契約書の管理&電子化
賃貸借契約書の保管期間はいつまで?保管方法と電子化のメリット
賃貸物件を借りるために契約する「賃貸借契約書」は、敷金や重要事項などがまとめられている契約書です。その賃貸借契約書は、法的にいつまで保管しておくことが求められるのでしょうか?
本コラムでは賃借人が保管すべき契約書類の保管期間や保管方法、電子契約書のメリットについて解説します。
法人における賃貸借契約書の保管期間
貸主が借主に対して発行する賃貸借契約書は、いつまで保管すべきなのでしょうか?ここでは法人における賃貸借契約書の保管期間について詳しく解説いたします。
法律で決められた保管期間
不動産取引において、物件を借りる場合は賃貸借契約書の発行は不可欠です。しかし、賃貸借契約書の保管期間を明確に規定した法律はありません。
法人税法によれば、法人における契約書の保管期間は7年間と定められています。この7年間というのは、発行されてから数えるのではなく、法人税の申告期限から7年です。理由としては税務調査を7年以上さかのぼって調査することはないためです。ただし例外として、赤字を繰り越す場合には契約書の保管期間は10年まで延長されます。その間に賃貸借契約書を紛失しないよう管理する必要があります。
会社法によれば、会社の事業に関わる重要書類となる場合、10年間の保存が義務付けられています。賃貸借契約書が重要書類に該当するようであればこちらの規定が当てはまります。
保管しておいたほうが良い期間
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民法における一般債務の消滅時効は10年となっていることから、万が一のトラブルに備えて10年間は賃貸借契約書を保管しておきましょう。法律で定められている保管期間を守らないと、罰則が与えられる可能性があるため注意が必要です。
賃貸借契約書の電子化
賃貸借契約書などの重要な書類は、正しく保管しておき、いざという時の証拠として残しておく必要があります。しかし紙の契約書では、オフィス内にスペースを取ってしまい、保管場所に困るケースがあります。
そんな時におすすめなのが、書類の電子化です。電子化を行えば、保管場所に困る心配がありません。賃貸借契約書の電子化について、詳しく解説していきます。
賃貸借契約書の電子化の現状
社会のDX化の流れに伴い、不動産関連書類の契約にも電子化の流れが訪れており、電子契約であっても、紙の契約書と同じ効力を持つ書類として扱えるよう法律が整備されてきています。
2021年9月に施行された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により、多くの法律において、書面化や押印の義務が原則廃止となりました。賃貸借契約書は2022年5月18日に電子契約での保管や契約が認められるようになりました。他にも、重要事項説明書、媒介契約書、定期借地権設定契約書、定期建物賃借契約書など、不動産関連の電子契約化が進んでいます。これまでの不動産業界は、紙での契約書作成や押印が義務付けられている契約形態でした。従来と比較すると、現在は大きな変化が訪れたと言えるでしょう。
電子データによる保存方法
賃貸借契約書は紙媒体と電子データ、いずれかの形態で発行され、それに伴い適切な対応で保管する必要があります。どちらの形態で発行されるか、貸主に委ねられることになるので、事前に確認しておきましょう。
電子取引(電子交付)による保存を行う場合は、電子データとして送られてきたものは電子データとして保存する義務があります。
また紙の契約書の場合は、スキャンしてPDFなどのファイルにしておけば、電子データとして保管しておくことも可能です。
スキャナ保存する場合の要件は2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法により、以下の表のように定められています。重要書類とは資金や物の流れに直結する書類(例:契約書、納品書、請求書、領収書)で、一般書類は資金や物の流れに直結しない書類(例:見積書、注文書、検収書)を指します。賃貸借契約書は以下の表では重要書類にあたります。
スキャナ保存の要件としては、大きくタイムスタンプの付与と検索機能の確保が挙げられます。タイムスタンプは、最長2ヶ月と概ね7営業日以内に付与する必要があります。データの修正や削除の履歴が残ったり、入力期限内にデータ保存したことが確認できたりするクラウドサービスを利用する場合は、タイムスタンプ自体が不要です。
スキャナ保存の要件 | 重要書類 | 一般書類 | 過去分重要書類*1 |
---|---|---|---|
入力期間の制限 *2 | ○ | ||
一定水準以上の 解像度による読み取り *3 | ○ | ○ | ○ |
カラー画像による読み取り *4 | ○ | ※1 | ○ |
