店舗物件においては、あらかじめ期間が決まっている分、賃料が比較的低く設定されるのが一般的です。
しかし、物件を継続して使用したい場合には注意が必要です。契約期間が終了した際に、引き続き借りている物件を利用するには、賃貸人の同意を得た上で再契約が必要となる場合があります。再契約の条件として新たな契約料や手数料が発生する可能性もあるため、事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
定期借家契約を上手に利用すると、物件選びの幅を広げつつ、コスト面でのメリットを享受することが可能です。ただし、再契約の際の手続きや費用に関しては、あらかじめ賃貸人と十分な打ち合わせを行い、トラブルを避けることが大切です。
店舗物件の定期借家契約に興味がある方は次の記事を参考にしてください。定期借家契約のメリットとデメリット、契約の注意点を詳しく解説しています。
ポイントその7:立ち退きの正当事由
建物の賃貸借契約において、賃貸人が賃借人に立ち退きを求める際には、借地借家法第28条に規定される正当な事由が必要です。
28条の正当事由には、建物の老朽化や賃貸人自身の土地利用の必要性といった理由が含まれますが、賃貸借契約の経過や建物の現況、利用状況なども考慮されます。さらに、賃貸人が賃借人に対して適切な立ち退き料を支払う提案をした場合も正当事由の判断材料となります。
賃貸人が一方的に立ち退きを要求することはできず、正当な事由があると認められなければなりません。借地借家法の規定により、賃借人の権利が強力に保護されており、不当な立ち退きから賃借人を守る仕組みが整っています。
賃借人は賃貸人からの立ち退き要求に対して、自らの権利を主張し、適切な対応を求めることが可能です。借地借家法による保護の下で、安心して賃貸借契約を結べるでしょう。
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借地借家法を理解して適切な賃貸借契約を結ぼう
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東京大学大学院情報理工学系研究科修了。ソニー株式会社で会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所で企業法務に従事。一棟アパートを所有する不動産投資家でもあり、不動産に関する知識を有する法律家として不動産に関する法律記事の作成や監修、大手契約書サイトにおいて不動産関連の契約書の監修を行っている。