タイムスタンプの付与 | ○※2 | ○※3 | ○※3 |
解像度及び階調情報の保存 | ○ | ○ | ○ |
大きさ情報の保存 | ○※4 | ○ | |
バージョン管理 *5 | ○ | ○ | ○ |
入力者等情報の確認 | ○ | ○ | ○ |
スキャン文書と帳簿との 相互関連性の保持 | ○ | ○ | ○ |
見読可能装置の備付け *6 | ○ | ○※1 | ○ |
整然・明瞭出力 | ○ | ○ | ○ |
電子計算機処理システムの 開発関係書類等の備付け | ○ | ○ | ○ |
検索機能の確保 | ○ | ○ | ○ |
その他 | ※5.6 |
*1:過去分重要書類とは、スキャナ保存制度により国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えている保存義務者であって、その当該国税関係書類の保存に代える日前に作成又は受領した重要書類をいう。
*2:書類の受領等後又は業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに入力
*3:解像度200dpi以上
*4:赤・緑・青それぞれ256階調(約1677万色)以上
*5:訂正又は削除の事実及び内容の確認
*6:14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識等
※1 一般書類の場合、カラー画像ではなくグレースケールでの保存可。
※2 入力事項を電子帳簿保存法施行規則第2条第6項第1号イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、その確認をもってタイムスタンプの付与に代えることができる。
※3 当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、タイムスタンプの付与に代えることができる。
※4 受領者等が読み取る場合、A4以下の書類の大きさに関する情報は保存不要。
※5 過去分重要書類については当該電磁的記録の保存に併せて、当該電磁的記録の作成及び保存に関する事務の手続を明らかにした書類(当該事務の責任者が定められているものに限られます。)の備付けが必要。
※6 過去分重要書類については所轄税務署長等宛に適用届出書の提出が必要。
貸主からの電子取引(電子交付)に対応するために
貸主から電子取引(電子交付)として、賃貸借契約書の発行が行われた場合、どのように対応するのが適切なのでしょうか?ここでは電子取引に対応するために必要な電子データの保存要件や、対応の猶予期間について解説していきます。
電子取引における電子データ保存の要件
不動産業界でも、電子取引で賃貸借契約書を発行する傾向が強まっています。基本的に電子データとして送られてきたものに関しては、電子データとして保存する義務があるので、正しい方法で保管しなければなりません。電子取引のデータ保存には、以下の要件を満たすことが求められます。
電子取引の保存要件 | |
---|---|
真実性の要件 | 以下の措置のいずれかを行うこと
|
可視性の要件 | 保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、 ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと |
電子計算機処理システムの概要書を備え付けること | |
検索機能を確保すること ※1 |
※1 ①取引年月日、取引金額、取引先により検索できること、②日付又は金額の範囲指定により検索できること、③二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できることを指す。ただし、保存義務者が、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合、②③は不要。また、売上高が 1,000万円以下の事業者については、同じくダウンロードの求めに応じることができるようにしていれば、検索機能は不要。
義務化は2024年1月1日まで猶予されている
電子帳簿保存法の改正により、電子取引は電子による保存が義務化され、紙に印刷して保存することができなくなりました。しかし、電子取引に対応できるシステムの構築が必要になるため対応できない企業も多く、義務化には2年間の猶予期間が設けられることになりました。 2023年12 月31 日までに行う電子取引については、電子データを紙でプリントアウトして保存することも認められています。2024年1月からは電子データ保存のみとなりますので、早めに対応できるようにしましょう。
国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-095_03.pdf